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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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おじさんの生存戦略

 フォートレス周辺には大小様々な商業施設が存在している。

 元々が東京であるので店も無数に存在するが、フォートレス周辺は特にそれが充実していると言えるだろう。

 複数のジャンルが並ぶ飲食店。若者向けから高齢者向けの小奇麗な喫茶店。コストパフォーマンスに優れた服屋や家電製品を取り扱う有名商店も五分の範囲内に建ち、業務上必要な備品はある程度揃えることが出来るだろう。

 フォートレスの存在は有名だが、その内部の人間については然程有名ではない。社長のように表で多く顔を出す人間は有名人であるものの、鳴滝のような一アルバイトの顔を覚えているような人間はほぼ居ない。


 そして、ヴェルサスのメンバーであれば全員の顔が世間に流れている。

 美貌に優れる彼等が歩けば嫌でも視線を集め、関係を持ってみたいと思うものだろう。

 だからか、アントが案内した喫茶店には今必要以上に多くの人間が入店している。

 誰しもがそこに居るアントと、そして学生でありながらメンバー入りした蓮司に注目していた。


「こんなに注目を集めて良いんですかい?」


「僕等は本格的に表で活動すると決めていますから。 顔を隠しては堂々と往来を歩けはしないでしょう?」


「それはそうでしょうが、芸能人は姿形を変えるものですよ。 有名人は余計な注目を受けたくないものですから」


「確かに不必要な注目は余計ですが、僕等には僕等の生活があります。 下手にその生活に足を踏み入れるつもりであれば――まぁ、言うまでもないでしょう」


 座席に座って優雅に紅茶を楽しむアントは一瞬だけ本気の殺気を放つ。

 それは人間が出せるものではない。化け物特有の部屋全体を一瞬で満たす暴力的な波に、殆どの客は視線を逸らして何も知らぬと一気に無視を決め込んだ。

 無精髭の男だけはそれを真正面から受け止めねばならず、震えそうな身体を必死に抑え付けて余裕そうな素振りを見せる。

 相談するにせよ、話し合うにせよ、弱味は先に出した方が負けだ。


「……俺のことは、以前から?」


「ええ。 情報自体はモザンから聞いていますよ。 他とは違う人間が我々の周囲を嗅ぎ回っていると。 最近は他の仕事に集中していたみたいですが、終わったのですか?」


「実は用件はその仕事についてなんですよ。 ……反ヴェルサスという集団に、貴方は何を想像しますか」


 仮にも衆目の中でするべき話題ではないが、この場の中での出来事を客は努めて無視する。何か重要な情報を聞いたとしても頭から追い出し、自分達は知らないまま日々の生活に戻るのだ。その方が精神衛生上よろしいと決めて。

 さて、反ヴェルサスと言われてイメージすることは何か。

 そう問われたアントは暫し沈黙し、傍で話を聞いていた蓮司と鳴滝も思考を回して推測を立てる。


「やっぱりヴェルサスのことを良いものと思っていない集団ではないでしょうか」


「空我の頃にありましたね。 ヴェルサスはもう要らないと騒ぐ集団が」


「確かに、それが反ヴェルサスの者であった線は強い。 あの時は自衛隊の方が勢いが強かったから、その勢いに件の集団が乗ってきた訳だ。 ――だが、今その連中は厄介なことになっている」


 悪感情というものは腐っていくとより悪辣になっていく。

 虐めも最初は物を隠す程度だったのに、最後には金をせびって限界まで殴り、自殺を勧めるようになるものだ。

 最初は軽い悪意でも、深度が増していけば悪意も濃くなる。それはこの集団も例外ではなく、最初は不平不満を口にするだけの何処にでも居るような集まりだった。

 それが空我の台頭によって勢いを増していき、更に有権者も混ざっていくことで集団の悪意の質を高め、果てにはなにがなんでも排斥したいと考えるようになる。

 今の反ヴェルサスに軽い悪意は無い。特に保身を考える有権者にとって、反ヴェルサスという集団は利用するのに都合が良かった。


「僕達の配信で更に煮詰まって、いよいよ実力行使も辞さない集団になったと」


「その通りです。 そして政府の殆どの要人はあなた方との関係を断ち切りたくはないと御考えです」


「あれだけ煽ってたのにですか? 随分都合の良い口を持っているみたいですね」


「それについては俺も同意だ。 今更だろうと言いたいが、これでも公務員でね。 上からの命令っていうのは中々跳ね除けられないんだよ」


 これ見よがしに溜息を吐く男に、蓮司は胡乱な眼差しを送る。

 以前モザンが推測していた通り、目の前の男はやはり政府に繋がる人間だった。此方が接触する前に話し掛けてきたのは、それだけ現状が不味いと判断したからだろう。

 あるいは、別の人間から対処を急かされたか。哀愁漂わせる姿からは後者をイメージさせられるが、かといって演技の線は十分にある。

 

