三体の蜘蛛
電磁レールから射出された機体がハワイを目指す。
今度は一ヶ所に集中しているので全機が同じ場所を目指し、向かいながら今回の敵勢情報をオペレーターから伝達される。
相手は蜘蛛型の怪獣。三体共に同じ見た目をしており、ヴェルサス側からの推測ではハワイを支配領域に変えようとしているのではないかと教えられた。
どの怪獣にも得意とする地形がある。例えば水龍は水のある場所では強いが、逆に砂漠のような水の無い環境では弱い。
己が求める地形を手にする為に侵攻し、場を改造するのも稀にあった。
蜘蛛はハワイを占拠した後に自分達の巣へと変え、数を増殖させて国へと攻め込む。至って生物らしい行動方針であるが、増えればその分だけ厄介になるのは間違いない。
「前線基地としての役割も持っているのではないでしょうか。 日本やアメリカにも比較的近い場所であります」
「……有り得そうだな。 あそこを基地として戦力を整え、次々に国に向かわせれば対処だけで苦労する」
「餌は持ち帰ってくりゃ問題ねぇだろうな。 あの巨体なら先ず野生動物も人間も勝てねぇ」
三人の推測を聞き、指揮所に居るフローは頷く。
正しく彼等の想像通り。最初に設定していた通り、あの三体は全てが女王としての役割を担っている。
勝てば三体が消失する程度だが、負ければそのまま数を増やす。とはいえ、数を増やす前に消せるよう海底にはメンバーが控えている。
通話一つで彼等は海から飛び出し、そのまま蜘蛛の身体を破壊する手筈となっていた。
レッドはそこには居ない。蜘蛛の力はレッドでなくとも十分に対処可能で、彼等の戦績向上に一役買ってもらうつもりだ。
ついでに、もう一つの用事も済ませてしまうつもりである。
「十分に警戒しろ。 相手が蜘蛛の能力以外持っていないとも限らん。 隙を晒して負けるようなことがあればパイロットの座から降ろすぞ」
フローの頷きを横目に、渡辺社長が一段高い場所より警戒を促す。
三人共に了解と返り、彼等がそこに到着するまでは蜘蛛の変化を常に調べさせた。
黒い外骨格。巨大な牙を持った顎。赤い八ツ目は広く視界を保ち、足の一つ一つが太く大きい。
五階建てのビル程度軽々と超える体躯は、そのまま黒い蜘蛛を大きくさせただけのようだ。
白い糸は未だ確認されていないが、見た目通りであるなら糸を持っている。そして、蜘蛛であれば糸こそが最大の武器だ。
蜘蛛の移動は然程早くはない。元々が地形として得意ではない為か、その身体から想像出来る程度の速さしか有していなかった。
勿論戦闘体勢に移行していないのもあるだろう。現在蜘蛛を捉えているのはフォートレスとヴェルサスが合同で設計した遠隔ドローンであり、上空から攻撃もせずに眺めているだけだ。
このドローンには常時ステルス機能が存在し、物理的に透明化することで目視による捕捉を不可能としている。
怪獣であれば別の方法による捕捉がある可能性は否定出来ないが、今の所はあらゆる怪獣の目を欺いていた。
『澪、こっちは準備良いぞ』
『うん、それじゃあ音を立てずにゆっくりと来て』
『ああ。 急ぐ必要があるなら指示を出してくれ』
澪と彩斗は精神内で会話を交わす。
今日この日は怪獣を倒すだけで終わらせるつもりはない。激戦の意味をより強く知らしめる目的も含め、アラヤシキのお披露目も考えていた。
勿論、それを渡辺社長は知らない。急がせているので何時来るか解らないと事前に伝え、澪が突然予定を変える余地を残した。
調整したのは全て彩斗だ。アラヤシキ用に作られた人形達と挨拶を済ませ、謝罪と共にこの点についても説明をしてある。
当然ながら人形達は文句も言わずに了承してくれたが、もしもこれが普通の人間であれば激怒されていた筈だ。
「各機、戦闘領域まで残り三十秒」
「領域内に入ったと同時にG-02は狙撃を開始。 なるべくハワイ本土から引き剥がしてくれ」
『了解。 私は今回サポートで大丈夫ですね』
「そうだ。 ハワイに被害を与えないことを主目的とし、撃破は残りの二機にやってもらう。 二人も良いな」
『了解!』
『願ってもねぇ話だ。 暴れられるなら文句はねぇ!』
