終わった者達に目を向けず
「――以上が、我々に対して行われた攻撃の全てでございます」
奈々がビジネススーツを纏い、粛々と言葉を述べる。
此処はフォートレスの配信室。セットを作り、段取りを組んだ上で二つの組織に攻撃を仕掛けようとする真木の親が治める会社を逆撃した。
事前に配信告知をしたお蔭で、閲覧者数も突発的配信より多い。
コメント欄も大賑わいだ。正々堂々と悪果を切り捨てるスタイルのお蔭で、自分達が疑似的であれど正義を成せる義人だと無意識下で浸ることが出来る。
この配信が終わった後、件の会社は一気に倒産へと傾く。如何に自身の正義を主張したとしても、彼等は確かに悪事を働いていたのだから。
その証拠を提示され、今更戻れる筈もない。その悪行を背負ったまま運営する他無く、かといって日本の汚点となった会社を政府が許す筈がなかった。
それに、政府内にも加担した人間が居る。そもそも、事の発端は政府内のとある人物からの提案だった。
彼等の繋がりは、言ってしまえば発起人からの接触である。
その人物は複数の会社を調査し、経済的にダメージが少ないながらも規模が大きい組織の上層部の裏を洗った。
何時の時代も上に行けば行く程悪事を働いているものだ。今回の会社は幹部陣が社長を廃し、彼等のみが甘い思いを出来る構造を作ろうとしていた。
具体的に言えば、展開された店舗の活動資金の縮小。利益の取り分を六対四から七対三に変え、商品開発部の予算も減らすつもりだった。
その全ては表上は組織の健全化に使われ、裏では彼等の贅沢な暮らしに消費されるのだ。
解り易い下種の集団であったことで、話にも非常に乗り易かった。秘密の契約書を作成し、成功した後にはヴェルサスの技術も共有化させようとしていたのだ。
勿論、情報も隠せる限り隠した。幹部陣は常に誰かの目がある前では社長を立て、気さくで明るい優しい集団を構築したのである。
内部にスパイが居ても話が聞かれる筈がない。パソコン等の外と繋がる機器には一切の情報を残しはしなかった。
それでも、全ては露見した。
切っ掛けとして報じられた政府関係者との会食費隠蔽から内部の情報まで全てが筒抜けで、幹部同士の密会時の肉声すらも録音されて発表されている。
予め従業員を偽装させ、盗聴器等を仕込んでおかねば聞くことは出来ないだろう。何時も幹部達は密会場所を一ヶ所に定めていなかったので、予測して準備しておくことは不可能に近い。
ならば、ずっと傍に居たと考えるのが妥当だ。直ぐ近くで息を潜めて情報を収集されていたのだとすれば、それは何時でも殺すことが出来ることになる。
全てを知られ、全てを世に広められ、幹部達は緊急記者会見をすることになった。
前に出たのは会社の社長である真木の親だ。幹部達では嘘偽りを述べる可能性があるとして、彼が出てくることになった。
会場では長机に一人だけ座り、無数の報道陣の視線を受けている。
報道陣からすれば今回の事件は良い飯の種だ。積極的に追及することも出来るとなれば、記者達の質問にも熱が乗る。
社長である真木の親は何も知らない。されど、彼は静かに淡々と知らない筈の質問に答えていく。
彼の頭の中には娘から渡された台本の内容があった。
娘だけは全てを知り、少なくとも自分達は被害者であることをアピールする為に何も言わずに覚えろと台本を彼の前に叩き付けたのである。
何故娘が、とは彼は思わなかった。蓮司という繋がりがあれば、ヴェルサスが動いていても何も不思議は無い。
妻は彼に離婚届だけを残して姿を消した。娘は部屋の中で泣き続け、学校を今も休み続けている。
会社の倒産は確定だった。政府からも直々に畳むことを命じられ、現在は次の社員達の受け入れ先を必死に探している。
幹部達も政府関係者も逮捕され、与えられる罰はかなり重くなるだろう。
