新生FMC
FMCは少し前の銀龍戦においてほぼ大破に近い形で壊れた代物だ。
液晶部分は全損。破片が内部の機構を傷付け、折角読み込んだカードの情報達も纏めて初期化されている。
初期設定も無意味と化し、保護プログラムが終了した時点で寿命が尽きた。
故に澪が下した判断は破棄一択。態々修理するよりも新たに作った方が早く、アタッシュケースの中にあるFMCは完全な新品である。
床に置いたアタッシュケースの蓋を蓮司は開け、中身を見て少なくない驚きを得た。
彼が想像している通りであれば、黒い本体が衝撃吸収材に包まれて鎮座している筈なのだ。なのに実際は液晶はそのままでも、本体の形や色が微妙に変わっている。
取り出してみれば他の子供達も同様の顔付になった。
光を反射する液晶はそのままだが、本体には無数の青白い発光線が走っている。
本体色は赤。目の覚めるような鮮烈の赤は非常に目立ち、持つ者を選ぶであろう。
これが事前にFMCだと説明されねば別の兵器だと思ったくらいだ。そんな子供達の反応に彩斗は笑みを浮かべながら何度も頷く。
「驚いてるみたいだね? まぁ、そうなるのも当然なんだけどさ」
「なんでこんなに違うんですか?」
気安い彼の言葉に蓮司は素直に疑問を口にする。
答えてくれるだろうという確信は、正しくその通り。何せこれを作った澪こそが解説したくてしたくて堪らないと思っているのだから。
どちらかの強い感情はもう片方にも影響を与える。彼には解らない情報ばかりであるが、そこは澪の思考を漁って解決することが可能だ。
あまりしたくはないものである。澪が何も予定が無ければ、今此処に居たのは彼女であっただろう。
胸の内に木霊する澪の嘆きを意識的に無視して、彼は説明を開始する。
「そもそもソイツは個人製作の品だ。 ヴェルサスの技術班に所属しているモザンさんが個人で作り、君に手渡した物。 だからどうしても彼女個人ではカバーしきれない部分があった」
「カバーしきれないもの、ですか?」
「例えばソフトウェアだ。 彼女は基本的にその能力を使った物質の再変換で素材を準備するけど、予め全ての情報が刻まれたメモリーを用意することは出来ない。 基板一つとっても必要な材料は多岐に渡るからね」
モザンが保有する物質の変換システムは、基本的に一つにつき一種類のみ。
異なる素材を混ぜた一つを生成することは不可能であり、故に複雑になればなるほど製作難易度は増す。
彼女には加工する手段はあるが、組み立てとなると手作業になるのだ。
だからこそ出来る範囲と出来ない範囲が存在する。それを強引に彼女一人でカバーしようとなれば――歪みが発生するのも必然。
「技術班の人曰く、これは色々と無理をした形で辛うじて駆動していたみたいなんだ。 バッテリーの消耗率やシステムの伝達速度等々、粗を探せばいくらでも出てきたみたいなんだよ」
「でもこれ、一度そちらに見せましたよ。 その時には何も言われなかったのですが……」
「あの時は突然の事態だったからね。 本部も怪獣が急に表で暴れたって状況でてんやわんやしてたから、表層だけしか触ってこなかったんだ。 それについては技術班からは謝罪が来てる」
無論、これは全て嘘である。
澪が作った製品に粗が出て来る筈もない。それらしい理由を用意し、信じ易い年頃の少年少女を騙しているに他ならないのだ。
けれど、裏を知らない子供達は揃ってそうなんだと納得してしまう。
実際、表ではFMCの露見は突然だった。レッドもフローも厳しい判断をせねばならない状態で、ほぼ蓮司の想いの強さだけで決まったようなものだ。
上からの無理を通した状況故に現場に歪みが出てもおかしくはない。
「……謝罪については大丈夫ですとだけ伝えてください。 逆にこっちが謝りたいくらいです。 無理を通す形になりましたから」
「それについてはもう終わった話だから大丈夫だ。 ……さて、それじゃあ機能の説明をしようか」
互いの謝罪合戦は不毛だ。彩斗はさっさと打ち切り、機能の説明に入る。
