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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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量産性の無い機体

 最初にこの計画が始まってから、準備をするだけでも相応の時間が過ぎた。

 子供組は学業に専念しつつ操縦訓練を受け、連携や今後搭載されるであろう武装の知識を身に付けていく。

 ヴェルサスとフォートレスは工場稼働中に格納庫を完成させ、そのまま稼働実験用の機体作製へと移った。

 大元のデザインや詳細な情報の少ない設計図はフォートレス側に渡し、主に彼等は外観の製作を進めていく。ヴェルサスは澪達メンバー全員に詳細な情報が共有されているので、設計者本人が居なくとも製作が進めることは可能だ。

 陣頭指揮はバゼル。

 本格的に機体本体を作る過程でメンバー全員の手が借りたかった。

 

 彩斗による監視を受けながらも彼は的確に澪、モザン、イブの居ない隙間を埋めて順調に中身の製作を進めていく。表立っては彼はヴェルサスのリーダーの一人であるのでフォートレスの目がある時は姿を見せなかったが、その時は彼等独自の回線を用いて指示出しを行っていた。

 気付けば年初やバレンタイン、節分というイベントは過ぎて初夏に近付いている。

 夏の暑さはまだ訪れてはいないまでも、一ヶ月か二ヶ月後には完全な夏が訪れることだろう。


「稼働実験はこの分だと夏になるな」


「そのようですね。 レッドさん達からも実験場所については書類を頂きましたので、今の内に決めておきましょうか」


 場所は社長室を離れ、大型工場施設の一室。

 本日は進捗を確認する為に訪れ、そのついでに今後についての軽い打ち合わせを行っていた。

 一社長が行うべきではないが、隠している状態では直接彼本人が動いた方が都合が良い。彩斗も今回は黒服姿で現れ、窓口担当として机を挟んで向かい合っていた。

 折り畳まれた書類を渡辺社長に渡すと、彼は流し見するようにページを捲る。

 その姿は読んでいないとも受けとれるが、勿論彼は読んでいた。これに関する新しい情報は彼にとって逃せぬものであり、あまりにも期待し過ぎて情報の読み込み速度が一部バグを引き起こしているのだ。


「レッドさん達から事前に相談されましたが、出来れば人目の無い無人島で実験は行いたいそうです」


「同感だな。 発見を防ぐ迷彩装置の設置も、無人島のように人の往来が無い場所で行わなければ意味が無い」


 稼働実験については渡辺社長も彩斗も同様の意見だ。

 無人島に実験用の機体を運び込み、迷彩装置を島の四隅に設置してあらゆる勢力に察知されないようにする。

 正体の露見を避ける為でもあり、この迷彩化は欠かせないものだ。故に渡辺社長は頭の中で無人島の買い上げを決め、段取りを自分の中だけである程度設定しておく。

 何処の組織もフォートレスの行動には注目しているのだ。なるべく目立つ振舞いはしたくないが、無人島購入が目立たないと考えるのは愚かだろう。 

 追求されることを見越しつつ、その上で不自然ではない理由付けが必要だ。


「表向きとしては社員達の旅行地とでもしておくか? なるべく他所の場所に旅行に行かせて、良からぬ連中に攫われる訳にはいかない」


「社用ビーチといったところですかね」


「そんなところだな。 丁度完成時期も夏だ」


 となると、旅行地向けの偽装も必要だ。

 何も無い無人島が一つあるだけというのも不自然であるし、ヴェルサスが関与しない旅行で万が一があっては不味い。

 世の中にはキャンプという言葉があるが、全てを自分で用意するのは骨だ。危険回避の意味も兼ねて宿泊スペース等は作っておくべきだろう。

 一つが完成するとまた一つ作らねばならないものが出来る。今回は通常の宿泊施設であるので、工場施設と同様の素材を用いれば特には問題になるまい。

 

