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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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都合が良いので混ぜるとしよう

「まぁ、そんな全部が都合良くいくとは思っていなかったさ」


 不貞腐れるような声が澪の口から漏れる。

 場所は彩斗宅。普段変わらぬ夕飯時にアントが訪れ、共に御飯を食べながら今日接触を図ってきた男について説明された。

 モザンが気にしていた男であることは話を横で聞いていた彩斗も知っている。とはいえ、所詮は有象無象の類と思っていたので放置していた。

 それがこのタイミングで動いたということは、遠くない内に彩斗達の活動に支障をきたすのであろう。

 全てが順調通りにはいかない。それが現実であることは今更な話だ。


 テーブルで項垂れる澪の気持ちは彩斗には解る。

 順調で進んでいたのならそのまま何も起きなければ良かった。下らぬ思惑で活動し、邪魔をする集団など彩斗達にとって害悪でしかない。

 人間でないのであればそのまま焼き払っていたところだ。塵は何時までも残していてはいけないのだから、そのまま焼却処分するべきである。

 とはいえ、下手に殺しては角が立つ。それに今回はわりと魅力的な対価を前払いという形で提示してくれたので、無碍にするのも忍びない。


「政府要人の不正情報を探るのはイブにとって大変だろうからな。 その負担が減ったとなれば、一度だけでも騒ぎを無視する程度は良いんじゃないか」


「イブ様ではオンラインの情報収集が精々ですからね。 オフラインで情報を記録されていれば流石に手出しは難しいでしょう」


 イブの情報収集能力はネットに繋がっていればこそだ。

 紙や口頭でしか残らない記録を彼女は知り得ることが出来ない。用心深い人間であれば敢えてデータに残さない手を取ることも考えられ、現に怪しい止まりだった人間の証拠は全て斉藤と呼ばれる男が画像データや録音データで持って来ている。

 これは今の彩斗達にとって貴重だ。脅しの材料は多ければ多い程に良い。

 

「……まぁでも、これが媚を売りに来ていることは理解していてよね」


「解ってるさ」


「ええ、勿論」


 澪の当たり前の忠告に男性二人は頷く。

 あの男は魅力的な商品を送ってくれたが、それが愛国心に寄るものなどと考えるつもりはない。寧ろ逆で、アントの目には斉藤は無断で行動しているようにしか見えていなかった。

 彼の目論見としては次の住処探しといったところか。このまま日本の公務員を続けていれば、遅かれ早かれ彼も望まぬ決断を強いられることになる。

 そうなる前に自分の手で入手した情報を使い、何処の組織からも手が出難い集団の仲間に加わろうと動いている――という推測だ。

 

 明確な根拠がある訳ではなく、思ったままを澪は口にしただけ。

 それでも、数多くある選択肢の中から一番適当だと思うものを選び出した。その推測は強ち間違いではないだろうし、彩斗もアントも疑うことはない。

 ヴェルサスの傘下に加わりたい組織は無数に居る。男のように組織の秘密情報を漏らそうとする者も決して少なくはない。

 その中でも彼の情報は特級であるが、それで皆が斉藤を迎え入れるつもりは毛頭なかった。


「機密情報を手土産に入っても、旗色が悪くなればああいう男はまた機密を手土産に別の組織に媚を売る。 ――そんな雑魚を仲間に入れる訳にはいかない」


「ま、相手もそう簡単に事が進むとは考えていないだろうさ。 良くて三割程度かな」


「だろうね。 んー……」


 斉藤を仲間にするのは論外。現地協力者にするのも認めるつもりはない。

 どれだけ彼が尻尾を振っても、その尻尾の向きは容易に変わる。状況に合わせて立ち位置を変えていくのは、信用の喪失を加速させるだけだ。

 と、澪は腕を組んで暫し思考する。疑似脳は超高速で彼女の考えを纏めていき、その加速故に彩斗に内容を読ませない。

 もう間もなく、怪獣の用意は済む。正月辺りに出そうとせっせと作っていたが、予想外に周囲の資源に恵まれたことで構築速度も随分と速くなっている。

 クリスマスイブになる頃には完成し、クリスマスに放出することも可能だろう。

 

