二人の協力者と蹂躙
最初の一体が沈黙した。
ドローンが温度を調べ、高温箇所が全て青くなっていることを確認する。その結果をオペレーターは確認し、直ぐに三機に伝達。
一体が死んだと報告された以上は構う必要は無い。二体は絡まった腕を戻して互いに距離を取った。
片方は近接二機に、片方は遠距離一機に。
連携を崩すことを目的とした行動は、やはり野生の生物らしくない。その姿を三機は冷静に眺め、簡単には終わらないかと内心で呟く。
であればと立花は二人に通信。回線は即座に開かれ、二人の顔がモニターの端に表示された。
「敵は二方向に別れた。 俺は一機だから無理をせずに時間稼ぎに集中する。 そちらの二機連携で蜘蛛を倒してくれ」
「了解であります。 直ぐに決着を付けて向かいますので、それまでどうかご辛抱を!」
「よく言った高橋! その意気で行くぞォ!」
短い会話で通信を終え、我先にとG-01が前に飛ぶ。
足を僅かに浮かせ、左右に滑るように移動する様に迷いは無い。狙うは前足。最も攻撃手として早いだろう箇所に目掛け、相手は足の関節を破壊される前にと足を槍として振るった。
直後、刀と前足が正面から激突。
金属音を響かせながらも両者の武器は壊れず、体躯の差で徐々にG-01が押されていく。
巨体はそのままパワーに通じるもの。性能を限界まで引き上げて対抗するも、やはり純粋な力だけでは物事は解決しない。
だが、その程度は解っている。出撃するまではずっとシミュレーションルームで機体の動きを確認していたのだ。
この武者が何が出来て何が出来ないかなど当に知り尽くしている。相手のパワーに負けることなど想定の範囲内だ。
故に本命はG-03。人体は力を入れた箇所に意識を向けやすく、その他への意識は散漫になりやすい。
G-03が狙うのはG-01とは真逆の後ろ足。海面で踏ん張っている足は動きを止め、今全力でG-01を仕留めようとしている。
動けない足であれば破壊するのは容易。既に一体目の膜の強度は把握済みなのだから、破壊出来ないと不安に襲われる心配もない。
ブースターを点火させ続け、速度に合わせた攻撃。足の付け根を狙うスピードタイプ特有の攻撃は、直後蜘蛛が尻から吐き出した白い糸で回避に使われた。
突然の奇襲ではあるが、糸の量は少ない。何とかといった具合でG-03は回避し、蜘蛛は前足に更に力を入れてG-01を弾き飛ばす。
飛ばされた機体は海面を転がり、コックピット内の風景も次々に切り替わる。
少なくない衝撃にも襲われたが、まだまだ意識混濁にまでは追い込まれてはいない。
背面ブースターを吹かして身体を立ち上がらせ、機体は頭を数度自分の拳で叩いた。
「ッいつつ。 ……こいつ、動きを読んだのか?」
「いえ、恐らくは複眼も用いた広域な視界で自分の動きを視認していたと思われます。 ――そこから推測を立てたのではないかと」
「っは、虫風情が推測? ……やっぱますます人間臭ぇ」
人間だけの専売特許ではないぞと語る蜘蛛を見つめ、はっと鼻で笑う。
収集した戦闘パターン。広域の視界で捉えた位置情報。そこから相手の行動を推測し、逆撃可能な方法を模索した。
白い糸が尻から出たのは彼等にとって予想外だったが、よくよく考えずとも本来蜘蛛は口から白い糸を吐きはしない。
生来の生物通りの行動をした。ただそれだけであり、普通ではないことばかりに目を向けていたから今回は嵌まったのである。
そしてG-03が回避したことで相手は白い糸に当たりたくないことを確信した。
G-02がずっと回避していた段階では推測だったそれが、この一瞬で事実として蜘蛛の中で定義されたのである。
ならば、戦いの組み立てにおいて致命の一撃に通じる一歩は白糸。
捕まえ、前足で四肢を破壊する。それで今回は勝利だと決め、目的達成の為に動き出す。
