ⅩⅤ
「もし気に入っていただけたのであればこちらをどうぞ」
そうして彼女が差し出したのは、もちろん件の革袋
どうやらその視線は自分ではなく、キルカの実への興味だと彼女は受け取ったらしかった
「え、あ、いや、悪いっすよ……!」
もちろん当の本人にはそんなつもりはなく、困惑したように断るのだが、その原因を作っている少女に気づく様子はない
「いえ、せっかく気に入っていただけたようですしぜひ皆さんで。それに、私も故郷の名産品を好きになっていただけるのはとても嬉しいですから」
それどころか、シリアは少し挙動不審になりながらも断ろうとする彼の手を両手で包むと、そのまま革袋を握らせた
突然のことに若い兵士は思わず硬直し、その顔はどんどんと赤みを帯びていく
王城で働く彼らにとって、行儀見習いのために侍女や上級メイドとしてやってくる貴族のご令嬢などの見目麗しい女性には見慣れたものであったが、実際にはそれは通り過ぎていく彼女たちを遠目で眺める機会が多いというだけである
もちろん会話などをする機会があるわけもなく、男所帯の中にあって過ごす若い衛兵たちには女性への免疫などほぼ無いに等しかった
「甘いものは集中を助けるそうですので。酒精はありませんのでお仕事中でも問題ないかと。あ、ただ水分は多いですが甘みが強いので一度に口にされると少しばかり喉は乾くかもしれません」
「えっ……あの」
「その袋のままであと3日ほどは保つはずです。1の門を抜けた辺にある露店で扱っていましたので、新しいものはそちらに。5日おきに到着する商隊から仕入れているそうですので特に新鮮なものはその時なら手に入るかもしれません」
すらすらと並べられた説明に返事も返せず、どうしたらいいか分からない若い衛兵は助けを求めるようにしばらく周囲の顔色を窺い続けたのち、長の男からありがたく頂いておけと言われた事でようやく受け取ってシリアの手を離しーーと言うよりもむしろようやく彼女の手から逃れることに成功しーーた




