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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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世界で唯一の絶対君主

 避難は済んだ。

 全員が予め用意されていた施設に逃げ込む中、外は完全に極寒の世界に変わり果てている。生命無き世界に人は踏み入ることを許されず、草木も野生動物達も総じて氷のオブジェとなって氷結した。

 凍てつく空気は吸い込むだけで肺を凍らせるだろう。マスクや布で少しでも温めておかねば、単純な呼吸すらも満足に行えない。

 市内全域に広がる氷の世界で影響を受けていないのは怪獣と澪だけだ。怪獣側は白い息を吐きながらも彼女を睨み、澪は即席の氷柱の上に立っている。


 怪獣の数は死んだ者を含まなければ六。子供の姿は無く、見ようによっては餌を取りに来たと解釈することが出来る。

 そんな怪鳥達を見下ろし、彼女の口は先程から変わらない。

 冷酷無慈悲な女王。この死に逝くだけのような世界で、彼女は当たり前の如く生命を維持していた。

 勿論、それは容易なことではない。彼女は余裕な表情をしているが、その裏では複雑な演算が常に行われている。

 一つのミスがこの領域の破綻に繋がるのだ。だからこそ極力移動はしないし、表情も上手くは変えられない。

 

「来るがいい、劣等。 格の違いを教えてやろうじゃないか」


 演算、演算、演算、演算。

 彼女の周囲に展開された三m程の氷柱が一斉に砕ける。分解された欠片はしかし、そのまま空中に留まり切っ先を怪獣に向けた。

 風の後押しを得て、氷の散弾は一斉に射出される。一つは一つは小さい粒のような物でしかないが、広範囲に散らばっている所為で命中精度は段違いに高い。

 怪獣達は全員が翼を羽ばたかせて回避運動に入るが、その内の二体の翼に氷が命中する。

 刺さった氷は体温を奪いながらダメージを刻んでいき、翼膜を破壊して飛行能力そのものを喪失させた。墜落する鳥はそのまま頭から激突し、氷が一斉に二体の身体を覆い始める。

 

 何とか氷を引き剥がそうと足掻くも、一度地面や建物に接触してしまった時点で怪鳥が逃げ切ることは不可能だ。

 引き剥がすよりも先に氷が全体を覆い、血肉に至るまでを完全に固めてしまう。そうなればバゼルの命令も受け付けなくなり、完全氷結した身体に澪が氷塊を落した。

 堅固な氷塊と怪鳥が激突し、石と石が互いに砕けるように共に砕け散る。

 種もまた崩れ落ちる氷の塊達によって潰され、微塵となって証拠も残らない。さて、仲間の怪鳥が死ねば他が黙ってはいない。


 暴風や濁った粘性の酸を放ち、更に回り込みながら複数の方向から紫の怪しい液体を口から吐き出す。

 どれも人体に命中すれば無事では済まされず、澪は数舜の時間で全範囲をカバーする氷の盾を三重に展開。

 一枚は酸によって溶かされ、二枚目は暴風によって罅割れた。三枚目も決して無事とは言えない形となったが、毒物も暴風も完全に凌ぎ切っている。

 そのまま盾の表面から一斉に氷針を伸ばす。先端が鋭利な針が迫ったことで怪鳥は逃げるも、途中から針は方向を変えて追いかけた。

 予測演算、風力制御、温度調節。三つの作業をマルチタスクでこなし、的確に三体の怪鳥の胸を貫く。


 そのまま内部から凍らせ、機能を全て停止。

 種も針が正確に破壊し、氷針を解除したと同時に怪鳥の身体はゆっくりと落下した。

 残るは二体。圧倒と呼ぶべき状況で、怪鳥達は半ば及び腰だ。

 立ち向かうのではなくどうやって巣に戻るかを考えており、しかし彼女が作った怪獣を逃がすつもりは本人には一切無い。

 

「――そのまま凍れ」


 彼女の氷結は空気中に水分があれば何処でも発生させることが出来る。

 そこに距離は関係無く、風が入り込めるのであれば密室であっても可能だ。故に、こうして遮蔽物の無い状態で射程など意味を成さない。

 次の瞬間、いきなり怪鳥達の全身が氷に包まれる。

 突然の攻撃に怪鳥二体は慌て、無作為に動きながら攻撃を放つ。毒性のある粘液を吐き出し、無事な翼で突風を引き起こし――それでも彼女の演算の前では氷の勢いは止まってはくれない。