 多数の怪物が犇めきながら暴れ始め、日本の大地を蹂躙しながらクリスマスを恐怖に染め上げる。

 立ち向かうはヴェルサスと自衛隊の空我。新たな特務機動部隊はかませ犬として消費し、絶望に絶望を与えるのだ。

 誰も彼もがヴェルサスに依存せずにはいられない。そういう状況を作り上げてから戦闘を始め、圧倒的な速度で怪獣を消費する。 

 とはいえ、それは言ってしまえば何時もやっていることだ。何の捻りも無く、ただ怪獣の数が増えているだけ。


「この際だからトップの最後の一人、出しちゃうかい?」


「……そりゃまたどうして」


 澪が突飛な発言をするのは常だが、今回の内容も随分と突然だ。

 アントは首を傾げて説明を目で求め、彩斗は素直に疑問を口にする。彼女の中では既に正当な理由が存在しているものの、それを言ってくれねば周りは解らない。

 

「折角の祭りだ。 どうせなら大いに盛り上がらせた方が良いと思うし、それならトップ勢揃いっていうのも面白そうじゃん」


「そりゃ、トップが勢揃いする絵面は良いと思うけどさ……」


「それに、最後の一人の設定がどんなものか。 彩斗なら知ってるでしょ?」


「まぁ……な」


 言葉を濁しながら、彩斗は最後の一人の設定を思い出す。

 性別は男。生まれはレッド同様に日本。年齢は三十台に届くかどうかで、名称はバゼル。日本生まれなのに日本の名前ではないのは、レッド同様偽名設定だからだ。

 そして、その男の性格は正に苛烈の一言。

 彩斗と澪の最も苛烈な部分を足した性格をしているが故に、演技をした際の周囲への被害は並ではない。

 二人は完成した設定を見て、同様の感想を抱いた。――即ち、人間核爆弾である。

 

「つまらない運営指示ばかりで僕もストレス溜まってるしさ。 ちょっと発散したいんだよね」


「発散であれを出すのかよ。 いやまぁ、何時かは出そうと思ってたから良いには良いけど、精神的に死にそうな連中が大量に湧きそうだ」


 大事な聖夜が地獄に染まる未来を想像し――ちょっと面白そうと彩斗は思ってしまった。

 日本はただでさえ荒れているが、この男の登場によって更に荒れるだろう。行き着くところまでトップギアで突き進み、人々は選択を迫られる。

 どうすればこれからも生きていけるのか、どうすれば明日に希望を持てるのか。

 その影響は国外にまで波及し、多数の意見を集めるだろう。良い意見も、悪い意見も、全てが表に出現する。

 

「良いなぁ、どんな風に皆暴れるのか想像も出来ない。 純粋に暴動でも起こすのか、ネットの海で罵詈雑言を吐き出し続けるのか、革命家が一斉に立ち上がって政治を変えようとするのか……わくわくが止まらないよ」


「澪、悪い顔をしてるぞ」


「そういう君だって」


 澪の指摘に、彩斗は思わず自分の口元に手を添える。

 真一文字の口は裂けたような笑みに変わり、認識した瞬間に確かな愉悦を胸に感じた。

 全てを思い通りにするには、大きな衝撃が必要となる。

 それをクリスマスで叩き付けることが出来るだろう。どれだけの気持ち良さが全身に巡るのか解らず、期待をせずにはいられない。

 アントには二人の感情が理解出来ないが、嬉しそうな気配を感じて柔和な笑みを浮かべる。

 他のメンバーも含め、アント達のAIは優秀ではあれど完全に人の感情を模倣している訳ではない。

 彩斗と澪がどうしてそこまで喜んでいるのか理解に及ばず、されど嬉しがっている自分の親の様子に彼も喜んだ。


「どうしよう、クリスマスが楽しみ過ぎて時間の流れが遅く感じそうだ」


 澪の言葉はどこまでも本心だった。

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