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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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悪にはそれ以上の悪を

 ――蓮司の行った暴露は、多大な影響を各地に与えた。

 ただ言葉として言い放っただけであれば幾らでも嘘だと糾弾出来たが、蓮司の手には無数の証拠動画がある。

 監視を続けたお蔭で向こうは勝手に情報を漏らし、夥しい悪行の数々を話してくれた。後はその情報の一部を端末で見せれば、反ヴェルサスの意識も自然と変わる。

 本人の姿に、本人のものとしか思えぬ声。書類もセットで見せ付けられ、更には明らかに元人と思わしきザルヴァートルの姿もある。

 確かに、彼等もザルヴァートルについては少し怪しんでいた。

 最初に紹介された際には対ヴェルサスの試験運用ロボットと言われ、しかし今の技術力でそんな二足歩行ロボットが作れるものなのかと考えたのだ。

 

 ヴェルサスに対抗出来るというのなら、それを怪獣との戦いに本来は投下すべきだろう。忘れてはならないが、ヴェルサスを倒したところで怪獣への脅威は取り除けてはいないのである。

 実際に最初に世間に発表された空我はまるで歯が立っていなかった。精々弱い怪獣を倒せる程度で、個体が強ければ容易く破壊されている。

 それよりも小さいロボットとなると、流石に無理があった。しかしそこは沢渡と言うべきか、複数の実験動画や話術を用いて思考を誘導させたのだ。

 実験内では金属の山をその手に持った巨大な機関銃で貫いた。専用のアームに付け替えた後で高速移動を行いながらザルヴァートル同士で模擬戦もしていて、その光景は漫画かアニメを見ているかのようだった。


 人は自分が理解出来る範囲を超えると、それが全て現実的に思えなくなる。

 ザルヴァートルの強さは間違いなく同じ人型を超越していて、あのヴェルサスの戦闘動画とどこか重なっても見えていた。

 だから信じたのだ。その裏にある、非合法な実験が行われた事実を知らず。

 故に、見せ付けられた情報に絶望した。自分達は、確かに善良な誰かを踏み潰して暴力を行使しているだけだと。

 ヴェルサスを非難することは出来ない。間違いは自分達の方であり、質の悪さで言えば此方が上だ。

 隠れていた警察が鎮圧に動いても暴徒は何もしなかった。その目に鬱々としたものを抱えつつ、大型の車両に乗せられてどこかへと運ばれた。


 そして、フォートレスの方も無事に片付いた段階で澪と彩斗が動く。

 先ずは緊急配信。二日休んだ後に蓮司と奈々を動かし、配信を用いて今回の暴動についての説明を世に流した。

 暴動の原因と、扇動者の存在。そして裏で手を貸したドイツについても話したことで世界中にまで情報は拡散され、ドイツ政府は無数の国から非難を受けた。

 中にはこれ幸いと輸出入を止める国まで出始め、一気にドイツは窮地に立たされる。

 ドイツ政府も自身の潔白を証明するが、ヴェルサス側が発表した計画内容や実験場所の存在があまりにも強過ぎた。


 前々から怪しんでいた同国の人間もSNSでヴェルサスと同調し、こうして足掻いたことでドイツ自体の評価も落ちたのである。

 今の世で世界中の人間から見捨てられるのは、間違いなく不味い。日本と同様に議員達は捕縛され、国際連合からも様々な罰則を与えられた。

 非合法な人体実験は、何時の世でも禁忌である。それをした国を表立って各国は擁護することはできないし、ヴェルサスも正式に国家防衛リストから排除した。


「予定調和だな。 ……さて、では次だ」


 ドイツ近海。深海の中で口角を吊り上げる男が居た。

 名をバゼル。今回の暴徒鎮圧に唯一動かなかった男であり、しかしそこには一つの理由が存在している。

 彼の手には水圧対策の施されたタブレットが一台。画面には大型の鳥の立体図が映り、更に複数のコマンドが並んでいる。

 

「まったく、俺も言いたいことはあるんだがな。 だがまぁ、致し方あるまい。 これで今回はチャラということにしておこう――さぁ、暴れるが良い。 ロックフォールン」


 コマンドを入力。

 送信し、火山地帯で巣を築いていた大怪鳥が翼を広げて鳴く。そのままゆっくりと上昇し、ドイツにある偽装された孤児院へと進路を定めた。

 ドイツ政府が危機に瀕したとはいえ、彼等の残した技術は健在だ。破棄するとしても情報は持ち出されている可能性は高く、既にイブが政府のサーバーに侵入して更新される情報群に目を通している。

