勢い任せの暴走特急
当初、開発は順調に進むと思われていた。
勿論それには邪魔な勢力が介入をしないことと、極端に大きなミスをしないことが前提とされていたが、それでも澪達の計算の中では確率は低いだろうとされていた。
けれど実際はやはり計算を凌駕するようで、開始二日目から始まった建築は澪にとっても驚異的な速度で完成を目指している。
元々構造物の理解に社員が長けていたこと。組み立て方がプラモデル方式と呼ばれる特異で簡単な方法であったこと。
一度でもプラモを組み立てたことがある人間であれば要領は得やすいもので、故に解ってしまえば重量が軽減されていることも相まって簡単に組み上がっていく。
「おっそろしいぃ。 皆初めて建てるんだよね?」
「そうですけど、図面が異様に解り易いんですよ。 それに一部が暴走してますから、熱意だけで施設を作ってます。 ……ちなみに筆頭はウチの社長です」
奈々の引き攣った顔に鳴滝が理由を説明しながらも、笑い声を周囲に轟かせながら作業している社長の姿に同様に頬を引き攣らせた。
腕は動かしているので問題は無い。蓮司も屋上付近に資材を持ちながら飛び跳ね、今はアントとどちらが多くの屋根材を張れるか競っている。
この競争には何の報酬も無いが、超能力者と競えている事実だけで蓮司は燃えるのだろう。
動いている手は既に見えず、アントも瞳を燃やしているかのような幻影を浮かばせて腕を高速で動かしていた。
「はっはっはっは、実に良い! その熱意は素晴らしいぞ! 俺も負けてはいられないな!!」
「バゼル様!?」
フォートレス側の暴走車が渡辺社長であるなら、ヴェルサス側の暴走車はバゼルだ。
地面に建物一つ分の壁を組みながら並べ、それらを一つずつ立てている。
本来ならば二mサイズの壁を積み上げるように施設の外観を形作っていくのだが、バゼルは細々とした作業の一切を地面で済ませてから一気に持ち上げて完成としている。
当然だが、ただ立ち上げただけでは完成にはならない。他の壁とも接続し、内部も作らねばただの巨大な一枚壁だ。
それでもバゼルが外観を一気に完成させることで内部に手を出しやすくなる。四方を囲み、接続を済ませてからは玄関となるような場所から入って社員達は内部の形を作り上げていく。
三つの建造物に共通しているのは、一階に発電設備を設置することだ。
図面の説明にも第一優先事項として発電機の取り付けが指示され、彼等は発電機を取り付ける部分の床を先ず完成させてから本体を設置。
そのまま配線を各所に伸ばしながら床や柱を作っていき、配線をその内部へと隠していった。
「……ヴェルサスの方々が本気を出すとこれだけ速く進むのでしょうか?」
「そんなことはないと思います……」
クルスの純な疑問に、彩斗は疲れた顔を浮かべていた。
初日に注意をしたのに、やはりバゼルは暴走する。最初の設定では過激的な思想を持つだけの男だったのに、言動の全てが暴走するようになってしまった。
トリガーは間違いなくこの土地と渡辺社長の言動だろう。最早バゼルを止めることは不可能であり、進捗が圧倒的に進み過ぎているが故に止めるだけの理由も無い。
これで施設を爆破させるような杜撰な組み立て方をしていれば殴ってでも止めたのだが、バゼルもまた澪から生まれた人造生命。
熱暴走寸前まで演算しつつ、彼の手付きは熟練の技術者が如くに正確無比を極めている。
『おーい、進捗はどんな感じ?』
『情報共有して。 なんか、見ているだけなのに疲れた』
『え、どうしたの――――えぇ……』
途中経過を聞いてきた澪も情報共有をした所為でドン引きだ。
いや、早く終わる分には構わない。構わないのだが、これは些か早過ぎはしないだろうか。
