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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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狙撃手の回顧

 狙撃手は恐怖していた。

 手足に感覚は無く、動かそうにも氷によって固められている。手錠も縄も存在しないものの、今の彼には抵抗出来る余地が残されていない。 

 やはり止めるべきだったのだと狙撃手は思うも、今や後の祭り。そもそも狙撃手にはその依頼を断る選択権を有してはいなかった。

 狙撃手――男は傭兵だ。

 内紛、護衛、警備と受けた依頼は数知れず。齢三十を迎えるまでの間に仕事漬けの日々を送ったことで、彼自身の実力も非常に高くなった。

 拳銃から狙撃銃まで武器のジャンルを選ばず、彼が受けた依頼は全てが成功。爆発が轟く中でも煤を被るだけで生還する男に、同業者からは不死身かよと褒め称えられた。


 そして、だからこそだろう。

 実力に秀でているが故に、彼のPCに一通のメールが届いた。暗号化されたその文章は暗殺依頼であり、対象はヴェルサスの一人の人物。

 画像は粗いものの映っている白パーカーを見た時、男は検討の二文字を相手に伝えた。

 断らなかったのは、依頼主が提示した金の額が莫大だったからである。少なくとも新たな武器を新調し、十年は遊んで暮らせる程の金額を提示されれば人は迷うものだ。

 相手はヴェルサス。噂の超能力者達については同業者間でも話題の種になることが多く、もしも傭兵業に参加すれば一気にトップに出られるだろうと予測していた。


 実際はそうならなかったが、今や世界の注目を一身に集めている。

 そのような存在を殺せたとして、彼への評価はますます凄まじいものとなるだろう。それは所詮皮算用であるが、彼としては単なる予想に過ぎなかった。

 されど、莫大な金額は罠となる。彼自身も経験していたが、大きな金額になればなる程に予想外な事態が常に付いて回る。

 どれだけ準備をしても、如何に安全を確認しても、不足の事態は突然起きるのだ。

 今回は超能力者が相手である以上、その不足の事態も大規模となるのは想像に難くない。


 数日悩み、男は依頼主に断りの文章を送った。

 相手は正体を隠した見知らぬ者であるし、やはり身の安全は最優先だ。生きてこそ贅沢が出来るというもので、それを自分から溝に捨てる真似は出来なかった。

 相手が憤慨する可能性があるにはあったが、そこはプロの傭兵である。縁を結んだ同業者も多く、攻められた際には戦力を集めて反撃する用意はしていた。

 ――だが、相手側が送り付けたメールには予想外の内容が記載されていた。

 それは自分の姿。マスクにサングラスを掛けた風貌は数分前の自分であり、彼の傍にはコンビニで購入したカップ麺がある。


 つまり、脅迫しているのだ。受けなければお前を殺すと、此方は容易に人生を終了させる用意が出来ていると。

 当然だが、彼は自分のホームを公開していない。メールのやり取りを行うパソコンにも複雑な隠蔽処置が施され、これまで追跡された事は無かった。

 今回はその隠蔽を悉く突破し、彼の居る家を見つけたのだ。でなければ顔を隠してコンビニで買い物をする男を発見出来なかったであろうし、断られることを想定して準備することも出来なかった。

 

 詰みだと、男は短い間に負けを確信する。家を手放して別の場所に引っ越す案も脳裏に過ったが、再度追跡されて御終いだ。

 どのような手法で追跡されたかも定かではないこの状況で、安易に逃げを考えることは死に通じる。

 かといって立ち向かおうにも敵の戦力は一切が不明。一人かもしれないし、複数人が囲んでいる可能性も十分に有り得た。

 男は天井を見上げ、次いで重く深い息を長く吐き出す。傍に常備してある拳銃に視線を一瞬向けるも、彼はキーボードを叩いて先程の依頼先に訂正文を送った。


 そして一番安全となるであろう狙撃銃を手に、対象の行動パターンを見定め、丁度良い地点で彼は撃ったのだ。全ては自分が生きる為に、誰かに食われる哀れな草食動物に成り果てない為に。

