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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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G計画・試作稼働機体

「――完成だ」


 格納庫に野太い男の声が漏れる。

 彼は人類の刃の外観を作る責任者だった。技術班内でも二人居る決定権を有した一人であり、彼が率いる技術班の半数が今回の参加者だ。

 煤で汚れた作業着は着慣れたもので、これはプライベートで使っていた物である。  

 彼の趣味は車弄りであり、整備や調整に関しては一家言持っていた。今回の外観製作についても彼の指示で微調整をしつつ、完成された黒い骨格に嵌め込んで最終確認を幾度となく行っていた。


 組み上がった機体は全長としては六m。人型機動兵器としては些か小さいと認識されそうだが、そもそも怪獣との戦闘にサイズはあまり関係無い。

 必要なのは硬度、機動、威力の三点。

 それさえ足りていれば人間サイズでも良いのであり、よって大きさについては誰も否を口にはしなかった。

 代わりに満たしたのは、耳に痛い程の静寂。

 この場に居る技術班に、パイロット全員。社長である渡辺社長も無言となりながら三機の巨人を見上げ、ヴェルサスメンバーは空気を読んで口を噤む。


「これが、私達の刃……」


「そうだ。 G計画の出発点であり、人類初の牙――純粋な人が怪獣という厄災と対抗する、現状唯一の武器」


 即ち、対怪獣特化機。

 人を殺める為に誕生したのではなく、人類殲滅を掲げる怪獣を屠る日ノ本の刃。

 三機はそれぞれ明確な違いを持ちながらも、唯一一致している部分がある。

 一つは、艶のある紺の装甲を纏う武者。武装は両腰に備わっている二本の太刀に、胸部に備わる遠距離武装。

 人間のような顔立ちをしながらも、やはり機械的な面が目立つ。一本角が生えた兜は実に人々の目を集め、シンボルとしての役割を全うしていた。

 

 一つは、件の装甲を減らして機動性を向上させた銃撃者。

 背には古き火縄銃を彷彿とさせる長大な狙撃銃が備えられ、腰には木製と鉄が融合したかの如き和の小銃が一丁ずつ用意されていた。

 武者にはあった肩を覆うような鎧が消え、胸元や腰等を防御する鎧はそのまま。兜も存在せず、露出した頭部はやはり人間味がある。

 目印となるのは、やはり背負っている狙撃銃だろう。頭部から足首まで長い銃は、取り回しという意味では扱い辛いとしか言いようがない。


 一つは、西洋の鎧に陣羽織を混ぜた槍兵だ。

 三機の中で最も格式高い見た目をしておりながら、この機体の役割は即ち一番槍。

 最も人目を惹き、最も死の危機に近付く存在である。背面には他の二機と比較すると巨大なブースターが搭載され、更に脚部や腕部にも小型ブースターが付いていた。

 細く長い槍は背にマウントされ、その姿から連想されるのはやはり中距離で戦う姿だろう。

 それは間違いではないが、しかし腰についた六つの手榴弾が中距離だけを相手取る訳ではないことを示している。


 三機共有の特徴は単純明快。

 即ち和であること。日本を守る守護者として、やはり国家の特徴は統一すべきだろう。

 彩斗の趣味でもあるが、変に諸国が所有する兵器だと誤解されたくはない。相手が逆に考えてしまっては意味が無いものの、少なくとも初見で外国の兵器だと認識されることはないだろう。

 

「喜べ、諸君! ――お前達の手で、祖国を守ることが出来るぞ!!」


 バゼルの喝采の声に、途端に人々は喜びに湧いた。

 格納庫内に轟く歓喜の絶叫。ヴェルサス頼りだった現状についに協力することが可能となり、渡辺社長も感嘆の吐息を思わず零してしまう。

 威風堂々たる佇まい。護国の鬼としての勇壮な面立ち。修羅となって怪獣を討伐するだろうその姿を幻視して――やはり空我は遊びの玩具でしかなかったのだと皆は理解させられた。

