区切りに向けて
「いやぁ、連日大騒ぎだ。 君風に言うなら学園祭準備期間みたいな状態って言うべきかな」
「……想像よりも規模が拡大したな」
機動戦艦・アラヤシキ。
完成した艦内の一室である彩斗用の部屋で、二人は顔を見合わせて会話を行う。
澪は喜びに満ちていた。頬を蕩かせ、瞳は妖し気に光り、口角は口裂け女の如くに広がっている。
若干上気した姿も合わさり、訳を知っている彩斗でもドン引きした。
今ならば心を読めずとも解るもの。怪獣を大量に作り放出し、自分の作ったロボットで打倒させ、最後には人類を絶望に叩き落した。
その過程全てが彼女の望んだものであり、事態は想定を超えて大きく悲壮になっている。
楽しくない筈がない。彼女が求める人類の在り様が此処に顕現し、更にはよりヴェルサスに依存している。
フォートレスの売り上げは鰻登りどころではない。ヴェルサスへの寄付のつもりか大量購入する企業も現れ、正に滝登り状態である。
確かに売り上げの一部はヴェルサスに入るが、だからといってこんな状況で無駄に買い物をするのは愚かそのもの。
間違いなく民衆は英雄を求め、それをヴェルサスに――もっと言えばレッドに求めた。このまま彼が勝利を刻み続ければ依存は加速し、ヴェルサスによる経済操作も可能となるだろう。
つまり国の経済が澪の手中に収まるのだ。仮にそれを危惧して誰かが対策を打とうとしても、数人の足掻きでこの流れは止められない。
出来る限りの善行を。自分は決して悪意を垂れ流していないと周囲に示す為、今後も彼等は貢いでくれることだろう。
とはいえ、一分野に関する商品を一会社だけで用意するのは不可能だ。その辺は購入率を調整し、他の会社にも行ってもらうようにする。
そうせねば余計な敵対者を増やすだけ。商売敵を作るのは避けられないが、出来るだけ大企業と事を構えるつもりは無い。
「これなら何を作っても盲目的に買ってくれるだろうね。 悪意にも敏感になったことで深く探りを入れ辛くなったし、悪事が露見されればこれまで以上に叩かれる」
「お蔭で疑心暗鬼が加速しているがな。 この時勢じゃ悪事を働いた奴が負けだ。 今じゃSNSで悪人を突き出す行為が横行しているよ」
「冤罪も増えたみたいだし、その辺は流石SNSだよ」
今この世において、悪事を働く犯罪者程不利な者は居ない。
小さなものから大きなものまで、警察署はこれまで以上に忙しくなった。正義に目覚めた自称自警団も各所で発生し、犯罪者を捕縛した者は周辺住民からヒーローかのように讃えられる。
人は褒められればもう一度と考えるものだ。称賛が大きくなればなる程、正義の人は活動頻度を増やしていく。
中には称賛目当てに冤罪も多発した。証拠が無いことで見逃されるケースが多かったが、計画的に嵌められた者は中々刑務所から出られなくなっている。
良くも悪くも、あの件を境に世界は明確に変化した。
正義の定義は曖昧だが、私利私欲を優先して周りに被害を与えるような人間は総じて排除の対象とされている。
国会議員も例外ではない。日本どころか世界各所で議員の汚職が密告の形で公表され、人生を溝に捨てている。
マフィアや極道も廃絶の対象だ。職務の上で無能と言われた者達はまだ審査段階であるが、まともに仕事をしていない者は総じて解雇される。
真面目で、博愛主義で、平和を求める者。それこそが最重要視され、更に能力が高ければ国家が衣食住を保証すると宣言した。
「監視の目は付けていないけど、この分なら皆が監視の目になってくれる。 何割かはズル賢い人間も残ると思うけどね」
「寧ろ残ってもらわないと困る。 正義を何よりも尊ぶのは良いが、それで価値観が歪んでは正せる人間が居なくなるからな。 綺麗な場所だけが人の極楽じゃない」
「まぁね。 で、怪獣の準備なんだけど……」
澪はパーカーの内ポケットを弄り、一枚の白いカードを取り出す。