 結果は御覧の有様。四肢を凍結され、随分前から感覚は喪失している。

 氷は時間経過と共に確かに水となって床を濡らすも、一向に拘束が弱くなる気配が無い。一体どのような方法で凍らせたのかも不明な状況で、男に出来るのは怒鳴り続ける元軍人の声を無視することだった。


「――入るぞ」


 怒鳴り、時には暴力を振るわれ、沈黙する男の耳にその声は入る。

 走る痛みに眉を寄せながら俯かせていた顔を持ち上げ、開く扉を見た。その先には軍人とは思えぬような金糸の髪の美少女が無表情で彼を見下ろし、周囲の元軍人達は近くで無言を貫く。

 異様な光景だが、同時に解ることもある。

 彼女こそ、この場における最上位者。彼等の顔には緊張が浮かび、石像が如くに一切の動作を拒否した。


「お前が件の狙撃手か。 無言を貫いているようだが、何も話す気は無いか?」


「…………」


 年齢不相応な言葉遣い。ヴェルサスのメンバーであると仮定すれば、彼女の不遜とも言える口調にも然程違和は無かった。

 男はやはり無言を貫き、彼女の言葉に応じない。

 その様子に元軍人は内心苛立ったが、目の前の少女を視界に収めた瞬間に湧いた怒りも露散する。

 何故この場に来たのかなど、態々問う必要も無い。なるべく迅速に情報を得て、最速で物事を解決に導きたいのだろう。

 ヴェルサスならば無言を貫く人間に問答無用で話させる力もあるかもしれない。


「そうか。 ならば何も話す必要は無い。 必要なことはお前の脳に聞くとしよう」


「――な」


 何を。

 そう言い切る前に素早い動作でイブは男の顔面を掴んだ。細くしなやかな指がめり込む勢いで食い込み、男に苦痛の声を漏らさせる。

 しかし、彼女にとって男の声などどうでも良い。疑似脳内から命令を発し、男は何か細いものが自分の頭に刺さる感覚を覚えた。

 

「無闇に動かん方が良いぞ。 この手を振り払えば、お前の脳は破壊される」


 顔面を鷲掴みされた男は、明らかな異常な輝きを放つ目を見る。

 此方の全てを覗き見るような眼光に自然と恐怖が湧き起こり、口は自然と離してくれと悲鳴を上げた。

 今までの無言が嘘のように懇願する男に、されどイブは容赦しない。

 何処までも深く、ありとあらゆるもの全てを彼女は収集するのだ。それが出来るだけの能力を彼女は備えている。

 

「では質問しよう。 お前は依頼主が誰かを知っている?」


 質問に、男は迷うように呻く。

 見かけでは知っているが話すのを避けていると思われるが、脳内に流れる生体電流を読んだ彼女には否であると解っている。

 

「背後の組織がどのような集団かを知っている?」


「自分はその組織に入っている?」


 三つの質問は、やはりどれも彼女に否を突き付けた。

 即ち、この男は単に雇われただけの傭兵。理由は定かではないものの、まったく無関係とも言える人間だ。

 それだけ知れれば彼女には十分。要らぬ人間ならば、イブは欠片も興味も無い。

 片手を離し、男は離れ行く恐怖に安堵を抱く。何時の間にか脳への接続も離れ、彼女は入り口付近にまで移動していた。


「そこの男、本当に無関係のようだ。 ……とはいえ、フローを狙撃した以上は裁かれるべき人間でもある」


「内々に処理しますか」


 短く告げた元軍人の言葉に、彼女は首を左右に振る。

 殺しはレッドが望まない。親でもある彼の言うことは絶対だ。


「いや、警察にでも引き渡しておけ。 フローを襲った狙撃犯とでも言えば、連中も喜々として捕まえるだろう」


「些か温いように感じますが、解りました」


 これから狙撃犯は警察に引き渡される。元の生活は望めず、独房での囚人生活になるが、それでも男は嬉しかった。

 関わり合いになどなりたくもない。こんな怪物の傍に一秒とて居たくないのだから。

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