「説明って言っても基本は変わらない。 そのまま使ってくれればOKだ。 ただ、出力や持続時間が大幅に上昇している」
澪は最新の技術を用いてFMCを新造した。
最初に渡した物とは異なり、その中身は見事に様変わりしている。その中でも目立つのは、やはり使用時の出力や稼働時間だ。
「基本的に出力は十倍。 持続時間は一時間にまで増している。 更に銀龍との戦いを鑑みて、切り札を追加でインストールした」
「切り札、ですか?」
十倍の出力や一時間も戦闘が継続出来る事実に驚くが、切り札の言葉に彼の胸が躍る。
別に他の姿でも必殺技は作ろうと思えば作れた。例えば黄金郷であれば反射の勢いを用いた抜刀術。例えば幻夢を用いた広範囲物質崩壊。
そのどれもが中々成功出来る類ではないが、決まれば相手の確殺も狙えただろう。
物質崩壊ともなれば銀龍の鱗すら破壊出来たかもしれない。それを作らなかったのは、そもそもの練度問題だ。
黄金郷の反射は完璧ではない。力の方向が変わってしまえば、最悪抜刀術そのものが殺される危険性がある。
物質崩壊も一緒だ。AIが幾分か補助してくれるとはいえ、最終的な制御は全て蓮司の仕事。
崩壊範囲に味方が居た場合に除外する自信が彼には無かった。もしもそれが完璧に動かせた場合、対超能力者でも有利に立ち回れただろう。
制限時間の影響で満足に練習が出来ないのだ。仮に限界寸前まで使ってバッテリーが切れた直後、敵が現れた場合は充電をしている暇が無い。
必然的に練習回数は減り、練度も上昇しないまま。実戦でしか使用出来ないのであれば、必殺技を思い付いても迂闊に試せない。
「君のFMCの練度は中途半端なままだ。 本来追加バッテリーを与えて練習量を増やすべきなんだろうが、他の幹部からの提言で無闇にバッテリーを渡せなくなっている。 ……理由の説明は要るかい?」
「いえ――――叛逆される懸念、ですよね?」
その通りだと彩斗は言葉にせず頷く。
現状、確かにヴェルサスと人類は繋がることを選択した。このままでは後々の代で協力関係が必要になるかもしれないとそれらしい理由を付け足し、メンバーには必要性を説いて協力してもらった体にしてある。
けれど、超能力者達は皆人類に迫害されていた過去を持つ。
警戒を抱くのは当然で、それは蓮司も一緒だ。万が一の備えとして戦闘時間を短くし、ついでに超能力への理解も浅くさせることで弱体化もさせた。
「強化云々も随分苦労したらしいんだ。 あの子は裏切らないとレッドさんが粘り強く言って漸く一定の理解は得られた。 ちなみに残りのトップ二人は君の想いに嘘は無いとレッドさんの味方をしているよ」
「そう、なんですか……」
懸念は当然。しかし、自分には力強い味方が居る。
鳴滝と奈々はそっと彼の肩を叩き、クルスも暖かい笑みを送った。それを蓮司は見て、何時の間にか自分の周りには力強い仲間が出来ていたのだと再認識させられた。
この期待に、この応援に背いてはならない。
強くなると誓った心は不変だ。だから新たに手にした力についても冷静に飲み込もう。
「切り札は三つ。 炎、氷、大地の力がインストールされている」
「まさか……それって!?」
「ああ。 完全再現は無理でも、可能な限りを封じ込めてあるらしいね。 ……使用にはよくよく注意するんだよ」
この日一番の驚きが蓮司を満たす。
まさか、まさか、まさか!そこまで力を貸してくれるなど、誰が予想しただろう。
尚更期待を裏切れない。漲る戦意をそのままに、彼はFMCを手に取った。
そのまま右腕に当てると、自動で端末の側面から帯が飛び出る。端末は腕を回り、縛り上げるように固定化させた。
液晶の輝きを一度見て、ステージへと再度足を向ける。
荒い呼吸は既に収まっていた。強い想いを胸に、中央で動きを止める。――そして彩斗を見つめながら、彼は始動の言の葉を紡ぐ。
「Start our mission.」
選ぶは幻想。しかして、現れるべき光は無い。
代わりに現れたるは紫電の輝き。周囲へと網の如くに展開され、ドーム状に形成した。