最も手を出してはいけない組織に手を出したのだ。罰金も、懲役も、普通の罪人と同様には扱われない。
拷問が許されるのであれば今頃は拷問漬けだった。一般の人間が罪人に石を投げることが出来れば、今頃は石の礫で死んでいたに違いない。
「……倒産までの速度が驚異的ですな」
「それだけ早く汚点を消したいということだ。 各国からも非難が向けられているようだしな。 これで本格的に我々ヴェルサスが日本を離れれば、暴動にまで発展するだろう」
「同感です。 国民も我慢を忘れて発散に動くでしょうね」
フォートレスの社長室で渡辺社長とレッドが会話する。
どちらもその顔には穏やかなものがあった。これで余計な邪魔が居なくなったと喜び、やりたいことに専念出来ると安堵している。
情報収集は恙なく終わらせることが出来た。会社周りは斉藤が全て調べ上げ、外での密会や政府関係者の特定はイブと澪で完遂したのである。
透明な小型蜘蛛を潜り込ませれば、如何な人間であれ特定は難しいだろう。幹部達の服の中や鞄に潜み、収集した音声はリアルタイムで澪達の元に届けられた。
「それで、続きは何時頃からになりますか?」
「そう焦るな。 緊急故に一度休みを挟むべきだろう。 我々とて体力が無い訳ではないんだ」
「おっと、これは失礼しました。 ――でしたら、一週間は休息するべきでしょうかね?」
既に渡辺社長の中では件の会社は過去の出来事になった。
もうじき潰れる会社を思っても意味は無い。所詮は大した名分も存在せずに行動した集団なのだから、裏側に思慮を向けても収穫らしい収穫は無いのだ。
ならば、自分達の本来の目的を優先した方が良い。
渡辺社長の思考は容易く把握出来るもので、呆れながらもレッドはまだ早いと諭す。
短い期間であったとはいえ、疲れていない訳ではない。動いたのは殆ど他の者達であるが、意見を纏めて台本を製作したのはこの二人だ。
暫くは落ち着いた時間が流れるだろう。その間に休みを取るくらいは許される筈だ。
「通常業務は忘れるなよ」
「勿論です。 新作の宣伝もしたお蔭で予約が殺到していますから、これから配送関係で忙しくなりますよ」
配信の最後にこっそりと宣伝もしたお蔭で新作の予約も大量に来ている。
製作自体も動き出し、もうじき大量に完成することだろう。梱包作業や配送に膨大な時間が掛かるだろうことは既に想定され、割くべき人員についても密に会議を行って決めてある。
ロボットの製作は勿論大事だが、足元にも目を向けねば土台が崩れかねない。
どちらも上手く回してこそだ。一週間というのは今回の件で動いた面々が休む期間であると同時に、新作に注力する期間でもある。
「蓮司君の方はどうですか。 これで少しは暮らしやすくなったと思いますが」
「元よりアイツは誰とも関りを持っていない。 あの二人を除いて、関係性は希薄だ。 周りがどれだけ騒いでもあの三人は変わりはしないさ」
「そうですか。 その分だと、もしも結婚するとしたらあの中からなんでしょうかね」
「知らんな。 どうなるかはあの三人が決めることだ」
子供組の生活が安穏としたものになるかどうかについて、大人達は関与しない。
メンバー達とて蓮司達の生活にまで口を出すつもりはなく、どんな関係性になろうとも良いと本気で思っていた。
とはいえ、結婚すれば祝福くらいはする。あの少年がそこまで考えられるのならば、少なくとも問題の共有は確りするだろう。
最後に軽い雑談を終え、二人は別れた。互いにあの会社の未来について思うところは無く、切っ掛けである社長一家の末路についても興味は無い。
落ちぶれても、逆境で奮闘しても、どうなっても手を出す真似はしないつもりだ。――終わった者達に意識を向けるのは時間の無駄となるのだから。




