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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第4章 世界均衡
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第62話 離島を守る勇者

【ロインの視点】


 俺は、鬼の王を撤退させ、アンドリュー達のいる最前線へ向かった。


 そしてすぐ、森を抜けたところに見える海辺へ出た。


 最初に見えたのは、血だらけの鎧を付けた数名の兵士。

 そしてそのほとんどが、倒れたまま、動けずにいた。


 俺は彼等の手当てに回ろうとした。

 ただ、その考えはすぐに消えた。


 更に奥で、それ以上に大事な仲間が戦っていたからだ。


 その立ち姿は、黒髪は、右手に掴む杖は、見覚えしかなかった。

 相変わらずの屁っ放り腰で、情けない背中ではあるが、何故か期待を持たせてくれる、そんな雰囲気を放っていた。


 ……そういや、背中に見覚えのない剣が刺さってるな。


 なんて懐かしく思いながら、俺はアンドリューと対面する、巨大な怪物目掛けて猛進する。

 

「うらああああぁぁぁぁぁーーーーー!!!」


 叫び声を上げながら、アンドリューが火球を放つ。

 怪物はそれを物ともせず、のっさのっさと近づいてくる。


「チッ……止まらねえ!」

「任せろ!!」


 そう言って、年季の入った大男が、剣を盾に猛突進する。

 そして、怪物の体に剣が触れた瞬間、男はピタリと止まった。


「重てぇ………」


 あの怪物を動かすには、力が足りてないらしい。


 怪物は、呆れた顔で男を見下ろし、トドメを刺そうと拳を握った。


「うぐっ………!?」


 しかし、その鈍い声をあげながら後退したのは、怪物の方だった。 


 それはもちろん、俺がやつに腹パンをくれてやったからだ。

 

「………なっ!?いつの間に、誰だあんた!?」


 怪物に抗っていた大男が、驚いた様子でこっちを見る。


 助太刀に来てやったのに、そんな態度はひどくねえか…


「闘気を纏う感覚……それを剣に……」

 

 闘気を纏わせた剣は、ずっしりと重かった。

 けど、これでもまだ、大陸王には遠く及ばない。


 俺は剣を、薙ぎ払うように大きく振った。

 剣に纏わせた闘気は、剥がれるように勢いよく飛んでいく。

 刀身の形を保ったまま、斬撃の如く、怪物目掛けて斬りかかる。


「ちっ……」


 怪物はぶつかる前に、前腕を前に出して防ぐ構えをとる。

 そしてぶつかると同時に、怪物は後ろへ跳んだ。


 衝撃を減らそうと自分から跳んだのか。

 まぁ、こっちに来るのが遅くなるのは好都合だ。

 俺も、最優先にしたいことがあるしな。


 俺はすぐに、後ろの人物に近寄る。

 

「久しぶりだな、アンドリュー!」

「な、なんでロインがここに!?」


 アンドリューは、目を大きく開けていた。


「元気そうでよかった」


 俺がそういうと、アンドリューは笑っていた。


 アンドリュー、やっぱお前は笑ってたほうがいいよ。

 シェリアの事は………またいつか話そう。


「それにしてもロイン、すげえ強くなったな!今まで何してたんだよ!」

「そりゃ、お前を守れるように修行をつけてもらってたのさ。大陸王に」

「あー、あのまずい飯のおっさんか。あれに修行とは、お前もすげえな」

「慣れたらあの飯、案外うまいぞ」


「おい、待てって!よくわからんが、ここは戦場だ!話は後に……」


 大柄のおっさんは、真剣な顔でそう言った。

 そして、それとほぼ同時に、海側からとてつもない殺気を感じた。


 やばい、これはすぐに向かってくるな。

 

「話は後だおっさん!奴が来る!」

「おっさん、静かに!」


 呼応するように、アンドリューも言った。


「それはこっちのセリフだよ!!」


 そんな話をしてる間に、怪物は大きく跳んだ。


 あの跳び方だと、着地場所はあそこら辺だな。


 俺は剣を抜き、前に出た。


「アンドリュー、強くなった俺を、見ててくれよ」


 隕石が如く勢いで、怪物が落下している。

 その真下で、ロインは剣を構えている。


 そして、ほんの一秒程度が経った。


 キィン……


 金属が擦れるような、痒い音がした。

 ロインと黒馬の、天変地異でも起こりそうな勢いの衝突は、たった一瞬、それも微かな音で、幕を閉じた。


 そして両者は再び、地上にて戦を始める。

 

 落下のスピードを利用した黒馬の拳を、ロインは剣だけで受け止めた……

 たった数年で、あいつはどれだけ成長してんだよ。


 俺は、関心してしまった。

 見惚れてしまっていた。

 彼らの、とてつもない強さに。


 そんな俺を誘惑した二人は、余裕そうに立ち上がった。

 そして、じわじわと距離を詰める二人だが、そこでふと、黒馬は問うた。


「名は、何だ?」


 ロインは動揺したのか、足を止めた。

 だが間髪入れず、すぐに答えた。

 

「ロインだ」

「……ロイン?血筋は?」


 そう聞かれると、ロインはため息を吐いた。


「それは言えねえ」

「……そうか、事情は人それぞれだ。さあ、戦いを続けよう」


 黒馬は、戦闘を楽しんでいるかのように言ったが、眉間にはずっとしわが寄っていた。


「そうだな!」


 ロインは再び、斬撃を飛ばした。

 だが、次は簡単に腕で弾かれた。


「いくぞぉ!!」


 黒馬はそう叫ぶと、とてつもない速さでロインへと突っ込んでいき、一瞬でロインの間合いへと入った。

 途端、黒馬の姿が消えた。


 本当に、視界から消えた。

 戦いを眺めてる俺の位置からでも、奴がどこにいるのか、全くわからない。


 そして遂に、見えた。

 奴は、いた……ロインの後ろに。

 姿が消えてから、一秒も経ってないように思う。

 