冷静なのは子供組の女性陣と、一部の社員だけだ。残りは渡辺社長とバゼルの勢いと新しい建築方式に興奮して盛り上がっている。
ともすれば戦艦よりも早期に施設は完成するだろう。実際はこの三つの施設を中心に更に多くの建物を作るのだが、生産地点としての形を優先することで表立っては裏の無い開発計画だと世間に思わせるのだ。
その内の一つがロボットの生産工場になっているとは誰も考えまい。出撃場所にも工夫を凝らし、露見は限りなく零にするようにしている。
『こりゃあ僕達も頑張る必要があるみたいだね』
『いや、そっちはそっちの流れで進めてくれ。 無理に合わせる必要は無いぞ』
『そう? んじゃ、引き続きそっちは任せた』
『りょーかい』
最後に軽い挨拶を交わし、彩斗とクルスも止まっていた手を動かす。
そこから更に三日が過ぎ、四日が過ぎ、一週間を超える頃には三つの建物はその巨躯を誇るように聳え立っていた。
内部もほぼ全てが出来上がり、社員達は最後の作業に勤しんでいる。
彩斗はミスがあるかをアントと楓に見てもらいながら調査し、子供組には居住スペースの部屋数を確認してもらっている。
万が一部屋数がズレていた場合、それもまたミスに直結するからだ。
しかし、どれだけ調査をしてもミスは見つからない。暴走特急のように作業しながら、精密な部分も完璧に仕上げてみせた。
発電施設も三つ分が既に正常に動作し、夜の荒れ地に光を与えている。
空気中の水分を収集する装置も順調に稼働中だ。生活及び工業用水としてこの装置は欠かせず、使用した後の汚水は地下の貯水タンクに運ばれて元の水に変換される。
一緒に流れ落ちる髪の毛や薬品も完全に水に変わってしまう為、潔癖症な人間は知らない方が精神的ダメージが少ないだろう。
一応は飲み水に変換後の水を充てることはないが、緊急事態が発生した場合は種類を問わずに飲み水になる。
そして重要な生産ラインは、建築物の実に八割を使用して構築された。
十階建ての建物の八割を使用している時点で小規模な生産ラインを上回っているのは間違いなく、それが三つもあればフォートレスの生産量を容易に上回ることも出来る。
完成品は全て一階の集積所に集められ、フォートレスが派遣するトラックに積んで配達される手筈だ。
居住性よりも生産性を重視した為、生活スペースはフォートレスと比較すると狭い。それでも一人が暮らす分には問題は無く、食糧の問題は派遣されるトラックが持ってくることになっている。
「荒れ地のど真ん中に巨大な工場が三つ。 実に不自然! だが、それが良い!!」
「良くはないですけどね。 ですが、完成したのは事実です。 ――と、皆さんが出てきましたよ」
誰が盗み聞きをしているかも解らないので彩斗は仕事口調で話すが、バゼルはあまり気にした素振りを見せない。
彼としてはやっと大きな仕事を任せてもらえたのだ。それも自身の能力をフルに発揮出来る力仕事となれば、気の入れようも違う。
彩斗本人は気付かぬことだが、バゼルもまた他のメンバー同様に仕事を欲しいのである。
「お疲れ様です。 どうでしたか、調整の程は」
「ええ、完璧に仕上げました。 明日から稼働を開始させても問題ありませんよ」
「そうですか……。 本当にお疲れ様でした」
彩斗は手を伸ばし、報告を行った社員と握手を交わす。
あまりにも早い達成であるが、それは彼等の尽力あってこそ。まだまだ荒れ地は余っているものの、生産するだけであれば何の問題もない。
とはいえ、新しく建物を作るのはこれで一旦終了だ。道路がまだ残っているが、そちらは最悪道そのものを固めて解決する。
隠れ蓑として三つの工場は上等だろう。――ここから人類が怪獣を倒せるだけの力を手にするのだ。




