光あれば闇あり。というか闇しかないだろ!
試作稼働機体の運搬の手筈を整えている頃、田舎の風景が広がる空には数人の影があった。
澪、イブ、モザン、そして彩斗。
四人は喜びの声が響く小型端末を見つつ、全員が晴れやかな顔を浮かべていた。
ロボットを作ることを決め、デザインやスペックを見せ、それでもやはり不安だったのは事実。どれだけ自信作を提示したとしても、一抹の不安を抱かないことは無かった。
問答無用で納得させることは出来る。澪や彩斗が決定だと言えば、如何に彼等が不平不満を口にしたとしてもそのデザインやスペックのまま正式運用が行われる。
しかし、それでは何も楽しくはない。
彩斗達が求めているのは歓喜であり、悦楽であり、高揚だ。それは自分達が良ければ良いのではなく、仲間全員が良いと定めなければならない。
今回、彼等は和を重視した機体を良いと判断した。
正しく日本を守る武士。祖国を守護する者としてこれ以上は無い。
些か前時代的にも見えるが、それが逆に浪漫を擽る。男も女も興奮して、正義の味方の誕生を挙って礼賛していた。
その実験を後日行う以上、素晴らしきものにしたいと考えるのは自明の理。
少なくとも、怪獣と互角に戦える事実を皆で理解しなければならない。その為の手段として、やはり怪獣をぶつけるのが一番手っ取り早い。
「稼働実験には怪獣を乱入させるよ。 海から無人島地下を掘り進み、直接下から襲撃させる形だ」
「ま、戦闘の形跡を残さない為にはそうするしかないな。 ……で、怪獣はどうする? 作るにしても時間が掛かるだろ」
「まぁね。 今回は速さを重視するので、性能はお察しだ。 水の龍を適当に見繕って、体内に骨とか核を置くだけにしておくつもり。 遊びが入れられないけど、真剣な戦いを演出する程度には強いよ」
澪が今後の予定を口にし、そうだろうなと彩斗も納得する。
彼女が急ごしらえで作るにせよ、半端なモノにはしない。例え彼女の中では質が低くとも、その性能は間違いなく街を滅ぼせる程度はある筈だ。
今まで空我に倒された怪獣とて、止められる相手が居なければ蹂躙も可能だった。
この戦いは空我の時よりも断然厳しい。容赦も慈悲も有りはするものの、難度で言えばノーマルがハードに上がったようなものだ。
負傷はするだろうし、トラウマを刻まれる可能性もある。彩斗が直接関与しないのであれば、彼女は自分の都合を最優先にしていた。
「で、澪さんと彩斗さん。 戦艦のお披露目は何時頃に?」
種は海に投げ込めば直ぐにでも深海で形となる。
フォートレスの準備風景を見ながら此方も準備をしていくことになるが、今日限りは身体の力を抜いても構わないだろう。
二人はそう判断し、直後モザンが期待感を滲ませながら質問を投げる。
件の戦艦はただそこに設置する為にあるのではない。活躍させたい気持ちは当然あり、ならば世に見せるタイミングもとうに決まっている筈だ。
瑠璃色の髪を揺らす彼女を見つつ、二人は顔を合わせて困ったように頬を掻く。
別段隠していることではない。質問されれば話すつもりであるが、今はまだ出すべきではないだろう。
「そうだねぇ。 取り敢えずはロボット達を優先させたいから、彼等が有名になってきた頃かな。 その間に怪獣を大量に野に放つつもりだから」
「となると…………あー、秋か冬くらい?」
「そんな感じだね。 先ずは彼等の実績を作らないと」
予測したイブに澪が肯定すると、モザンは見るからに気落ちした。
別段最初から最後まで自分一人で作った代物ではないが、折角完成したのだ。周囲に自慢したい気持ちは解るし、彩斗とて本当であれば直ぐにでもお披露目の段取りを組みたかった。
しかし、今は謂わば無双期間に入るまでのタメの時間だ。
アニメやドラマでよくある、強化形態や新キャラが一番に活躍する前なのである。この水龍を始めとして様々な怪獣を彼等に解決させ、知名度と強さを宣伝するのだ。
空我のように弱い個体だけをぶつける真似はしない。確りと強い個体もぶつけ、その上で勝利をもぎ取ってもらう。
「まぁまぁ、退屈している時間は与えないさ。 これまで休んでいた分、これからは一気に色々出していくよ」