 政府が指示を出した以上、研究者達は軒並み切り捨てられるだろう。例え政府が黒幕だとしても、その罪を贖う為に研究者や担当した議員の首を切って何とか生き延びようと画策する筈だ。

 そして、彼等が築いた研究成果だけを手にして次の者に任せる。今度は防犯設備にもっと力を入れられ、カメラの侵入も容易くはいかない。


「防衛リストから排除されたお蔭でいくら土地が破壊されても文句は言えんか。 人の報いは常に巡るものだが、こうして実際に行われると奇妙な感慨を覚えるな」


『馬鹿な奴が馬鹿な真似をしただけの話だよ、それは。 それよりも、失敗はしないでね』


「勿論だとも。 派手に動きはするが、範囲はドイツ内限定。 その上、死人を出さないこと。 難しい注文だが、出来ないと言うつもりは断じて無い」


 疑似脳から直接語り掛けられる声にバゼルは自信溢れる言葉で返す。

 初めての操作だが、澪から送られた情報で手順は解っている。力の上限、攻撃すべき箇所、敗北すべき刻限。

 今回の目的は孤児院の完全破壊。ついでに怪獣の脅威も市民には体験してもらい、二度とヴェルサスに牙を向けないようにしてもらう。

 澪はもうドイツ近くの空の上で待機している。彩斗も別の場所で待機し、澪の代わりに逐一情報を蓮司達に伝えていた。


『澪。 あの子達には今配信をしてもらっている。 直ぐに警報が鳴るだろうから、その時点で準備は始めておいてくれ』


『大丈夫だよ、もう終わってる。 空気中の水分を補充したし、暫くは空気が乾燥しているだろうね』


 上空には莫大な量の水分が澪の周囲に集結している。

 それら全てが澪の氷結に用いられ、発揮される力は彼女が見せる中でも最大だ。本気を出すと言った通り、澪は自身の身体の機能とスーツの機能をフルに活用して今回は戦う。

 やがて大怪鳥が最大速度でドイツに迫り、その翼を振るわせる。

 莫大な突風は容易く建物を破壊していき、更に複数体現れることで突風の範囲も拡大していく。

 孤児院だけを破壊する程度では怪しまれる。市内全域を吹き飛ばすつもりで攻撃し、極大の暴風は竜巻の範囲に入ったが如くに無差別に全てを瓦礫に変えた。

 

 追加で酸性の毒物を口から吐き出し、触れた建築物を纏めて溶かす。

 壊れろ、壊れろ。総じて全て、無残に終わるが良い。

 バゼルが操縦をしているお蔭で市内に留まっているが、少しでも失敗すれば更に広い範囲にまで被害は拡大するだろう。

 十分も掛けて破壊活動に勤しめば、最早街の機能は死んだも同然。標的にした孤児院も諸共全て破壊され、被害者の子供達は善意ある市民が保護しなければ纏めて死んでいただろう。


「ふむ、こんなものか」


『良いね、制裁としても丁度良い。 んじゃ、そろそろ登場するからよろしくね』


「任せておけ。 ……では、お手並み拝見といこうではないか」


 暴れる怪鳥達に元に更に上から氷柱が落ちる。

 一早く危険を察知した個体は回避するも、一体は身体全体に複数の氷柱で貫かれて死んだ。

 残りの怪鳥は全員が顔を上げ、その先に居る白パーカー姿の澪を視界に捉えた。

 周囲に四つの細長い氷の柱を浮かばせた彼女は、酷薄に微笑んで風を操作する。


「さて、じゃあいこうか。 ――制限解除」


 周辺温度が加速度的に落ちていく。

 空気が、建物が、残らず全てが透明な氷に覆われる。あらゆる生物の死を訪れさせる氷結の世界に、人は氷河期を連想した。

 終わりの大地。終焉の空。生ある者は、須らく我が前で骸を晒せ。


「神威招来――大紅蓮氷牢」


 世界で唯一、あらゆる自然環境を変化させる者。

 この世の中で最も神に近い存在が、ついに刃を引き抜いた。

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