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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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二人が望む理想

「此処に居たの?」


「ん? ……ああ、澪か」


 何でもない小高い丘の上に二人は居た。

 眼下には街が見え、遠くには空いた土地に巨大な建物を建てる甲高い音が響いている。

 住まう人々は日本人ではない。黒や金、赤も混じった髪色は全て地毛だ。

 彼等は普段と変わらないよう生活を続け、自身の街の傍に何が出来るのかをまったく理解していない。発表はしても正確な位置まではまだ伝えていないのだから当然だが、それが紹介されれば街は大賑わいになるだろう。 

 彩斗は土の上に胡坐を搔いている。今にも落下しそうな断崖の上で工事風景を見つめ、澪がそっと背後に迫った。

 そのまま横に座り込み、隣に居る男の横顔を眺める。

 マスクを解除した静かな顔は、客観的に見るのであればやはり凡百と変わらない。どれだけ澪が素晴らしいと思っていても、モテるかどうか聞かれれば否と誰もが答えるだろう。

 

「工事はもう直ぐ終わりそうだな」


「本当ならもう終わってたんだけどね。 ここら辺の地盤は結構緩いから、最初に地盤固めからすることになっちゃったよ」


「街の地盤も緩いのか?」


「うんにゃ、そっちは大丈夫」


 軽く工事の終わりを語り合い、澪も胡坐を掻いた体勢で何処か上の空な蓮司を更に凝視した。

 今日は生産装置の設置と、それを守る建物の建設だ。警報や監視カメラといった基本的な物に加え、透明化を施された自走式の銃器や感知式の爆弾まで実に多くの殺傷武器が敷き詰められている。

 壁も厳重で、モザンやバゼルが圧縮に圧縮した素材で作製した壁は一枚だけでも砲弾の攻撃を軽く跳ね返す。この施設周辺が焦土と化しても建物だけは無傷であると言えば、それがどれだけ恐ろしい硬度を持っているか解るだろう。

 内部には施設全体に供給する発電設備に、籠城を余儀なくされた場合の非常食。職員が寝泊りする部屋に、職務上必要な会議室などの専用ルームも用意されている。

 この建物単体で暮らすことも出来る仕様になっているが、基本的には彼等の居住地は付近にある街だ。


「この施設も完成と同時に動き出す。 人員は対抗組織の中から選ばれ、教育者として人形も何人か配置される」


「人形が監視者であることは皆解っているだろうな。 その上で悪事を働くかどうかは、彼等の良心次第だ」


「政府に言われて兵器を無断開発しましたとか出てきたら、この国は他の無数の国から滅ぼされるだろうね」


 現状、生産装置の役目は人々の生活を支えることにある。

 兵器を作ることでも、ましてや個人の娯楽を満たすことでもない。貧しい国の民が懸命に前を向けるよう、無償で食料を供給し続ける。

 材料は何処の国も溜めに溜めてしまったゴミや有害物質。これまで困り物だった存在が役に立つとされた時、世界中の誰もが喜んだ。

 日本では早速堆積場からゴミを持っていき、それらを全て不足している資源に変えた。

 食料は勿論、様々な業種で消費される道具も作られ、それらは既存の相場では考えられない程の安さで提供されて今正に使われている。

 

 そして、そこから更に発生したゴミを回収業者が確り集めて新たに物を作り出す。

 十割の循環が起こる訳ではないが、日本全体から集められたゴミは中々全てを消費し切ることが出来ないでいる。

 世界中の希望国に設置した後には二号機を置くことにしているが、現段階ではそれは遠い話だ。

 それよりも前に、悪事を働く国が出る可能性はある。何でも作れるのだから、多数の資源を消費して兵器を作らないとも限らない。

 それを阻止する為に人形が監視で入っているものの、全てが全て見抜けるとは澪も彩斗も思っていない。

 なんだかんだ、人間とは狡猾なものだ。人形達が何時の間にか騙されていたとしても然程不思議は無い。


 とはいえ、それが露見した場合は生産装置の撤去は確実だ。

 更に無数の国々から責められ、最悪の場合は対抗組織が派遣する量産機部隊に殲滅されてしまうだろう。

 そして、国が解体されて付近の国の土地になってしまうのだ。国民としては少々どころではない騒ぎとなるが、こればかりは平和の為に飲んでもらうしかない。

 