三十秒後、三機はドローンから与えられた情報を基に作られた戦闘領域に突入。
G-02は足を海面に乗せ、狙撃銃を構える。残りの二機は速度を上げて進み、頭部を避ける形で接近を試みた。
G-02が狙うのは足の付け根。 胴体部は巨大であり、それを支える脚部も強靭だ。
まともに外骨格を破壊しようにも苦労するのは必然で、注意を引くのであれば効かない攻撃よりも厄介な攻撃だろう。
引き金を押し、弾が発射。新たに貫通性能を高めた専用弾は右側面の足の付け根に直撃する。
爆音と共に足の一本は外れ、海に沈む。
狙撃によって三体の蜘蛛は遠くに居るG-02を発見し、直後口から白い糸を吐き出した。
「尻からじゃないのかよッ!」
ツッコミをしつつ、ブーストを吹かせて横に避けた。
粘性の白い糸は糸と呼ぶよりは液体のようであり、一機分であれば覆い隠すことが出来る。残りの二体も遠くから糸を吐き出し、量が増したことで範囲も拡大した。
横に全力移動しなければ触れてしまいかねず、腰の武器を引き抜く時間も無い。
故に、三体の背後に回った二機が強襲を仕掛ける。一対一を作るのではなく、一体に狙いを絞って二機で襲うのだ。
目標は蜘蛛の頭部と胴体の繋ぎ目。外骨格に覆われていない薄茶色の膜は柔らかそうで、G-01はそのまま直線で狙う。
G-03は一度上空に跳ねて上から落ちる形で突撃。
当たる瞬間に蜘蛛は二体に気付いたのか身体を動かそうとするも、その前に先に二機の方が直撃した。
刀と槍は抵抗を感じながらも確かに入り、破れた先から緑色の液体が流れ出る。
毒物であれば垂れ流すべきではないが、今この瞬間においては四の五の言ってはいられない。普通の血液であることを願い、更に刃を潜り込ませる。
『――――ッ! ――ッ!!』
「何言ってっか解んねぇなぁ!」
「離脱します! 土方先輩も!!」
柄まで潜らせた刃を下から上に強引に斬り上げ、槍もそのまま引き抜く。
内臓を傷付け、液体を海に垂れ流し、一体の蜘蛛は苦しみに悲鳴を上げる。声は甲高く、鼓膜を揺さぶるそれは酷く不快だ。
残りの二体は間近に居る二機に一斉に襲い掛かり、足を振るって吹き飛ばそうと突き出した。
二本ずつ。合計四本の攻撃を二機は各々の機動で回避し、G-01は見られている状態で再度飛び込んでいく。
切り込み隊長として設計されたG-03よりも土方は突撃に迷いが無く、その姿からは戦闘狂を思わせた。
鋭い足の先端を腰を落して潜り抜け、滑るように加速する。
縫うように動くことで蜘蛛同士の身動きを封じ、遠くから立花が冷静に移動手段を奪っていく。
G-01とG-03が的確に攻撃することで糸吐きも使用不可能とし、G-02だけが正攻法で攻める。
大袈裟に槍を振るって外骨格を叩き、傷を付けては速度に任せて離脱。ヒット&アウェイを高速で繰り返すことで無視をさせず、大きな隙を晒した瞬間に関節を狙って槍を差し込んだ。
「関節は柔い! このまま速度で押し切るぞ!!」
「しゃおらぁ! これで足四本目!」
「最初の個体の胴体部、凡そ半分まで切断しました! 対象は弱っています!!」
強いか強くないかで言えば、この蜘蛛は強くはない。
ヴィジュアルは最悪であるものの、連携さえ取らせなければ動きは単調。速度も遅く、特異な能力を一度も見せない。
ここまで順調に進んでいるのは三人の連携あってこそ。役割を超える真似をせず、熱くなりながらも領分に必死となった。
半ばまで裂けた膜にG-01が接近し、弱弱しく振るわれた足を回避して上から下へと一気に膜を斬る。
支えの無くなった頭は落ち、胴体は力無く海上に浮上した。復活の兆しは無く、断面から何かが飛び出てくることはない。
『種、まだ無事だろ』
『勿論。 でも今回は彼等の勝ちだ』
一体目は無惨な形で機能を停止した。それを澪は再開させようとは思わない。
ここで復活しては水を差すようなもの。一度負けたのであれば、例え核が無事でも負けなのだ。
沈む頭部は海底の砂の上に落ち、傍に楓が近寄る。
腕を頭に突っ込み――――頭頂部にあった核を彼女は握り潰した。




