二つの事象が収束すれば、一つとなる
「あの狙撃手は黒幕どころか反ヴェルサスから依頼されていたことを知らないままだった」
「匿名依頼。 ……つまり捨て石か」
第一会議室。
普段は会社の方針を決定する為に社長や纏め役が集まる部屋で、ヴェルサスメンバーはバゼルを除いた全員が集結していた。
円形の巨大な机に、それに沿う形で設置された革張りの黒椅子。白亜の壁と暖色系の机とで構成された部屋は、会議時よりも遥かに重い空気に支配されている。
ヴェルサスメンバーに、現地協力者であるフォートレス。彩斗は情報収集の為に周囲を走らせていることにし、更に情報屋として積極的に行動するようになった斉藤の姿もある。
「反ヴェルサスの動向を探りました。 これまでも不穏な気配は漂わせていましたが、どうやら何やら準備をしているようです」
「狙撃に呼応したな。 これで間違いなく依頼主は反ヴェルサスの誰かになった」
「はい。 ついでに一つよろしいでしょうか」
「何だ」
数日を掛け、斉藤には反ヴェルサスの動向を伺わせていた。
その結果解ったことは、狙撃はやはり予定されていたことだったのだ。この狙撃の結果に関わらず、彼等は次の行動に移す。
その準備を現在は進めている途中であり、始まるまではまだ時間が掛かるだろう。
斉藤は椅子の下に置いていた紙袋を持ち上げ、中身を机に置く。
複数の部品に接続された爆薬は、間違いなく時限爆弾の類だ。今は時間がセットされていないので爆発はしないものの、それで何をするのかは容易に解る。
全体に緊張が走った。最早彼等が起こそうとしていることは、一種のテロだ。
「此方で確認しただけでも三十は有りました。 他でも確実に作っているでしょうし、最終的な数は三桁になるかと」
「……これで何を吹き飛ばすと思う?」
「ヴェルサスに所縁のある場所、ではないでしょうか。 ――例えば、蓮司君の学校とか」
斉藤の推測は可能性として考えるのならば妥当だ。
無差別に爆破をしては余計なヘイトが犯人に向いてしまう。ならばヴェルサスに関係する場所に設置、起爆すれば最低限の犠牲で目的は達成出来る。
場所次第ではあるが、無関係な人間も巻き込む姿勢は異常だ。群衆がそのような暴挙に出る理由は、単純な私情だけではあるまい。
学校と言われた時、蓮司の眉が少しだけ跳ねた。しかし、それは学校という単語にただ反応しただけ。
親しい友人も無く、恩師と言えるような教師も居ない。身近で喋るような人間はフォートレスに所属しており、仮に死人が出ても彼が悲しむことはない。
「誘導されているな。 一般の人間が組み立てているとして、平静なままでは作れはしまい。 それらしい美辞麗句でも並べて扇動しているとしか思えんな」
レッドの呟きに皆が頷いた。
人は他人の影響を受けやすい。一人の為政者が発する言葉で何百人の人間が動くのも歴史を見れば有り触れた出来事だ。
そして、その扇動者こそが此度の黒幕である。件の人物を止められれば、少なくともこれ以上の暴挙に至ることはない。
「爆破対象は少ない。 学校、早乙女兄妹の家、フォートレス。 フォートレスについては渡辺社長に任せようと思うが、どうか?」
「無論、我が社の社員を全て動員してでも阻止しましょう。 一時的に店を閉め、無関係者は全て捕縛します」
「早乙女兄妹は家を守れ。 アントと楓をそちらに回そう」
「有難うございます。 御二人が居れば心強いです」
「私はあまり役に立ちそうにないので、クマちゃんを戦力に数えてください」
「いや、お前も一般人相手であれば十分に戦力になる。 自信を落すな」
割り振りとしてはフォートレスにメンバーを置かず、学校と蓮司達の家に比重を置く形となる。
家は然程大きくはないので、数は少なくて済む。逆に学校は範囲が広く、隠れる箇所も複数存在するのでそれなりの人員は動員せねばならない。
この場において戦力にならない人間は居ないだろう。斉藤も国家に働きかけて人を動かすつもりであり、それは可能だと確信している。
