超能力者達の本音
ブリッジは二階構造になっている。
半円の形に各種操作端末が配置され、四人の人間が端末の前で指を走らせていた。
そして二階は一階を見下ろす形で作られている。艦長席とも言うべき場所には専用の別回線を備えた通信端末が配置され、三つのモニターが取り付けられていた。
席に座っているのは三人が見たミンと名乗った少女。
今は立ち上がって彼等を見据え、品良く静かに佇んでいる。
彼女の傍にはレッド、フロー、バゼルの姿。三人はフードを脱いだ状態で二階の落下防止柵に寄り掛かっていた。
そのレッドが三人を見やる。視線は静かで、感情の色は何も無い。少なくとも勝利に酔っている気配は見受けられない。
「どうだ、此処は」
「……驚きました。 まさか此処まで貴方達の基地が大きいとは」
率直な質問に立花も素直に感想を吐く。
驚き、そう驚きだ。此処に来てから心が休まる様子は無く、常に新鮮さが襲い掛かっていた。
だが一番に驚いたのが何かと言われれば、やはり基地そのものの大きさだろう。
小国と同等のサイズに、内部に展開されているという施設群。資源周りも問題無く生産され、航行も安定しているように見受けられる。
単体でパワーバランスを崩せる集団が纏まればここまでの物が作れるのか。
そう思わずにはいられないアラヤシキの姿は、正しく歴史に載るべき雄大なものだった。
ステルス機能を今は解除し、それ故に複数の戦闘機が周囲を飛び回っている。
きっと彼等は突然現れた存在を調査しようと奔走しているのだろうが、戦艦の表だけでは全てを知覚することは不可能だ。
「先程ミンが説明をしたが、此処が我等の家だ。 フォートレス人員であっても内部には基本的に入れない。 これは了承してもらう」
「勿論です。 余計な人間を近付かせる例は与えない方が良いでしょう」
立花はレッドの思考に肯定的だ。
如何に手を結んでいる組織とはいえ、家の中まで招く必要性は無い。此処は彼等が安穏としたまま暮らす場所であって、部外者が我が物顔で暮らして良い場所ではないのだ。
その場所に不用意に入ろうとした場合、待っているのは殲滅一択。生きていることを後悔するくらいの拷問が待っていると考えるのが自然だ。
此処に三人が居るのは、あくまでもパイロットだったから。
移動ついでに回収されたが故に、此処に居ることを許されている。そうでなければ海に落とされて終わりだ。
「客人用のスペースは確保していないが、空いている部屋はある。 到着まではそこに居てもらうが、何かあるか?」
「……え、っと。 一つ良いっすか?」
おずおずと土方は手を挙げる。
咄嗟に立花は土方の足を自分の足で踏み付けるも、もう声に出した後だ。痛ぇ!と叫ぶ彼に視線は集中し、土方は立花を一瞬睨んだ後に腹に手を当てた。
「腹空いちまったもんで、何か食べ物をくれると有難いっす」
「……立花、お前の同期は存外肝が太いな」
「非常に、非常に申し訳ございません……!」
直角九十度。
正しく綺麗にお辞儀をする姿に、ミンは思わず初対面の彼に同情した。空気の読めない人間の発言程、肝を冷やすことはない。
肩に羽織った丈の短い白いマントを揺らしつつ、目はそっとバゼルに向く。
彼は戦艦が完成した以降は此処に住まいを移している。設定上要人であるので軽々しく動かすのも難しく、結局役割としては新人の性能チェックに回っていた。
戦艦に用意された人員。ミンやオムニックを含めた千近い人間のチェックを行うのは並大抵のものではない。
生産そのものは機械任せに出来るが、チェックまでシステムに任せきりにするのは不安が残る。
よって暇だったバゼルが担当したのだが、やり方は非常にスパルタだった。
実戦式の模擬戦。それもバッテリー切れ寸前までの限界駆動だ。疲れることはないとしても、AIには人間的な感情が標準で備え付けられている。
肉体の疲労が無いとしても精神的な疲労をミンやオムニック達は極限まで感じていた。