トランプサイズのそれを投げ、彼は指で挟んで表面を見る。白い部分の裏側には極薄の液晶が付けられ、彼が見たと同時に電源が入った。
表示された背景は白く、中央に縦一本の黒線が入っている。右側には番号が振られた核の名前が書かれ、左側には構成率が書かれていた。
下へとスライドすると左のバーが僅かに動く。そこから解るのは、大量の核が既に世界中に散布されたということ。
下へ行く程構成率は低く、上へ行く程構成率は高い。特に一番上は九割まで進んでいるので、明日か明後日には完成することだろう。
「事前に撒いたから進捗は早いよ。 まだ一週間くらいしか時間は経っていないし、取り敢えずは完成した順から登場させるつもり」
「何体居るんだ……。 軽く百は超えてるだろ」
「今の所は三百五十。 アラヤシキ内部でも核の製造をしているから、今この瞬間も大量の核が生み出されている。 カモフラージュを兼ねて他の製造設備もあるから、あの中は真夏も同然だよ。 パーカー無しなら君は近付かない方が良いね」
「うへぇ。 冬になったら何とかなるってことは?」
「ないない。 気温程度じゃ変わらないよ」
激戦に向け、怪獣の準備も万端だ。
最初に完成した怪獣から始め、一年くらいであれば毎日出現しても大丈夫である。激戦とするなら毎日でも問題は無いであろうが、休憩時間を設けなければ疲弊して先に体力切れを起こすだろう。
怪獣はエネルギーが切れるまでは無限に動ける。けれど人は整備も含め、休む時間が無ければ怪獣と戦えない。
この調整は非常に難しい。定期的に出しては怪しまれるし、かといってサイコロでランダムに決めては六日も期間が空いてしまう。
「取り敢えず一週間は間を空けたし、さっさと戦いは始めないとねー。 あの子達の卒業だって控えている訳だし」
「……そういやもうじき卒業シーズンか」
季節的にはまだ冬に入ってはいないが、大人の目からすれば一年程度は酷く短い。
来年の三月となれば尚更短く感じるものだ。彩斗もカードから目を離し、少年達の進路を思い出す。
彼は戦いを引き起こす前に事前に進路についてを尋ねたが、子供達は皆一様にまるで変わらない将来を語った。
蓮司はこのままヴェルサスに。鳴滝も正社員としてフォートレスに就職し、クルスはヴェルサス所属のロボット乗りになる。
奈々は中学を卒業した後に東京の高校に通う。既に親達とは相談を重ね、教師にも希望届は提出している。
早乙女家は家族全員で引っ越しとなり、これを機に蓮司の父親も働き先をフォートレスに変えるそうだ。職種は異なるものの、父親は真面目な性格だと蓮司は口にしている。
戦闘員としてではなく、このまま業務担当に回ってくれれば力となるだろう。
一月から四月の頭までは早乙女家は忙しくなる。その間はヴェルサスでも出撃を制限し、環境を整えることに尽力してもらいたい。
「んで、卒業が済むまでに一発ラスボスっぽいのを出そう。 それで一区切りってことで」
「長い休眠期間を与えて次にってか? 本当、よく考えるよ」
「戦闘が頻発する期間が増えれば増える程皆苦しくなるからね。 今後ずっと続けるなら長めの休みも取らせないと」
一生涯続けるなら、何処かで区切りを設けて長い休みを取らせなければならない。
それを彼等の卒業に合わせ、近付けば近付く程に戦いの過激さを増やす。最終的に星が作り上げた何かしらの超常存在をぶつけ、そこで一旦エンドを迎える。
シナリオとしてはこの形だ。彩斗としてもゆっくりする時間は欲しいし、澪も更なる技術獲得に専念したい。
「――まぁ、長期の話は今はこれで良いだろ。 取り敢えず今は戦艦を動かすとしようぜ」
「心躍るね! 今から皆がどんな顔をするのか楽しみだ!!」
二人は話を終え、部屋を出る。
目的地はブリッジ。いよいよお披露目の時だと、二人は目を輝かせていた。