『渡辺だ。 現在ヴェルサスが海底で待機している。 ヴェルサスの所有物であることを示す為、これから彼等の介入が始まるから協力しろ』
「了解。 ――ちなみに誰ですかい、渡辺さん」
『居るのはアント殿と楓殿だ。 一気に来るそうだから、隙を見て仕掛けてくれ』
二機には限界稼働時間がある。帰ることを考え、なるべく長期戦はさせたくない。
それに今回は渡辺社長も知らないとはいえアラヤシキのお披露目があるのだ。戦艦を含め、機体もヴェルサスの物であると確信させる材料を与えねばならない。
土方と高橋には裏の意思は解らないが、それでも此処で姿を見せる意味をある程度は察すことは出来る。
口調が荒くとも決して無能ではないのだ。こと戦いに関すれば彼の勘は冴え渡っている。
故に蜘蛛の真下の海面が僅かに膨らんだ刹那、彼は飛び出す。
一瞬遅れて高橋も角度を変えて飛び出し、モニターから高熱源反応を検知した知らせが届く。
海から飛び出したのは光の斬撃。
外骨格であろうと問答無用の一撃は出力が低い所為か切断にまでは至らないが、空中に打ち上げる程度の衝撃力は有している。
突然の奇襲に蜘蛛は困惑の鳴き声を漏らし、眼下に出て来た男に八つ目を向けた。
水に金の髪が濡れているものの、パーカーを羽織ったアントがそこに居る。聖剣を握り、鋭い眼差しで見やる彼はやろうと思えば胴体を完全に両断することも出来るだろう。
そうしないのは後を任せるつもりだからだ。
G-01も勘で彼の動きを読み、突撃を途中で止めはしなかった。蜘蛛は空中で体勢を整えようとするが、その前に先に彼等が到着する。
ブースターを吹かして跳ねた勢いで前足の付け根を斬り落とし、もう一つの太刀で中央の足も落す。
完全な空白地帯となった場所にG-03が飛び込み、首に槍を差し込んで蜘蛛の巨体と共に落ちた。巨大な水柱を立てながら着水し、G-03は自身の武器を手放さない。
水柱の影響で見え辛くなった状況でもセンサーを駆使して対象の動きを見つめ、首への攻撃を更に進める。
死ぬまで離さぬ。突撃槍としての役割も担っているが為に、そこで手放せば槍兵として失格だ。
「崩れ、落ちろ……ッ」
高橋の裂帛の宿った言葉と共に、刺し込んだ槍は蜘蛛の首を貫通した。
痙攣するかのように足が蠢くも、その足に攻撃性は無い。最後の足掻きも満足に行えぬまま、槍に貫かれた状態で絶命する。
これで更に一体が死んだ。メンバーが一人参加するだけで状況が好転するのは流石だが、安心するにはまだ早い。
そう思って彼等が振り返った先で――蜘蛛は胴体と頭部だけの状態で宙に舞っていた。
足は引き千切られ、顎の牙は肉ごと抉られ緑の血を流している。
やったのは海面で静かに構えの姿勢を取っている女。
一部始終を見ていた立花は、彼女の絶技に頬を引き攣らせた。
やったことは奇襲だ。アントと同様に海面から飛び出し、足の一本を蹴り折った。そのまま分離した足を足場に隣の足を両手で掴み、無理矢理に引き千切る。
恐ろしいのは移動に掛かった時間と破壊に掛かった時間が短いことだ。
立花の目には残像だけしか見えず、宙に打ち上げられた僅かな時間の中で全てを終えたのである。
元々の資質。高速歩法。筋肉操作。
全てが一体となった攻撃を前に、蜘蛛程度ではまったく相手にならない。
「――俺等、本当に必要なのかよ」
震えた声で呟く立花は、視線を彼女から逸らせない。
彼女の奇襲が成功したのは認識外から来たのもあるだろうが、存在感を全て消していたからだ。
今見ている状態でもそこに本当に彼女が居るのか立花は確信は持てない。
センサーは熱源を確り拾っているし、誰が見ても彼女が居ると解っている。けれどコックピットを開ければ彼女はそこに居ないのではないかとも思っている。
極まっている。楓という女性は間違いなく、一格闘家として至高の領域に辿り着いていた。




