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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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待機は終わり。これより激動の開始である。

 およそ四日。

 準備をするにあたり、皆が費やした時間は僅かなものだ。

 一番に時間を掛けたのもフォートレスであり、彼等の装備を集める作業に少々の手間をかけた。

 彼等は元軍人だ。武器の扱いにも長け、通常の火器を用いれば戦うことは出来る。

 しかし一般人と同列になった以上、武器を携帯するのは最早不可能だ。必然的に何処かで鎮圧用装備を調達する必要が出てきてしまい、モザンや各種設備群をフルで稼働させた。

 裏では澪も手伝ってはいたが、彼女も彼女でやることがある。モザンは泣き言を放ちながら必死に部品を生成し、コンテナで運ばれた部品達をフォートレスの面々は組み立てた。


 使用する武器は非殺傷系の物だ。

 法律を守る為、一般人を過度に傷付けない為、用いられた物は電気ショックを放つ銃となった。

 拳銃サイズから狙撃銃サイズまで様々な銃が作られ、特にアサルトライフルは皆がどうやって稼働しているのだと問いたい程にコンパクトに纏められている。

 澪が設計したバッテリーを搭載した電気的な銃にはその全てに一時的に小電力を溜め込める専用弾が装填され、弾の材質は非常に柔らかい。

 当たっても軽く叩かれた程度の衝撃しか与えないが、接触と同時に電流によって気絶まで持っていくことが出来る。

 

 調べられても言い逃れ出来るだけの余地を与え、他にもスタンロッドや煙幕弾と完全に暴徒鎮圧装備となった彼等はその身に防具である耐衝撃ベストを纏っていた。

 これも市販品ではなく澪の設計の元に生産した品だ。基準としてパーカーの下位互換として作っただけあり、耐衝撃と言いながらも銃弾も防ぐことが出来る。

 これまでは最低限の装備で妥協していただけに、フルに纏った姿は正に私兵部隊。

 フォートレスを守る為にと戦意も高く、渡辺社長や警備部門の長とで考えた防衛地点に一斉に彼等は動き出した。


「――此方蓮司。 家の周囲に異常は有りません」


 早乙女家・一階のリビング。

 端末片手に窓の外を警戒するのは蓮司だ。妹の奈々も兄弟の部屋にある窓を覗いている。

 家の周りには特に防壁を築かず、四日前からアントと楓もこの家で生活していた。

 他に早乙女兄妹の母親もリビングの椅子に座り、父親は最初に話を聞いた時点でヴェルサスの命令によってホテルと職場を行き来している。

 落ち着くまでは帰宅は許されない。強い言葉で指示をされてしまえば、如何に家族が心配であっても頷く他なかった。

 

 アントと楓が居るお蔭で索敵に関しては死角は無い。人型でありながらも広範囲に渡って人体の生体電流を読み、その動きを監視している。

 クマも奈々の肩の上で同様の動作を内部で行い、奈々には内緒で逐一澪のタブレットに送っていた。

  

「……御飯、作るわね」


「うん。 悪い、母さん」


 兄妹の母親の顔色は良くない。緊張と不安が胸を支配し、寝ることも満足に出来ていないのが見て解る。

 無理もない。一般人にとって暴徒が此処に来るかもしれないというのは些か以上に刺激が強過ぎる。本来ならば取り乱しても不思議ではないだろうに、母親は子供達を安心させる為に気丈に振る舞っているのだ。

 その姿に申し訳なさと反ヴェルサスへの怒りを蓮司は抱く。

 よく調べもせずに簡単に動く連中。唾棄すべき輩に、どうして自分達は対応せねばならないのか。

 国を守っているのが誰か解っているだろうに、それでも他者との違いで人は容易に争いを起こす。

 

 馬鹿馬鹿しい。愚劣極まる。――どうしてそんなに戦いを好むのだ。

 心底に理解が及ばない。人は自分の中の理想を追い求めるべきであって、他者の思考に同調する必要はないのだ。

 もしも信じた誰かが間違えば、それを信じた己も間違えた道を進むことになる。

 先にある破滅を共に進むなど思考停止そのもの。正に愚者と呼ぶのが正しい。


『此方も異常は無い。 交代で休憩を行いつつ、お前達は家から一歩も出るな』


「了解」


 蓮司と奈々は共に学校に行っていない。

 現在は重い病気に掛かっていることになっていて、一週間の休みを許可されていた。その分だけ授業が遅れることになるが、命と比べられる筈もない。

 両親もそれが解っていて承諾している。出来れば早めに来てほしいものだが、此方の用事に向こうが合わせてくれることはないだろう。

 