「――で、何を考えてるのさ」


 仕事の話ばかりをしている彩斗に、澪は一歩胸に踏み込む。

 内側を見ることは今はしない。本当は聞きたいが、やはり彼の本心から話してくれた方が良いに決まっている。

 澪からの問い掛け。その言葉に彩斗は依然として工事中の風景を見ながら、はぁとただ息を吐いた。

 深く、重々しく、そこに隠しきれない喜びを混ぜて。


「世界は変わったな」


「そうだね。 何もかも、もう元通りにはならない。 いっそ壊れたと表現しても良いかもね」


「これから先、俺が死んでも世界は変わる。 戦いは依然として継続されるし、なんだかんだとお前は生き残る。 ……もう意識の分断は出来るのか?」


「実験してからになるけど、取り敢えず理論は出来てるよ」


「それなら、もうずっと一緒には居られないな」


 その時初めて、彩斗は澪に視線を移した。

 静かな目には暖かな焔が宿り、安心感を齎し止まらない。思わず凭れ掛かってしまいそうな暖かさを一身に受けつつも、彼女は唇を尖らせた。


「彩斗が望むんなら寿命は伸ばせるんだよ? 記憶の完全な移植なんて僕なら出来るし、君の細胞から全盛の肉体を幾つも作ることは出来る。 死なず、力を行使する為の身体もあれば君は不死身だ」


 澪の言葉は嘘ではない。本当に出来ると思っているから出て来る言葉だ。それが倫理観に反していても、今更彼女は気にしない。

 それが彼の為になるのであれば、彼女は躊躇せずに行う。彼が喜ぶことこそ、澪にとっての幸福だ。

 それに対し、彩斗はゆっくりと首を左右に動かした。


「いや、俺はこの一生だけで十分だ。 生きるっていうのも存外疲れるしな」


「むぅ、嫁を置いて逝くつもりかい」


「それはすまんが、まぁ受け入れてくれよ。 相棒」


 久し振りの相棒発言だ。

 それだけに、この言葉を揺らがせる気は無いのだとはっきり解ってしまう。出来れば揺れてほしかったが、望んでいないのであれば彼女は出来ない。

 それにもう彼は普通の人間ではなくなっている。澪自身の望みだけで無理に彼を延命させようとしても、超人としての力が必ず立ち塞がる筈だ。

 その時、きっと澪では彩斗を倒せない。純粋な熱量でなら対策は講じられるが、何よりも澪は彼に刃を突き立てることが出来ないのだ。

 これが愛だというのははっきりしていた。好いた男だからこそ、きっと敵になっても攻撃することは出来ない。 


「これから先はお前の人生でもある。 俺が死んだ後は好きなように世界を引っ掻き回せよ。 好きだろ、そういうの?」


「その前に星の制御権を奪わないとね。 あれをぶっ潰さないことには邪魔され続けるだろうし」


「そうだな。 ――そん時は俺も手伝うよ」


 気楽な言葉だった。

 二人は世界を揺るがす話をしているのに、何処までも口調は軽い。まるで明日の朝食を尋ねているようで、けれど二人にとってはそれくらいに軽いのだ。

 倫理観は破綻している。常識など真向から破壊した。二人が望むのは、己にとって好きな世界を創造すること。

 その片方が死んだのであれば、もう片方が後は好きにすれば良い。最悪世界を終わらせたとしても、彼は笑って仕方ないなと澪を受け入れる。

 

「ま、まだまだ時間はあるんだ。 この後も戦いは続くし、世界も回る。 何が起こるか解らないんだから、先の話をしていても仕様がないよ!」


「それもそうだな。 なんか取り敢えず終わった所為で妙に感傷的になっちまった」


 跳ねるように二人は立ち上がる。

 これからも彼等は戦うのだ。それはマッチポンプによる戦いだろうし、星が生み出す化け物との戦いにもなる。

 あるいは、人同士による下らない諍いとて起きるだろう。どれだけ世界平和を掲げたとして、一部の異常者は絶対に発生するのだから。

 小高い丘から歩き出し、二人は揃って街を目指す。彩斗も澪もその顔は晴れやかで、そして未来に希望を感じていた。


「一先ず、これにて区切り! 暫くは蓄えの時間にするよ!!」


「仕事が盛沢山だからなぁ。 落ち着くまではおちおち戦いも出来やしない」


「書類仕事はこっちでやるから、君は育成に意識を向けときな」


「現地の教官と打ち合わせをしなきゃな。 後一ヶ月もしない内に蓮司達も日本本部に入ってくるし」


 意識をせずに、互いに二人は右腕と左腕を上げる。

 そのまま手を拳に固め、軽く小突き合った。そこにはこれまで有難うという感謝と、これからもよろしくという応援が宿っている。

 彩斗も澪も死ぬまでその関係は変わらないだろう。星が回転するように、時が二十四時間を刻むように、彼等は揃って共に在る。

 故に人々は永久に振り回されるのだ。非常に迷惑な話でしかないが、二人の掌の上で人類は生活を続けることになる。

 生活は安泰だ、苦しみも可能な限り取り去ろう。――――だからこそ、我等の我儘にも付き合ってくれ。


 マッチポンプで、間違いなく世界は変わった。

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