ⅩⅨ
もちろんいかに当主といえども、一介の中流貴族では相手を不満に思ったなどという程度で王城の兵士を処分をすることはできないだろう
ーーそれがただの中流貴族であればの話だが
目の前にいるのはこの国No.2たる男と、その男が実の娘同然に育てているという少女
彼らの不況を買うとなれば当然何かの任務に託けて危険な地へと送られる可能性だってあるし、そうでなくてもたかが庶民出身の衛兵程度、彼が公然と処分をしたところで誰の気にも留まりやしないだろう
そういった可能性を考え、せめて自分の身一つで、まだ若い彼らについては許していただけないだろうか、と口にしかけた長の男の前で果たしてその少女は話がまるでよくわからないといった具合に首を傾げてみせた
「……失礼、ですか? えっと、私、なにか失礼なことをされたんですか……?」
シリアノルと名乗った少女ーーシリアは、助けを求めるように近くにいた聖騎士卿ーー自身の叔父へと視線を送ったが、彼も特段不機嫌な色は見えず先程までと同様ににこやかな笑顔を浮かべたままだ
「王命を受けて登城したシリアの足を止めちゃったことについてじゃないかな?」
「えっ!? そんなことでですか!? しかも私が自分で止まったんですよ?」
ーー自分たちの知る限り、貴族とはもっと尊大で驕り高ぶったものではなかったか
何でもないことのように目の前で行われるその会話は自分たちと同じ世界のものだとは思えず、衛兵の長は何も言えずに呆けるばかり
「……ごめんなさい。その、聖騎士卿はみんなの憧れで模範だから、ちゃんと正しいことをしなくちゃ……って思ったんです」
それどころかさっきまでの威厳はどこへやら、年齢相応の少女然として自ら頭を下げる子爵家の当主の姿に目を丸くした
「えっと、皆さんはこの城を、この国を守るために誠心誠意尽くされているだけです。
入城前に確認がされるのは当然のことで……その、これは皆さんが一生懸命にお仕事をしてるわけなので、尊敬はしたとしても失礼だなんて思うことはありません
あっ……でも私が余計にお仕事増やしちゃったのであれば……ごめんなさい……」
その口調は先程までのものとは完全に異なり、だからこそまだ歳若いその少女の精一杯の言葉だということが理解出来て、衛兵達にはそれが余計にこころに沁みた
「本当にいつもありがとうございます」




