ⅩⅧ
「し、子爵……さま……?」
「はい。まだ至らぬ若輩の身ではございますが……」
つい聞き返してしまえば、そんな言葉とともに再び頭を下げられる
よく見れば彼女の右手の指輪にはおそらく家紋であるのだろう聖騎士卿の鎧にあるものと同じ紋章が刻まれていた
ようやく事態を飲み込んだ衛兵たちの顔はどんどんと青ざめていく
彼女は先程貴族のご令嬢であるどころか領主であると名乗った
それだけでも大変畏れ多いというのに、それがかの聖騎士卿の姪御であり、本家の当主
つまりその家内での立場は聖騎士卿よりも上にあたるということでもあるのだ
そこまで思い当たったのち、そういえば、と長の男は思い出す
聖騎士卿には嘘か真かわからない噂話があった
彼は早くに両親を亡くしてしまった兄の娘を実の妹や娘同然に可愛がっているのだというのだ
ーーわたくしは先日14になったんですよ?
ーー14なんてまだ……
聖騎士卿とよく似た色の少女の瞳を眺めながら、男は先程の彼らのやりとりを反芻する
しばらく会わないうちにひとり立ちをし、自分から離れていく姪御に寂しさを覚え、その姪は幼い子ども扱いされたと感じた不満でより一層の背伸びをしてみせる
なるほど、彼らの互いに向けられたものは恋人へ向けられるそれではなく、まさに親愛の情であったのだろう
それを曲解し、これは男女の逢瀬であり決して口外してはならないものであるなどと思い込んでしまっていた先程までの自分たちを衛兵の長は殴り飛ばしてやりたい気分になった
「申し訳ありません!」
だが、そんなことは言っていられる場合ではない
彼は身体ごとシリアに向き直ると深々と頭を下げた
「知らぬ事とはいえ、先程までの子爵様への度重なる失礼……大変申し訳ありませんでした!」
そんな雲の上のような人物に自分たちはさっきまでどのような態度で接していたのか
この少女が自分たちに不満を抱えていてもおかしくはないし、少女に若い衛兵が懸想を抱いてしまったことは先程の様子から誰の目にも明らかで、それは聖騎士卿にも当然伝わっているであろうはずなのだ