狙撃の件で以前に話した約束は消費され、次に国が失敗すれば責任追及は免れない。
その時が来れば斉藤は抜け、表向きはフリーの情報屋として活動するつもりだ。退職金と蓄えた金があれば事務所を設立するのも容易い。
「私から一つ。 バゼルからの報告だ」
フローが短く言葉を告げ、机の中央に一枚のカードを投げた。
表面にはカメラのレンズが取り付けられ、机に着地と同時に光を発して一人の人物を立体的に表示する。
バゼルの姿ではなく、そこに居たのはスーツに身を包んだ男だ。
オールバックに纏めた髪。銀縁の眼鏡に、鷹の如く鋭い目。線は細いものの、軟な印象は覚えない。
政界に居れば知らない者は居ない程の人物であり、斉藤も渡辺も件の人間は知っている。
「此方でも情報を探り、あの狙撃手の依頼主を発見した。 ――沢渡・達治。 コイツが反ヴェルサスの扇動者で間違いない」
「……これは、また大きいのが出てきましたね」
沢渡・達治。
元々は一介の議員でしかなかった。しかし、怪獣騒動以降から様々な国家救済案を提示することで頭角を現し、若手議員の代表格として現在は有名になっている。
国家救済案に関しては一部厳しいものが含まれているとはいえ現実的であり、冷静に多数の問題を直視しながら未来を考えていた。
表立って批判されるような真似をしなかったことも周囲の支持を集める要因になったろう。
周りが不正を働いているからこそ、真面目な人間は際立って評価される。
件の人物はその筆頭であり、既に無視出来ない勢力になりつつあった。
「コイツの罪状は明らかだ。 表では真面目な議員だとされているが、裏では他国との密通が確認されている。 加え、ドイツにてとある実験に加担しているようだ」
「実験?」
渡辺の疑問の声に、フローは頷く。
彼女の思考がレッドである彩斗に流れ込み、この情報を利用するつもりかと内心で笑みを浮かべた。
情報収集をしたのはバゼルではなくフロー。途中からイブやモザンも加わって現地も含めての収集に精を出し、この情報にまで行き着いた。
ドイツのあの実験に資金提供をしている人間は一人二人ではないということだ。実験が成功した暁には莫大な力が手に入り、それは現在のヴェルサスを脅かす存在となれる。
反ヴェルサスを扇動した以上、沢渡という男もヴェルサスが不要だと考えているのだ。故に、そのような人間が飛び付かない道理が無い。
「斉藤・始。 お前の提供した情報の中にドイツに情報を流していた者が居ただろう」
「――ええ、居ましたね。 更にその国で行っているらしい実験の資金提供もしているとか」
「その実験にこの男も関与しているということだ。 それももっと深い部分でな」
「待っていただきたい。 御二人で話を進められても困ります」
フローと斎藤は通じ合ったような顔で言葉を送り合うが、渡辺には何のことか解らない。
その為、レッドが溜息を吐きながらフローを注意しつつ説明。
内容を知った渡辺は眦を鋭くし、激怒と言わんばかりの表情に変わった。元々が善良なだけに、最低最悪の実験に日本人が関わっているのが許せないのだろう。
その感性は彩斗には理解出来ないものだが、都合が良いのは確かだ。
「沢渡・達治も資金提供を行っているが、更に日本の子供達も拉致してドイツに送っている。 ……故に、我々が容赦をする必要は無いということだ」
絶対悪は向こうにある。
そして、絶対の正義は此方だ。十対零で相手方が悪く、証拠の情報も既にフローと斎藤が持っている。
負けることはない。であれば、必要なのはただ一つ。
無慈悲な制裁を。一片の恵みのない絶望を。死ぬまで苦しめられる監獄へと、彼等を叩き込むのだ。
収束した出来事にフローは内心大喜びだ。これで一気に問題を解決出来る上、ヴェルサスの知名度も大いに増す。
内密とはならないが、この方が手間が省ける。実に彼女らしい理論展開により、日本はますますの窮地に立たされることとなった。




