4.お迎えのひとと、触れられない愛のお話・後編《男女。片想い》
『……本当に、いいのかな?』
『ええ。彼に倖せを運べたから。私はこれで満足です』
想い出の品に固執する幽霊が、いつの間にかオルゴールの精となり。
持ち主に新たな倖せを……小さな命を運んで、今、天に帰ろうとしている。
『好きなだけここに居ていいよって言ってくれるあの人には、あの人を、もっとちゃんと温めてあげられる存在が必要だったから』
彼は、幽霊の彼女に恋をした。その想いのまま直向きに彼女を喜ばせようと動いた。そんな恋心が、彼女を救った。そして今度は、彼女が抱いた『彼を倖せにしたい』という願いが、一つの小さな命を救った。
彼女は、小さな子猫とすやすや眠る彼を見つめながら。
『さあ、天使様。私、今とても清々しい気分です。だから、何処へなりとも連れていって下さい』
微笑んで言った。
僕は肯き、
『愛っていいね』
と彼女の手を取った。
あの古いオルゴールはもう鳴らない。それでもきっと、彼は辛くなりはしないだろう。
彼の中で、彼女は不思議な恋のお相手として一生眩しく残るのだろう。
それはとても、素敵なことだと僕は思った。
※※※
『彼女』が居なくなったことと、新しい命を迎えたことを常連さんから聞いた。
「それでも、うちに来てくれるんですね」
「ここの紅茶が好きになったので」
『彼女』もここの紅茶を好きでしたよ、と彼は眩しそうに目を細めて言った。
「お供えしていたんですか」
「はい。……今もときどき癖で、二人分入れちゃうんですけど」
『彼女』が最後、穏やかで愛おしい時間を得ていたこと。
そして、きっと満足して、あるべき場所へ還っていったこと。
それがわかって、私はほっと微笑んだ。
「また来て下さい」
「はい!」
世界は、思っているよりほんの少しだけ、優しいのかも知れない。
希望は、ろうそくの灯りほど小さなものでも、存外心を温めるのだと、思った。




