妖精女王と技術の番人
『格納庫までは此方のオペレーターが誘導します。 ただし、不自然な行動をした場合は即座に拘束させていただきますので、お気をつけください』
「ッ……解りました。 誘導に従います」
三機のモニターに映る少女の顔は非常に無機質だ。
人形のように、あるいは人形そのものとも思える無表情で語り掛け、まともに言葉を発することが出来たのは立花一人だけ。
他の二人は警戒を優先してしまった。誘導には従うものの、二人はコックピットが表示する外の景色に顔を巡らせている。
何処で見られているかも解らないのに、その仕草は露骨だ。立花は直ぐに注意をするが、彼とて出来るのならそうしていた。
甲板に用意された昇降機と内部に続くレールによって自動的に機体は格納庫に運ばれていく。
機械的な物の仕組みは現代のそれと大差は無いようで、少なくとも電磁レールの方が未来感はあるだろう。
『道中お暇だと思いますので、此処である程度の説明はさせていただきます。 何かご質問があればその都度言ってください。 言える範囲でしたら教えますので』
「友好的、なんですね」
『はい。 そうせよとのご命令が下っていますので』
少女の言葉を聞き、立花は確信する。
本拠地を移動することを決めたのはあの三人。彼等は超能力者達の導として歩いているが、だからといって全てが肯定される存在でもない。
彼等の中には本拠地を晒す不安がある。現代で生きる人類達を警戒している。
力だけでは人類を制することは出来ないと解っているのだ。如何に善行を積んだとて、人は容易に裏切って背中から斬り付けてくるのだから。
関りを持たない方が丁度良い。故に隠れていたのに、今この場で結局姿を晒してしまった。
世界は間違いなく荒れる。どのような対処をすべきかと話し合いを続け、何処かの国は戦争を仕掛けてくるかもしれない。
現実感の無い話、と言う程立花は楽観的になれなかった。
少女も同様だ。機械的になるのも致し方ないものであり、これから会う者達にも似たような対応をきっとされることだろう。
ヴェルサスと人類の接触は始まってまだ五年も経っていない。友好的になれるかどうかはこれからだ。そして、この最初の一歩を躓けば長期化は免れないだろう。
『私達は此処を家と呼んでいますが、正式には機動戦艦アラヤシキと呼びます。 乗員は約千人に上り、力の大小に差はありますが皆能力を使用可能です。 更に街としての機能を有し、商業施設や生産施設も艦内には設置されています』
「質問を。 資源についてはどのように解決を? 我々は資源を他の物から変換する能力者を知っていますが、この規模では足りない筈です」
『超能力については我々の分析も進んでいます。 彼等の力を調べ、技術的に模倣する形で現在は資源も空気中の物質から生産しています。 ――残念ですが、資源関係で我々と契約を結ぶことは不可能と考えてください』
少女ことミンの説明に立花は疑問を口にする。それだけの物体を維持する為に消費される資源は一体どこから来るのだと。
答えは自給自足。モザンの力を科学技術で再現し、一点特化で資源を生産している。
これによって地球から資源を新たに獲得する必要は無くなり、人々が吐き出した不純物ですらも有用な資源となることが可能。一日の生産数も多く、万が一に備えて資源の備蓄も行っている。
仮に貿易をするとして、資源間のバランスが崩れるのは明白。立花もする気はないし、しようと考える者は止めるつもりだ。
『この後は我々の案内でブリッジにまで来ていただき、このまま日本の近海まで接近します。 その後に小型船を降ろしますので、アントさんや楓さんと一緒にフォートレスにまで帰還してください。 機体に関しましては整備が終わった段階で自動操縦でお返しします。 その際には連絡をしますので、受け入れ準備をしておいてください』
「解りました。 御挨拶が済み次第渡辺社長に連絡します」
説明をしていく内に格納庫の一画に三機が固定される。
フォートレスの基地で構築された格納庫と見た目はあまり変わらず、コックピットの前に搭乗者用のタラップが用意された。
周りは鉄で囲まれ、集まる人員は紺色の作業員を着ている。見る限りは皆普通の人間であり、三人が出て来るのを待っていた。
コックピットを出れば丸腰だ。例え拳でも死ぬ可能性は付いて回る。
「……よし、皆降りるぞ」
「おうよ。 此処で弱気になっちまったら舐められるだけだもんな」
「一応間隔を開けて出ましょう。 一人十秒です」
高橋の提案に頷きで返し、先ず最初に土方がコックピットを開ける。
タラップの台に立ち、眼下に居る面々に緊張しながらもゆっくりと階段を降りた。続いて高橋が出て、土方と同様に歩く。
双方共に攻撃を受ける様子は無く、正体不明の力で気絶させられることもない。
二人分の合計である二十秒が経過し、立花は深く息を吐いた。思考操作でコックピットを展開し、外に出る。
警戒しながら階段を降りきり、そこで初めてメカニックと同じ目線で顔を合わせた。
「これからお世話になります。 フォートレス所属・G-02パイロットの立花です」
「同じくG-01パイロットの土方」
「G-03の高橋です。 よろしくお願いします」
ファーストコンタクトは大事。軍隊式の敬礼をしつつ挨拶をすると、十数人のメカニック達は横一列に並んで頭を下げる。
礼儀には礼儀。如何に警戒しているとはいえ、敵対をしている訳ではない。協力関係を築けるのであれば最良だ。
メカニック達も同じ気持ちなのだろう。その事実に立花は内心で安堵の息を漏らし、次いで聞こえてきた重い足音に首を動かす。――安堵は一瞬で吹き飛んだ。
「ああ、お前達が例の組織の……」
ゆっくり、鈍重に、威圧を伴って。
現れたのは体長三mにも至る巨人。この格納庫内で最も大きく、全身は白い作業着に包まれて肌が見えない。
顔の部分には宇宙飛行士を思わせるヘルメットを被り、ヘルメットと作業着は一体化していて分離は不可能に思える。
手には巨大な金槌。時折聞こえる呼吸音と合わさり、さながらホラー映画に出て来る凶悪な殺人鬼を彷彿とさせる。
「自己紹介をしよう。 私の名前はオムニック。 長であるレッド様より此処の統括者としての地位を拝命している。 お前達の名前や所属先は把握済みだ」
声はくぐもっている。男なのか女なのかも声からは判別し難く、けれどその巨体から三人は男だと判断した。
オムニックはそっと機体に顔を向ける。視線に宿る感情を三人は知ることが出来ず、けれど何かがあるのだとは察することは出来た。
「……此処で話をするには邪魔だな。 ブリッジに向かうぞ、付いて来い」
「解りました」
此処で今一番の対応力を持っているのは立花だ。自然とリーダーのように彼が前を一歩進み、少し後ろを土方と高橋が歩く。
オムニックの歩くスピードは遅い。一歩進む度に床に鈍い音が鳴り、誰しもが壊れてしまうのではないかと思ってしまう。
けれど床は壊れないし、スピードは遅くとも巨体故に歩幅は広い。
ゆっくり進んでも彼等との速度に差は無いのだ。そのまま特に話をしないまま廊下を進み、ブリッジに続く金属製の扉の前で停止した。
「此処より先はブリッジだ。 中には既に御三方も揃っておられる。 くれぐれも失礼な真似をするな」
「勿論です。 御迷惑をお掛けするつもりは此方にもありません」
「だと良いがな」
最後の注意に立花が迷わず反応するも、オムニックは皮肉気に返すだけ。
そこに宿る不信感に何かを言う前に、金属製の扉は自動で開き始めた。