 そして鳴滝も彼の一挙手一投足に疑いを向けていた。元々は情報収集の為に接触の機会を伺っていたことはアントの話しぶりから明白であり、その情報が行き着く先はやはり国家の要人。

 誰であるかは解らないまでも、誰に流れ込んでも面倒なことになるだろう。

 

「要するに、これから反ヴェルサスが行う活動に関して政府は一切関わっていないと言いたいのですね」


「加えて言えば、この件で日本への評価を落すのは止めていただきたいのです。 我々で出来る限りの対処は行いますが、それでも恐らく何らかの妨害行為は起こるでしょう」


「虫の良い話だ」


 唾を吐きたくなるような話に、鳴滝も首肯で答える。

 これから貴方達に妨害の手が向かうだろう。それは日本政府が用意したものではなく、あくまでも関係の無い集団からの攻撃だ。

 此方でも防ぐが、万が一被害が発生しても日本政府を責めるのは止めてもらいたい。

 初対面の男の話はあまりにも日本にとって都合が良過ぎる。

 既に国家防衛リストから日本は外されているが、それでも日本を守らない訳ではない。

 折角作ったフォートレスという価値を守る為に、蓮司や奈々のような原石が普通に生活出来るように、最低限であれど盾は用意しなければならなかった。

 

 だが、これ以上評価が落ちるのであれば流石に日本からの完全撤退も止む無しだ。アントがどれだけ政府を擁護しようとしても、レッドやフローが否と言った瞬間にヴェルサスは日本を価値無しとして完全に見捨てる。

 その果てに日本が無くなったとて、ヴェルサスはその一切を気にせずに放置するだけだ。怪獣の撃破こそしても国という一つの船が形を保てない程に損壊すれば、最早そこで生活することなど不可能になる。


「勿論、対価を払わない訳ではありません。 これをご覧になってください」


 男は携帯を取り出し、一枚の文章ファイルを呼び出す。

 液晶に映る文字列は議員の名前と、これまで彼が調べ尽くした汚職の内容そのものだ。証拠写真や録音ファイルもセットで彼は渡すと告げ、アントはざっとその液晶に目を通す。


「怪獣の脅威を我々の力だけで退くことは不可能です。 あの空我があったとて、先日の超巨大怪獣の前では玩具も同然。 必ず我々が不穏分子を抹消しますので、どうかこれから起こるであろう出来事で角を立てないでいただきたい」


 机に擦り付ける勢いで男は頭を下げる。

 アントは画面から目を離し、その男に視線を向けた。

 流石に男の内面を読み取る術をアントは持っていない。澪であればあるいは可能かもしれないが、それを今求めるのは不可能だ。

 彼女も彼女で仕事がある。それをこんなことで邪魔すれば、機嫌が悪くなることなど容易に想像出来る。

 とはいえ、では簡単に突っぱねてはアントの設定と反するのも事実。柔和な顔で出来る限り優しくあろうとするのが彼の設定であり、となれば最善は引き延ばししかないだろう。


「御話は解りました。 ですが、これは僕一人では決められないことでもあります。 一度我々の中で話し合いの場を設け、その上で決定を貴方に伝えましょう」


「……有り難う御座います。 それだけしていただければ十分です」


「では、連絡先等を教えていただけますか?」


「ええ」


 互いに携帯を取り出し、電話番号やメールアドレス等を交換する。

 そして最後に男は立ち上がり、丁寧に礼をした。


「今回はお話を聞いていただける場を設けていただきありがとうございます。 遅くなりましたが、自己紹介を――俺の名前は斉藤・始と言います」


「アントです。 苗字は無いので、アントとだけ呼んでください」

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