 その一瞬で、背後へと周りこんだというのだ。


 そして最悪なことに、ロインはまだ、気づいていない。

 もはや、取り返しはつかなかった。


 黒馬は、ロインの背中に一撃を入れた。

 ゴギギッ!と骨に異常をきたす音が響く。

 更にもう一発。

 次は回り込み、腹へ一発。

 そして首を掴み、叩き落とす。


 おそらく、どれも闘気をフルで纏わせた絶大な一撃。

 たった数発でも、死にかねない。

 

「やめろぉぉぉ!!!」


 俺は火の玉を乱射した。

 とにかくロインを守ろうと、無我夢中で打っていたような気がする。


「バカ………来るな…」


 ロインは弱々しく叫んだ。


 すると、黒馬の口が大きく横に開いた。

 笑顔とは違う、不気味な表情をしていた。


 何で急に、そんな顔をする?

 俺は咄嗟に考えた。

 考えた末、俺は、やらかしたと思った。

 

「魔術士が自分から接近してくるとは、バカだな。貴様らに、闘気の極致というものを見せてやろう!」


 これは、危機感だ。

 やばい、これはやばい。

 何かわからないが、やばい。

 

 俺の体が、今すぐに逃げろと叫んでる。

 

 少しでも遠くへ逃げようと、俺は逆向きに走り出した。

 

「もう、遅い」


 瞬間、爆発音が響いた。

 そしてすぐに、耳には何も入ってこなくなった。

 最初の一瞬、痛みは感じた。

 だけどもう、何も感じない。

 何も聞こえない。


 そして、何も見えない。


 視界に光が返ってきたのは、それからすぐだった。

 砂煙の音が聞こえる、耳も、正常だ。

 一番驚きなのは、体だ。

 痛みは感じたのに、どこも怪我はしてなさそうだった。

 癒神の薬、最高だぜ。


 効果がきれるまで、あとどれくらいかはわからんが、それでもやれるだけやってやる。

 

 辺りを見渡し、仲間を探しているが、見つからない。


「………無事か、アン……ドリュー」


 と、草むらから顔を出して俺を呼ぶのは、ロインだった。

 ロインは全身血だらけ、何故生きてるのか疑わしいくらいだ。


「おまえ、あの爆発でよく無事だったな」

「まあ、色々あってね……」


 癒神のことは、面倒だし黙っておく。


「それで、エドワードはどこに……」

「俺も無事だ」


 エドワードは、ロインの後ろから顔を出した。


「俺はお前らと違って、後方にいたからな。爆発の被害は少なかった。まあそれでも、右腕は動かなくなったが」


 見ると、エドワードの右腕は、プランと垂れ下がっていた。


「骨が粉々に砕けたみてえだ。もう、治らねえかもなー。まあそれならそれで、騎士団抜けれてラッキーだな」


 なんて気楽そうに言うが、とんでもなく痛いだろ。


「チッ……」


 舌打ちだ。

 エドワードかと思ったが、やったのはロインだった。


「あー、うぜえ。ちょっと奥の手が刺さった程度で良い気になりやがって。あの馬野郎。絶対ぶっ殺してやる」


 顔が赤く染まってるのは、血のせいなのか、怒りの現れなのか、俺には分からなかった。

 

 ロインは、走りながら、剣を抜く。

 距離を詰めるのは黒馬も同じ、右腕を引いて、今にも殴りかかれる状態で走っていた。

 そして、衝突する。


 ………ことはなく、黒馬はさっきのように姿を消した。


 種は分かった。

 視認できないほどの速さで動いているだけ。

 そして、それはほんの一瞬しか使えない。

 つまりは、相当のエネルギーを消費するということ。

 じゃあ、ここを叩ければチャンスだ。


 けど、そう簡単にはいかない。

 どこにいるのかわからないと、相手を攻撃なんてできるわけがない。

 

 ロイン、やっぱりここは、防御に回るべきだ。


「殺す」


 瞬間、爆発音と共に、ロインの周りを巨大な砂煙が舞う。

 

「何が起こった!?」

「……これ、さっきのと同じ音だ」


 まさか黒馬、範囲を絞ってロインだけにあの技をやったのか!?

 さすがのロインも、あれを二発も受けるのはまずい。


 俺は助けに行こうとして、踏みとどまった。


 それは、砂煙が消えた先に、映っていたから。


 血を吐きながら、首を掴まれていたのは、黒馬だった。


「げぼっ……貴様、なぜそれを使える!?」

「そりゃ、俺は天才だからな。お前にできて、俺にできないわけねえだろ!」


 そう叫ぶと、ロインは黒馬をぶん投げた。

 宙に出された黒馬は、体を思うように動かせず、無防備になった。

 そしてロインは跳び、黒馬に剣を一振り。
























 黒馬の体は、宙で真っ二つとなった。


 地面に落ちた体は、未だ動きをやめず、声も出せる。


 そして、体の一つが、動きを止めた。

 もう片方も、動きを止めると、口をパカパカと開け、片言で話し始めた。


「お前達人間は、将来魔族に滅ぼされる……だが、それは自業自得なり……魔族が魔界から人間界へ赴き、理不尽に殺して回るように、貴様らが我々にしたことも、同じである……できれば、貴様らがより苦しんで死ぬのを、願うのみ………」


 最後まで俺を睨みつけたまま、黒馬の鼓動は止まった。


「最後くらい、笑えよ」


 それは、俺からたった一匹の勇者への、敬意の言葉だ。



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