「別に僕は休んでいないんだけど……」
「戦艦作りを喜々としてやってたみたいだけど?」
「休んでないのは一緒だよ。 僕も向こうの社員旅行に参加しても良いでしょ?」
ほぼ半年に至るまで怪獣は作製していない。
ヴェルサスの活動目的として怪獣を作っていない以上、怠けていたという澪の発言は正しい。しかし、彼等が準備をしていたのも事実。
多分に趣味の混ざった物を作っていただけに準備をしていたとは言い難いが、モザンとしてはこれでも次の過程への準備をしていたのだと言い放った。
そして、だからこそ休息を求めたのである。自分は十分に働いたのだから、それに対する正当な報酬があっても良いではないかと。
フォートレスは名目上、社員旅行として無人島に向かう。
参加する人間はその殆どが計画を知っている者達であるが、怪しまれることを避ける為に他の社員も参加させる予定だ。
基本的に希望性ではあるものの、工場や配送の人員については作業に問題無い程度に残す。残された面々も後日旅行に連れて行くのだが、その旅行にモザンが参加したいのだ。
イブは興味が無いのか、空中に胡座を掻いている彩斗の足の間に収まっている。
ご満悦な表情を浮かべ、背中は完全に彼に預けていた。人工物とはいえ軽い彼女の体重を受け、彩斗は甘やかすように頭を撫でる。
イブにとっては彩斗に構ってもらえる方が大事だ。旅行などなんのメリットもない。
「まったく、仕様が無い奴だ。 ――彩斗、黒服姿で子供組と一緒に連れて行ってくれないか?」
「良いぞ、別に断る理由も無いしな。 様子を見るのも俺が居れば十分だろ」
彩斗が一緒に行けば態々監視カメラを放つ必要も無い。
強制的に彩斗も旅行に参加することになるが、そもそも彼は引率役として子供組と一緒に付いて行くことになるのは解っている。
これは決して遊びではないが、折角の旅行に期待を抱いている社員に仕事をしている子供の姿は見せるべきではない。
無人島に行けば嫌が応にも真実を知ることになるが、それは一番最後。安寧の時間は誰にとっても用意するべきなのだ。
よって、子供組には純粋に旅行を楽しんでもらう。実験に参加するパイロットは社員になり、彼等が実戦にも出てもらうつもりだ。
「えー、じゃあ俺も行きたいんだけど……」
「お前は……コイツの傍だったら何処でも良いのか」
「あったりまえだろ! 親父のことだから途中で一人になるだろうし、その時に素を出せば十分に騙せるさ!」
「人の行動をさらっと決めるなよ……。 澪、良いか?」
「まぁ、アラヤシキは完成したし、今の所他に仕事を頼む予定も無い。 行きたいんなら行って良いよ」
「だってさ、良かったな」
「おう!」
快活な笑顔で彼を見つめ、そんな少女の純粋な表情の前で大人は容易く陥落した。
旅行当日までにはフォートレスの技術班が先行して無人島に向かい、迷彩装置の設置や簡易的な宿泊施設も建てる。
そこに皆が泊りつつ、二泊三日の旅行生活を送るのだ。
怪獣の襲撃は二日目の昼。三日目に被害確認を行いつつ、参加するであろう渡辺社長が何も知らない社員に説明する筈だ。
混乱は避けられない。この一件で不信を抱かれる可能性も、決して零ではなかった。
情報漏洩を防ぐ目的で秘密にしていたのだと言うことは出来るが、人情とは理屈ではないのを彩斗も澪も知っている。
論理的な説明をされて表面上は納得しても、裏で愚痴を吐いているなんてのは有り触れた日常だろう。
それでも彼等は最後には飲み込む。何せこの業務に無理に巻き込むような真似はしないと、渡辺社長が宣言するだろうから。
無理をさせてまで戦ってほしくはない。それはあの社長も一緒であり、優しき男であるからこそ強制や命令を何よりも嫌っている。
希望しないのであれば、必ずその業務からは遠ざけてくれるだろう。
「んじゃ、俺の方で連絡をしておく。 モザンとイブは了解が取れ次第買い物に出るから、そっちに連絡したら準備しとけよ」
「彩斗、僕が作っても良いんだよ?」
「時間の無駄だ。 既製品で解決するならそれで良いだろ」
さて、と彩斗は思考を別の方面に向けた。――女の服って、何が良いんだ?




