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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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嘆きのザルヴァートル

 金属同士の激突する音が響いた。

 蓮司は瑠璃の鎧を纏い、ザルヴァートルの弾丸をその身に受ける。弾ける音は人々の不安を煽るものの、蓮司には効果は無い。

 自分を信じて力を貸してくれている女性の鎧に不安を覚える方がおかしいと、弾丸を弾かせながらザルヴァートルへと突撃した。

 銃撃が効かないと見るや、ザルヴァートルも突撃。空中で間近まで接近した蓮司は拳を固めて先ずは胴体を狙う。

 その一撃は狙い違わず命中するものの、特に反応を示さずに逆に側頭部に武器腕が叩き付けられた。


 普通の攻撃であればその程度は効かないが、今の蓮司はマキシマムを使っていない。

 加えて敵の腕力が想定を超える威力を持っていたことで頭部全体に衝撃が巡り、蓮司の身体が吹き飛ぶ頭に引き摺られるように下がった。

 例え僅かな力しか引き出していなかったとはいえ、それでも鎧を貫通したのは事実。

 相手の腕力に小さな脅威を覚えながらも、彼は先程の一瞬で解ったことがあった。


『……こいつ、痛覚が無いのかッ』


 見れば、ザルヴァートルの胴体部分の金属は僅かに凹んでいる。

 モザンの力が宿った一撃は確かにダメージを刻んでいる筈で、けれど受けた本人はまるで気にも止めないように足の噴射口から一瞬だけ炎を放つ。

 瞬時に最高速になった身体はやはり蓮司に迫り、再度武器腕を振るう。横凪ぎの一撃を回避すると、避けた先に別の武器腕の銃口が蓮司の顔面に向いていた。

 咄嗟に銃口の前で壁を構築するも、間近で放たれた銃撃に脆い壁は耐え切れない。精々が数発であり、されど僅かな時間の中で彼は身体を別の家の屋根に落とす。

 

 銃弾は宙を飛び、完全な空振りとなった。

 着地した蓮司は即座に構築。銃のような高性能な代物を作るには時間が掛かるので、周辺の分子を活用して今度は重厚な壁を自身の周囲に展開。


『maximum、起動』


『loading. ――complete. Fantasy Dreams・maximum.』


 ザルヴァートルが眼下の壁に気付いて破壊している間に、彼は即座に全力の手札を切ってその見た目を変える。

 滾る力を感じながら鎧が伝える敵の位置に従い、左右の壁から触手のように石の鞭を飛ばした。

 二本の鞭は太く、直撃すれば胴体部の骨は全て砕けるだろう。本来は回避が一番だが、ザルヴァートルはその攻撃を左右の肩で受け止めた。

 金属部が拉げ、数ヶ所が弾け飛ぶ。明確なダメージが刻まれる音を敏感になった耳が捉え、彼は壁を分解して宙に土台を作った。

 着地し、対象の状態を視界に捉える。弾け飛んだ金属の内側からは血が流れ、その皮膚の色は赤い。

 

『皮膚が無い? ……そういうことか』


『AAAAAAAAAAAAAAAaaaa!!』


 敵の構造にある程度見当がついたのか、蓮司は忌々し気に舌を打つ。

 その反応に何を思ったか、ザルヴァートルは流れる血を意にも介さずに激昂する。 

 噴射口から炎を走らせ、最高速に入った状態で距離を保ちながら銃を放つ。

 その攻撃は先程よりも堅牢になった蓮司には効かないが、三次元的に縦横無尽に移動する敵の挙動に彼は意識が追い付かない。

 本来であればある程度の速度にはFMC側がサポートしてくれるが、ザルヴァートル相手ではそのサポートも意味を成していないのだ。故に自身の感覚と予測も交えて戦うしかなく、その間でも二人の眼下では争いが起きていた。

 

 反ヴェルサス側の目的は早乙女宅の破壊。並びに金銭類の強奪である。

 最早盗人としか言えぬ目的であるが、彼等にとっては所謂勝ち組である者達を同じ場所まで落としたいのだ。

 フォートレスと学校。この二つの場合はまた別の目的があるが、一番の注目を受けている日本人の未来を閉ざせば彼等の溜飲は下がる。

 もう前に進むだけの気力は無くなった。後ろ向きの暗い感情だけが生きる原動力となり、今も彼等は突撃を繰り返して家に入ろうとしている。

 