「ところで、現在の進捗はどれくらいだ」


「三機全てと考えると、全体としては六割です。 一機分なら一週間以内には内部は完成するでしょう」


「此方は外観だけだから楽なものだよ。 一週間以内に全機分が完成する。 ――しかし、プラモ方式は実に便利だな?」


 澪が気合を入れて作っている作品故に、内部ギミックは実に豊富だ。

 それ故、進捗が進むスピードも少々遅い。邪魔が入ったことも合わさり、既に当初完成するだろう時期は過ぎると確実視されていた。

 事前に澪がプラモ方式で作ることを決定していなければ、完成までの速度は更に遅くなっていただろう。

 夏までに完成出来ると皆が思っているのは、彼女が最近取り入れた新方式あってのこと。

 作りやすさと整備のしやすさの両方の良い所取りをした方式は、既にフォートレスの技術部でも似たようなことが他の製品で出来ないかと模索されていた。


 この方式の弱点は、パーツ毎に細かく単純に分割されているので接続部を確りしておかないと容易に外れてしまうことだ。

 接続部に負担の殆どが掛かり、普通の材質では耐え切れずに損壊してしまう。これを確り維持出来ている時点で並の技術ではなく、元々の材質も技術班をもってして解析不能と出ている。

 ヴェルサスの技術や素材は、既存の如何なるものを凌駕しているのだ。それを渡辺社長は再認識し、真似をするのは何処の国でも無理だと断言していた。


「どの箇所が壊れていても、事前にパーツが揃っていれば僅か三時間で交換が済んでしまう。 機体の堅牢さも完成図からも想像出来ない程硬く、後は内臓されたシステムに不調が無ければ完璧だな」


「システムのバグ等は一度試さないことには解らないでしょうね。 サポートOSはパイロット達のシミュレーション結果から常時調整を入れているようです」


「そうか、それは完成が楽しみだ」


 少年のような笑みを浮かべる渡辺社長に、彩斗も微笑む。

 この実験機の完成は人類の更なる進歩には貢献しない。全て秘匿され、完全なオーバーテクノロジーとして墓に持っていく。

 その後、細々とした打ち合わせをした後に二人は解散した。

 社長は車で会社に。彩斗は工場内の秘密ルートを通り、一般の社員と顔を合わせることなく格納庫に到達する。

 未だ骨格ばかりが並ぶ格納庫は、しかしそれはそれでマニアが喜ぶだろう。

 今はその周囲をメンバー達が駆け回り、急速に完成へと近づけている。


「彩斗様、どうでしたか?」


「ん、まぁ大丈夫。 あの顔なら無人島購入に確り踏み切ってくれるだろうさ」


「では我々は迷彩化も作っておきましょう。 向こうの戦艦に用いている物と同一で構いませんか?」


「そっちを気にするのはまだ先で良い。 今は先ず、目先の物を完成させるところからだ」


「――その通りだ。 よく解っているじゃないか」


 先に降りて来た楓と短く会話をしていると、バゼルが近寄ってくる。

 その顔は相も変わらず狂相的だ。本人には戦闘の意思が無いと解っていても、無意識に身体が警戒信号を発してしまう。

 意識的に無防備な体勢を作り、彩斗は真面目な顔でおうと答える。

 迷彩化は必要であるとはいえ、後回しにしても良いものだ。既に完成品は戦艦製作に使われ、あちらの進みも此方と同様に少々遅れている。

 邪魔が無ければ、今頃は各施設は完成していただろう。邪魔が入ったばかりの澪の舌打ちを思い出して、背筋に冷たいものを感じた。


「彼女から連絡が入った。 我等の拠点については、そちらが完成するよりも先に終わるそうだ。 此方は昼夜問わずには作れないからな」


「そうか。 なら、戦艦に使っている分を無人島に回そう。 あっちは自前のものでいける筈だ」


 空中戦艦・アラヤシキには最初から迷彩化のシステムが入っている。

 完成してからの移動は全て透明な状態になった上で行い、そうなると製作時点で使われていた迷彩装置が余ることになる。

 それを使わせてもらえば、態々新しく用意する必要も無い。――――向こうは今頃必死な顔で作っているのだろうと、彩斗は少しイブとモザンに同情した。

 

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