大器の空船、蒼天に座す
「戦闘終了。 我々の勝利、で良いだろう」
ドローンの性能限界まで索敵を行い、その全てに反応が確認されなかったことで渡辺社長は勝利宣言を口にした。
無論、この勝利は純粋なフォートレスの勝利に非ず。ヴェルサスの手を借りた上での勝ちであり、それは皆の共通認識だ。
渡辺社長は巨大モニターの左上に表示された戦闘時間を見る。
十四分三十三秒。三十分という稼働時間を考えれば、帰還するのも問題が無いレベルだ。
それで終わったのは正しく僥倖。あの蜘蛛は決して強い存在ではなかったが、時間を掛けさせてしまいかねない存在ではあった。
フォートレスにとって時間は味方ではない。そもそも生きる限り、時間は人類の敵と断じても構いはしないだろう。
戦闘終了をパイロットにも告げ、急いで三機の帰還を促す。
オペレーターは帰還用のルートを送り、パイロット達は各々それを見て移動する準備に入る。
ボディには幾つかの傷があるが、どれも小破未満。内部にまで浸透していないのであれば、外部装甲を交換すれば後はチェック程度だ。
幾つかの予定を脳内で組み立てつつ、彼は次にレッドへの連絡申請を送る。
相手は彩斗だ。彼が繋ぎの役割を行い、許可が出ればレッドやフローと電話越しに会話をすることが出来る。
『此方彩斗です。 レッドさんへの繋ぎですよね?』
「そうだ。 今は大丈夫か」
『ちょっと待っててください――――はい、今は手が離せないとのことなのでフローさんが出てくれるそうです』
「解った。 では頼む」
はいと言葉が返り、暫し場は静かになる。
レッドが相手であれば幾分か気楽に構えることが出来るが、フロー相手となればどれだけ緊張したとしても足りない。
レッドは本人が自覚していないが、太陽のような性質を持っている。
照らされた者達を守り、同時に導く導となるのだ。彼自身も然程強く拒絶はせず、話をしても幾分か常識的な位置に着地もする。
それがフローとなると、途端に氷河期の訪れだ。彼女の傍でまともに話が出来るのはレッドのような上位者だけだろう。
『フローだ。 戦闘は終了したか』
「はい。 ですがメンバーの御力をお借りしました」
『良い。 あれは保険で送り付けただけだ。 機能したのであれば結構』
通話に出て来たフローはやはり変わらない。冷たく、素っ気無く、メンバーに対してですら何処か道具扱いしている節が見られる。
まるで壊れていないか確認したかのような口振りは、渡辺社長の眉を僅かに跳ねさせた。
周りは先程以上に沈黙している。誰も彼女に声を掛けられたくないと、必死に音を殺してるのだ。
『帰還ルートはどうなっている』
「今回は戦闘時間に余裕があったので遠回りで帰還させます」
『では日本に三機が近付いたら伝えろ。 ――我々の船が回収してやる』
「船? ……もう動かせるのですか」
『言ったろう、急ぐと。 レッドとバゼルも今はそちらに付きっきりでな、漸く確認と対策を終了させた』
おお、と渡辺社長の口から感嘆の声が漏れる。
確かに急ぐ状況ではあったが、あまりにも迅速に過ぎた。さながら準備をしていたようにも思えるも、実際にここ最近はフローもバゼルも見ていない。
レッドだけは育成の為に本社に訪れ、けれど居ない時間の方が多かった。
彩斗が子供組の面倒を半ば見ていたくらいだ。幾ら鍛えるといっても、それだけでは子供組の常識は歪んでしまう。
居なかった時間を考えると、そのリソースを全て本拠地の移動に費やしたと見るのが妥当だ。
迅速実行。社会人が求める理想の一つだ。
来るというのならば渡辺社長に否は無い。早速合流地点を聞き、オペレーターが地図に青い光点を表示させた。
それを事務的にパイロット達に伝えると、三人全員が驚きを露にする。
この場においてその登場。何も無いと考える方が愚かで、立花はモニターに映る楓を見た。