 敵対する者全てを滅ぼす女性。この世で生きる唯一の超越者。

 彼女の前で無事で済む者など、それこそ彩斗以外に居はしない。本来の性格を剥き出しにした残虐性は、ある種鬱憤晴らしも兼ねているだろう。


「ふん、所詮は雑魚か。 そろそろ介入の一つでもあるかと思っていたが、やはり何も起きないな……」


 最終的には二体の怪鳥も同じ結末を迎え、六体の怪獣が倒壊した建物の上で骸を晒すことになった。

 彼女は立ったまま。一歩も動かすことなく勝利を掴み、されど憂いの息を零す。

 期待していた訳ではない。寧ろ今回の戦いで、やはり星に意志は無いのだと再認識させられた。

 結局のところ人類の技術が進歩しなければ自分には匹敵しないのだ。彼女を力で捻じ伏せられるような人間は、この時代には存在しない。

 最強とは頂点である。頂点とは、その隣に誰も居ないことを指す。

 如何に親友である彩斗であっても、彼女と同列ではない。その身体は普通の人間と変わらず、頭脳もまた標準から逸脱しないのだから。

 

「此方は終えたぞ。 これから戻る」


『了解。 ……中々広かったな』


「ま、私の力は収束型ではないからな。 どうしても一定範囲にまで影響は出る」


 制限を掛け、空へと跳ねて氷の足場を作る。

 その上に着地し、悲惨な状態となったドイツを見下ろした。氷は時間経過で溶けるが、崩れた建物を全て戻すには時間が掛かるだろう。

 ライフラインにも甚大な被害が出ている。住める状態になるまでは、彼等はただ頑張ってもらうしかない。

 ヴェルサスは手を貸さないし、要求が来ても応じることはしない。これはある意味、馬鹿な真似をしたドイツ政府の制裁でもあるのだから。

 

『俺が拾うから一度大きく跳んでくれ。 そのままフォートレスに帰還するが、問題は無いよな?』


「ん、それで頼む。 バゼルも自主的に戻って良いぞ」


『あい解った。 二人で軽く愛でも語らっていると良いさ』


『何言ってんだお前は』


 呆れた彩斗の声を聞きつつ、澪は大きく跳躍。

 直後、上空から彩斗が炎を吹かせて上から姿を現す。そのまま彼女の手を取り、澪を横抱きにしながら彩斗は足裏から炎を噴射させて日本を目指した。

 

「暫くはゆっくりしようか」


「そうだな。 最近はドタバタし過ぎたし、一週間くらいは何も考えずに休もう」


 澪は彩斗の胸に余計に潜り込み、彼の心音を聞きながら雑談に興じる。

 冷酷な表情は優し気な女性のものへと変わり、相手が彩斗でなければ妙な勘繰りの一つや二つ考えたかもしれない。

 確かに、澪は最強だ。彼女に敵う存在など、地球上を探しても居はしない。

 全ての法則は彼女の手の中で、作り出した兵力は地球最強。それらは遊びという下らないもので使用されているが、本気で世界侵略を狙えば出来ただろう。

 実際、最初の内は澪もそれを考えていた。自分の親友を襲う不条理や社会情勢を見た時、いっそ全て破壊してから均等化させるかと思ったものである。

 

 だが、それでは結局疲れるだけだ。

 面白いものばかりではないし、仕事漬けに近い状態となってしまう。常に気を張らせるような真似を親友にさせたくなかったというのもあった。

 彼女にとって、やはり第一は変わらない。親友が楽しいと思ってくれる限り、彼女もまた喜ばしいと思い続ける。

 彩斗が生きている限り、澪は社会を一掃しようとはしないだろう。

 逆に言えば、彼が居ない時点で澪は清掃を始める。汚れ切った人類を滅ぼし、彼女にとって都合の良い世界を構築するのだ。


「折角女の身体だから、何処かデートにでも行ってみる?」


「レッドの顔で良いならな」


「勿論。 正体を知ってるんだから隠しても隠さなくても変わらないよ」

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