 そうだとも。目の前の三機に比べれば、空我の圧はあまりにも薄い。

 いっそ無いも同然であり、あれで日本を守るなど片腹痛いだけ。過去の自分は無知蒙昧だったのだと恥を覚えながらも、バゼルは次の言葉を口にする。


「この三機は間違いなく怪獣に対抗することが出来るだろう。 我等ヴェルサスの技術班が本気で設計し、組み込めるだけの手段を全て搭載させた。 どの機体も自慢の子供のようであり、されど我等は決断しなければならない。 ……この三機の中から、我等は一機を選ぶのだ」


 そうだ。この三機は共に素晴らしいが、真に選ばれるのは一機のみ。

 三機全てを選ぶことも不可能ではないが、しかしそれでは更に施設を拡張しなければならない。

 今回の格納庫は予め三機と定めていたから入れることが出来ている。これで四機や六機と数を増やしていくのであれば、施設の拡張は急務だ。

 それだけの余裕を今のフォートレスは持っていない。人的リソースは勿論のこと、そもそもの資金が不足してしまう。

 

 未だ資金は稼げているものの、此方に心血を注いでは会社が傾く。

 フォートレスはあくまでも一会社であらねばならないのだ。それを超える力を世に示した時、世界がどのような対応を取るのかなど想像に難い。

 故に、選ぶべきは一つだけ。後は基軸となるボディに各々が得意とする武器を装備して、彼等は戦場に立つことになる。

 

「もう初夏は過ぎました。 子供達も夏休みを迎え、時間は大いにあることでしょう」


「然り。 であれば、実験をするとしよう」


「ええ。 その為の土地は既に用意しておりますので、運び込めば直ぐにでも開始出来ます」


 機体を組み上げている間、渡辺社長は社員旅行目的で一つの無人島を購入した。

 世間には日頃ヴェルサスの下で頑張っている社員を労わる為にと情報を流しているが、勿論怪しんでいる者は怪しんでいる。

 未だ怪獣の脅威によって海を渡る行為も一種チャレンジ染みているし、経済力が明瞭に低下したこの社会で態々無人島を購入する目的が些か善人過ぎた。

 これが平時であれば素晴らしい社長だと評価されたのだろうが、これまでの政府関係者の逮捕や会社の幹部陣の黒い行動によって、富裕層に信用の目が向けられ難くなっている。

 

 これについては彩斗達にとっても予想外だ。

 富裕層の位置に居る人間がここまで愚かだと想定していなかったのである。まさか漫画や小説に出てくるような無能が出てくるとは予想しておらず、結果的に平等を謳う人間が増えてしまった。

 今回の一件について、政府関係者も目を光らせていると斉藤は口にしている。

 独自の情報網から日本を含めて複数の国の動向を伺う彼は、無人島で何かが起こると上層の者達が予想していると知っている。

 

 それでも、渡辺社長に迂遠であれ質問をする輩は現れていない。

 仮に彼等の予想が真実であったとしても、それを止める術は無いのである。彼等はヴェルサスに病的に怯えているから、出来ることなら関わり合いになりたくないと極力距離を置いていた。

 

「無人島の四方向に迷彩装置を設置する。 これを用いれば、実験をしている姿が観測されることはない」


「では機体の運搬は私共が行います。 直接空を飛ばせば良いのですか?」


「そうだ。 あの三機にも小型迷彩装置が搭載されている。 有効時間は三十分と長くはないが、無人島に到着するまでは保てるだろうさ」


「解りました。 ではその通りに」


 距離を置いているとしても、監視の目を入れていないと考えるのは愚かだ。

 その対策をしつつ、機体の搬入をさっさと終わりにしよう。ついでに社員旅行をこの機会に催せば、言い訳としても成立しやすい。

 時間は刻々と迫っていた。新たなる戦いに向け、人類は牙を研ぐ。

 その力が一体何処から来るものなのかも知らず。その力の限界がどの程度なのかも知らず。

 遥か離れた鉄の城の中で、灰の女は喜悦を浮かばせた。

 その手には一枚のタブレット。画面には、形となった怪獣の影。


 ――いざ、新たな局面を。手にした刃の切れ味を、どうか私に見せておくれ。

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