今この場に居る面子は、メンバーを除けば誰も素顔を晒していない。
早い段階でヴェルサスの物であると説明される予定だが、まさかこんなにも早くなるとは流石に想像だにしていなかった。
急ぎ動かせる体制を整え、その上で支援を行い、突発的な状況ですらも有利になるよう立ち回る。
この状況下であればヴェルサスの基地が姿を見せても理由付けになるのだ。戦いの後に姿を現し、機体を収容し仲間として紹介することで信仰はますます増大する。
既に世界中から信徒は誕生しているのだ。基地が一体どれだけの規模かはさておき、こんな登場の仕方をしようとするならば半端では済まされない。
自信がある。彼等は世界を驚愕に落とすことが出来ると確信を抱いている。
これこそ超常存在。これこそ頂点。世界最強は度々議論に上がるものだが、これだけ大胆に己を示せる集団が嘗て他にあっただろうか。
「バケモンじゃねぇか……」
誰ともなく、立花は顔を俯かせた。けれどその顔は決して不快を示すものではなく、まったくの逆。
目を見開き、歓喜に口角を吊り上げていた。
自覚していた筈のことだったのに、今の彼の胸には衝撃がある。これほどまでに運の良い出来事に巡り合えるのかと、あるかどうかも解らない前世の徳に感謝すらしたくなった。
急いで機体を操縦して海の上を走る。
上空には複数の戦闘機の姿が見え、恐らくは三機の様子を映像に収めているのだろう。
お膳立ては出来ているということだ。怪獣発生を利用し、各国が見に来ることを想定し、その上で全てを材料にする。
到達ポイントに辿り着いた時、三機の傍で突如大質量の高熱源反応が出現した。
それはドローンを通して指揮所にも届き、あまりの範囲に渡辺社長も言葉を失う。
何せそれは、一隻の船が出せる反応ではないからだ。十隻でも、百隻でも、この熱源の前では蟻と像も同然。
最強の名は伊達では済まされない。ならば、伊達では済まぬものを贈ろう。――――どうか、お前達の素晴らしい反応を見せておくれ。
《ステルス解除》
《後部推進装置停止。 以降は反重力制御により浮上します》
《主砲全機正常稼働中。 副主砲、機銃も問題無し》
《各ブロックのチェック完了。 問題はありません》
虚空から声が響く。
拡張された説明の数々に彼等は緊張と、同時に畏怖を抱いた。何が起きているのかも解らぬまま、いよいよ虚空から巨大な鉄の国が姿を見せる。
空間を割って出て来るように、徐々に出て来る影は太陽の光を遮った。島という単位を超え、国という単位にまで到達した船は全ての者の視線を強制的に集める。
全身は軍艦をスケールアップさせたもの。船体は縦に細長く、壁はハニカム構造で近未来感を醸し出す。
側面には横一列に穴が見え、機銃のような物体があるに違いないと誰もが思わせる。
上部には主砲が十二門。前部と後部で六門ずつ付けられ、今は動きを見せない。
「全機聞こえているか」
甲板の上から見下ろすレッドの声。
三機は一斉に彼を見上げ、ポケットに手を突っ込んだ姿勢は非常にリラックスしている。
正にこの船の主。鉄の城は彼の前で平伏し、外敵を慈悲無く粉砕するだろう。
勝てる勝てないの領域ではない。何時かも感じた通り――――そもそも生まれる次元が違い過ぎた。
「その機体のスペックなら上にまで飛び乗れるだろう。 さっさと格納庫に入れ」
言うべきことだけを言い放ち、彼はそのまま船内へと戻っていく。
彼等は揃って推進器を噴かせて甲板へと着地し、直後フォートレスとは別の通信回線が無断で接続される。
パイロット同士が顔を合わせながら会話出来るように、その通信もまた顔を出した上でのものだ。
『ようこそ、アラヤシキへ。 私はこの船の制御を担当しています、ミンです』
出て来た顔は見るも幻想的な銀の髪をツインテールにした黄金の瞳の少女だった。