「向こうは問題無いってさ。 澪」


「そうかい。 それは重畳」


 学校直上。

 空中で透明化を行いながら氷の足場の上に居る彩斗と澪は、他の地点に展開しているイブとモザンの位置を確認する。

 事が起きるまでは直接学校に姿を現す訳にはいかず、イブもモザンも姿を隠しながら監視を続けていた。

 澪達は機械の身体であるのでバッテリー次第で何時間でも居られるが、彩斗は生身だ。休息を挟まねば全力を保てず、夜になれば澪の作った氷のベッドの上で仮眠を取っている。

 空中で寝るのは一度経験しているが、氷のベッドというのは酷く寝心地が悪い。あるだけマシと彩斗は素直な感想を胸に沈めていた。


「で、どんな感じなんだ。 お前ならこの街全域の住民達の動きを知れるだろ?」


「長時間耐久なんだから一部システムはダウン中。 まぁ、でも漸く周りが動き出したよ」


 手元のタブレットを彼女は操作し、この街に居る複数の人間が集まっている地点を円で囲む。

 四日前と比較してこの街に訪れる人間の数は明らかに増えていた。疎らだった人の群れも次第に固まり始め、今では明らかに不自然な集団があちらこちらで形成されている。

 学校に三つ、早乙女宅に一つ、フォートレスに五つ。

 建築物に合わせて数を調整しているのだろう。一つの円には約百人程の人間が一つの建物に集まっているようで、その内の一つを澪はピックアップした。


「周りが固まってくれたお蔭で態々探す必要も無い。 けど、その内の一つに膨大な熱源反応がある」


「……例の奴か」


「細かく見てみたけど、人間一人分の熱源と四つの熱源が判明している。 十中八九、あの実験の成果物を投入してるんだろうね」


「武器の熱源の所為で膨大になっている訳か。 でも動いてないなら熱源なんて無いんじゃないのか?」


「彩斗。 あの子達にとって四肢に接続された武器は全て手足だ」


 澪の指摘に、彩斗も直ぐに理解した。

 手足であるならば、常に動き出す為の準備は整えてある。例えそれが人工物であろうとも、神経接続をされた時点で生身も同然。

 アイドリング状態のようなものだ。生身の熱が武器に伝わり、武器は起動したままとなっている。

 このままなら激突するのは早乙女宅だ。どうしてそちらを先に狙うのかと考えるが、思い付くのは所詮予測。

 真実は本人に聞く他無く、そもそも二人にはまったくと興味が無かった。


「……彩斗。 君はあの実験を快いものだとは思っていないだろうけど、僕は挑戦的なものだと思っている。 この研究はきっと残され、人類の更なる進歩に貢献するよ」


「お前ならそう言うだろうな。 そして真実、その通りだとも思う。 非人道的に過ぎる行いだが、澪に近付く一歩にはなった」


「まだまだ僕には至らないけど、人類は確かに僕に近付いている。 その歩みは遅く、もしかすれば僕に到達する前に滅んじゃうかもしれない」


 突然始まった雑談めいた話だが、澪の真剣な表情を見て彩斗も真面目に返す。

 澪の技術力に到達するには、どうしたって倫理的とは言い難い実験を何処かでする必要が出る。

 それを容認したくはないが、そうせねば張り合いが無いのも事実。圧倒的な力で全てを制圧するというのも、長く続けば飽きるだけだ。

 この事件は悲劇である。間違いなくそう断言出来る程、裏側の意思は真っ黒だ。

 ただ、それだけではないものがある。


「――ん、連中が動いたよ。 白昼堂々見事なもんだ」


「そうか。 それじゃあ」


 円で囲んだ集団が午後一時を示した瞬間に動き始めた。

 遠くで轟く声は隠すつもりなど更々無いようで、暴動も同然。この街はこれから混乱に包まれ、少なくない傷跡を残すことだろう。

 この争いに意味は無く、この戦いに価値は無く、誰かの望みが達成されることも有り得ない。

 天地に誓い、これは無駄なものだと彼は告げる。

 なれば、時間を掛けることは愚かとしか言い様がない。


「――慈悲も残さず鎮圧しろ。 格の違いを教えてやる」


 暴力的な殺意を滲ませ、極炎の主は焔の翼を空に広げた。

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