「シッ!」


 五人の人間が宙を回った。

 十人の人間が壁に叩き付けられた。

 いの一番に突撃した者達は玄関前に立つ楓の技で容易に返され、その鮮やかさは素人目でも卓越している。

 両手を広げて静かな湖面のような眼差しを向ける楓に激情は無い。多対一であるにも関わらず、彼女の放つ闘志が全ての者を呑み込む。

 

「どうしましたか。 来るというのなら来なさい。 その程度の気概も無いのなら、最初から来るべきではありませんよ」


「――このアマッ!」


 医療者とはいえ、彼女は戦えぬ女ではない。

 容易く激情した者達が鉄パイプや竹刀を用いて殺そうと迫り、それらを疑似脳が冷静に軌跡を読んで捌く。

 懐に潜り込み、百分の一の力で胸を一撃。手の甲で叩くように殴り、その瞬間に彼等の体躯はやはり空へと飛んだ。

 死なない程度に加減しているとはいえ、その拳は怪獣にも効く程。彼女を囲む数人が秒の時間で無力化されれば攻めあぐねるのは当然だが、基本能力が低いのは皆理解していることだ。


 数で押し、更に別の場所からの侵入を狙う。

 玄関から入れないのなら塀を越えて裏から入るまで。既に十数人が回り始める様子を彼女はレーダーで把握しつつ、それらを他の面々に任せていた。

 

「残念ですが、そこから先を行かせることは出来ません」


「クッマァ!!」


 塀を越えようとする者達にアントが飛び蹴りを放つ。

 子供部屋の窓から飛び出たクマも登ろうとする者達を塀の上で殴り落とし、鈍い音を何度も響かせる。

 更に子供部屋からは銃撃音。本物に比べると幾分か軽いものの、発射されたゴム弾は無差別に暴徒達に激痛を与える。

 奈々の手には拳銃が二つ。特別な力を有していないが故に、彼女は堅実性を重視した戦い方を選んでいた。

 個々人の働きによって未だ侵入者の影は無い。ヘリのような大型な装備を用いることが出来ない彼等では空中からの侵入は難しく、唯一それが出来るであろうザルヴァートルは蓮司によって足を止められている。


『勝ちは此方のものだ。 ――それでもお前は止まれないんだな』


『A,AA,,,,aAAanabaaaaaaaaaaa』


 攻撃を回避し、時に反撃しながら蓮司は言葉を投げ掛ける。

 それに対する返答は呻き声のみ。高速移動によって身体を軋ませる音を鳴らしながら、肉の兵器は蓮司を殺そうと迫る。

 数回の激突によってザルヴァートル自身は銃撃を行う回数を減らした。

 それよりも接近戦による昏倒をした方が有効だと判断し、積極的に距離を詰めるようになっている。

 蓮司としても接近戦は歓迎だ。能力を使用して遠距離でも戦うことは出来るが、そればかり使うとバッテリー限界が訪れる。

 なるだけ長時間の戦闘を行いたいなら、能力をあまり使わない接近戦をした方が都合が良いのだ。


 金属部を殴る。その瞬間に蓮司の顔面に衝撃が走る。

 先に命中させたのは蓮司なのに、やはり痛覚が存在しない分だけ相手の方が次の行動が早い。

 とはいえ、それは決してダメージが刻まれていない訳ではない。確かにダメージは蓄積され、その証拠に関節の骨があると思わしき部分を容赦無く折れば回復する気配は一切無かった。

 このまま目の前の肉兵器は死ぬまで戦い続けるのだろう。最後まで悲劇に嘆きながら、殺意も無しに腕を振るう。


『――らぁ!』


 腹を蹴り、距離を開ける。 

 飛ばされた瞬間に詰めようとして、その前に蓮司の方が先に動く。脳内で描いた絵図通りに空中から鎖が生成され、両腕と両足が縛られる。

 ただの鉄の鎖であれば破壊されかねないが、彼が作ったのは瑠璃色の鎖。モザンの力の宿った鎖では破壊するのは難しい。 

 なんとか脱出しようと足掻くザルヴァートルに彼はそっと近づき、頭部の金属を嫌な音を立てながら剥がした。

 そこに見えたのは――皮膚の無い肉の顔だ。

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