レッドもフローも流石にそれは予想していなかったし、バッテリー切れ寸前まで戦った影響で充電に手間が掛かったのである。
まったく空気の読めない行為だ。故にミンにとってはバゼルはあまり相手にしたくない存在でもある。
「レッドさん。 私も食事はまだですので、監視も兼ねて案内しましょうか?」
「……お前なら遅れを取ることもないだろう。 追加でオムニック、お前も行け」
「ご命令とあらば」
ミンの進言にレッドは許可を出す。
此処で彼等が暴れるとは思わないが、何かを仕掛ける懸念はある。監視役としてミンとオムニックを宛がい、更にカメラで集中的に追い続ける。
信用も信頼もしていないが故の姿勢だ。流石にこの場所で本音を口に出せないのは、レッドにとって苦痛である。
許可を出したことで他の二人も腹を鳴らし始めた。突然の音に二人は目を丸くして、気まずそうに顔を逸らす。
この姿に邪気は感じられない。ミンとオムニックは三人を連れ、稼働し始めたばかりの商業施設へと消えていった。
「ま、人間だからお腹が空くのは自然だよね」
「いきなり飯を求めてくるのは呆れたけどな。 ……ま、一先ずは日本に帰ろう」
「その後には発表だったな。 いや、今から楽しみだ。 皆がどのような反応を示してくれるか、胸が疼く」
興奮に目を輝かせるバゼルにレッドもフローも半目を向ける。
戦艦の準備の段階で二人はよくよく理解させられた。確かに三人のトップを用意する為に一人作ったが、性格が極端過ぎる。
気持ちはレッドもフローも一緒であるが、この男に任せたままでは暴走して余計な面倒事を抱えることになるだろう。
操縦しなければ何処までも突進するのがバゼルだ。そして、この手の輩は止め過ぎるとどんな行動に出るか解らなくなる。
適度に小さな暴走を引き起こし、ガス抜きをして漸く使える人材になるのだ。
大変な存在であるが、その力はフローが太鼓判を押す程に強い。特別性のボディは他の人形よりも性能が高く、あの時間制限付きの能力も彼にだけ搭載されている。
「やるのは一週間後。 それくらい経過すれば他国の意見も一先ずは発表されるだろうさ」
「緊急性が高いからね。 最優先で拾い上げたいのはやっぱり日本かな。 停留所として活用したいし」
「つまらんデモにも会いたくはない。 やるならば徹底的に使おうではないか」
「徹底的にしたいのは同意だが、それでも最低限の配慮はしてくれよ。 いきなり邪魔する人間は虐殺だとか口にするようなら、最悪解体するからな」
レッドの言葉は半ば本気だ。予定を崩す存在を彼もフローも許しはしない。
幾分か険吞な雰囲気を混ぜ込み、されどバゼルは当たり前だと首肯した。
「物事は長く楽しみたいものだ。 不要な地雷を踏んで楽しめない状況に追い込まれるど、馬鹿がやることよ」
「……言っておくが、この前の模擬戦も十分にやり過ぎだったからな?」
「それで外の人間が迷惑を受けた訳ではあるまい。 内輪で完結するのであれば、少々遊んでも良いではないか」
こいつ、とフローは目を細める。
やり過ぎかどうかの線引きを自分の中で考え、解体されないラインを常に見極めている。これくらいの暴挙であれば小言を口にされるだけで済むだろうと、そんな思考をマルチタスクの一つに当て込んで行動しているのだ。
まったくと言いたくなる口を意識的に抑える。
人形は九割の確率で彼女の設定した通りの性格になった。どんな命令にも忠実に従い、例え残り一割の人形でも命令無視は今のところ無い。
されど、一割の自我があまりにも強いのも事実。
独自の我を持ち、かなり気安くレッドに接する様子はフローの予想を外れている。その理由は依然として不明であり、ネットの海に浸しても同様の結果が出て来ることはない。
フローの技術力もまだ極まってはいないのだ。
それを当人も再認識していて、故に未知に不安を覚えるのだった。




