ⅩⅢ
「それにしてもまっすぐ歩いてきたにしては若干時間がかかっていたようだけど、何か問題でもあったのかい?」
「せっかくですので少し市場を見て回っていて……あ、そうでした。閣下。実は先程こちらの市場でとてもおいしそうなキルカの実が売っていたんですよ!」
ふと思い出したようにシリアは手を打つと、先程脱いで手に持ったままになっていた外套の中から革袋を取り出す
もちろん先程買ったばかりのキルカの実が入ったものである
おいしそうな、ではなく実際にとてもおいしいこともシリアはよく知っていたが、それについてはあえて口に出さないでおいた
さすがに淑女として食い意地が張っているなどとは思われたくはないのである
先程よりも若干砕けた口調とともにいくつかの実を袋から取り出し、手に乗せて見せる
ちなみに転びかけた際に手から飛んで行った衝撃で悪くなっていないかは、黒髪の青年が立ち去った後に確認済みだ
キルカの実は薄くとも硬い殻が付いているおかげで丈夫で傷みにくい
産地であるメイフェルベリーとこんなにも距離が離れた王都まで届けられているのはそういった理由もあるのだろう
シリアはこころの中でキルカの実とそれを運んでくれた商人たちに感謝した
「なるほど……これはたしかに食べ頃の、実にいいね」
赤錆色の果実を見てファーレインも思わず唸る
当然だ。それほどまでにシリアの剪定の目は優れていたのである
「ひとつもらっても?」
「はい」
自分たちからすれば見慣れない赤錆色の実を摘み上げた聖騎士卿に衛兵たちは肝が冷える
彼はこの国のNo.2
いくら自分が懇意にしている相手とはいえ、見慣れない食材を、毒味もなしに口にしていいはずがない
しかし思わず声をかけようとした若い衛兵の腕を掴み、衛兵の長をしている男は無言のまま小さく首を振った




