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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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負け犬共の悪足搔き

 何をするか。何を成すか。その為に何を失うか。

 人は選択し、日々毎日を過ごしている。今の彩斗達はつまらぬ日常を放棄して刺激的な日々を選び、世間に多大な影響を及ぼす存在となった。

 その一挙手一投足が社会を動かし、次の流れですらも左右する。特別性を帯びた集団は国家の重鎮よりも強大であり、故に国は彼等の扱いに慎重にならざるをえない。

 特別措置と呼ばれるものは、本当は作るべきではないものだ。

 優遇は不平を招き、それを見た人間に不満を抱かせる。どうして彼等は良くて、我々は駄目なのかと身勝手に喚くのだ。

 

 ヴェルサスには世界中の誰もが納得出来る理由が存在しているが、だからといって完全に不平不満が消える訳ではない。

 一部の勢力からすれば彼等は厄介者で、出来れば居なくなってほしい集団なのだ。

 

「ま、こういうものはそう安々とは消えてくれないものですよ」


 とある居酒屋に二人の男が居た。

 片方はスーツを着たサングラス姿の老人。安い烏龍茶を飲みながら焼き鳥を箸で摘み、口に運んでいる。

 もう一人は無精髭を生やした男だ。コートを椅子の背凭れに引っ掛け、薄青のシャツの袖を捲りながら安酒を喉に流し込む。

 彼の机には焼き鮭が置かれ、今は半分程が無くなっている。それがこの二人の滞在時間の短さを感じさせた。


「君ならばもっと早くに接触出来たのではないかね?」


「ああいう集団と話をする上で自分からがっつくのは得策とは言えませんね。 現に俺以外から情報が入ってきていますか」


「……諜報員は全て死んでいるか、死んだ方がマシな状況に陥っている。 情報も上手く隠蔽しているよ」


「でしょうね。 相手も敵視する対象が対象だけに尋常ではない対策を練っている筈だ。 そうそう尻尾を掴ませはしませんよ」


 老人の呻くような声に冷静に返し、さてどうするかと男は考える。

 彼の仕事は本来、ヴェルサスの調査だった。何処かのタイミングで接触し、そしてなるべく中枢に近い位置で情報を入手してから離脱するつもりだった。

 しかし、今の日本で彼等を追うだけの余裕は無い。ヴェルサスからの大衆に向けたあの配信によって自称上級国民達は焦り、情報戦に勤しむ日々だ。

 自分の保身に終始し、その所為で反ヴェルサスの勢いも増している。未だ勝負を仕掛ける真似はしていないが、その内にヴェルサスの下部組織のフォートレスに妨害工作を行うのは目に見えている。

 問題なのは、その手法が解らないことだ。手がかりも何も無い状況で動くというのはあまりにも無謀が過ぎる。


「現在は東京を中心に六ケ所程活動拠点と思わしき場所を見つけましたが、それを見つけるまでに三十のダミーを発見しています。 こりゃ、首謀者を見つけるまでに一回大きな騒ぎが起きますな」


「それでは困るのだ。 ――これ以上、ヴェルサスを刺激するのは不味い」


 配信が始まる前から反ヴェルサスの動向を探る任に就いていた男は、現状の不味さを端的に表現する。

 隠して隠して隠し通し、そして爆発させて騒ぎを大きなものとする。その後に首謀者が声明を発表してヴェルサスの不要性を説くのだ。

 こんな怪し気な組織は日本には要らない。何時からお前達は何処の生まれかも解らぬ集団に首輪を嵌められるようになったのかと。

 恐らくは覆面などで正体を隠した上で行うのであろうが、その声明によってヴェルサスが行動を開始するのは目に見えていた。

 

 彼等がヴェルサスを嫌うのは、言ってしまえば外国人差別に近いものがある。

 能力者という常人離れした力を不気味に思い、人間離れした容姿に妖しさを感じ、故に彼等の感性そのものを嫌悪する。

 馬鹿な話だが、人は肌の違い一つで容易く敵対するものだ。今回もそれと同じようなもので、しかし人種差別による戦争とは比較にならない戦いが待ち受けている。

 それが老人には怖いのだ。怪獣の被害を抑えてもらえなくなることは勿論、最悪の場合は日本に敵対しかねない。

 あの圧倒的な力を前に今の自衛隊が勝てるとはどうしても思えなかった。だからこそ、騒ぎが起こることは回避したい。


「使える者は全て使ってでも実行は阻止する。 そうでなければ次は死者が出るぞ」


「とは言ってもですね。 何か手がかりを発見しなければ進展はありません。 ――この際、素直にヴェルサスに相談してはどうでしょう?」


「我々の不手際を糾弾されるだけだな。 協力など出来んだろうよ」


「既に評価は地の底です。 今更下らないプライドを張るのも逆に情けないですよ」


「……君は私がプライドで判断していると言うのかね」


 低く冷たい声が老人から出る。

 そんな彼の脅すような声にも男は飄々とそうでしょうと口にした。


「頭を下げれば済むかもしれない問題で頭を下げないのは三流ですよ。 特に余裕の無い今なら、使える手札は全て使うべきです。 そうしないのはプライド以外にありますか?」


「――解っている」


 烏龍茶を一気飲みして、老人は立ち上がった。

 両者は互いに何も言わず、そのまま別れる。老人が座っていた席の前には金が置かれていて、それは居酒屋で払う額としては無駄に多い。

 奢りということなのだろう。その金を回収しつつ、男はタバコに火を点けながら今後の動きは考え始める。

 老人は政府の要人だ。それ故に彼の行動は少なからず国に影響を与え、今後の人生を決めかねない。

 

 これ以上ヴェルサスを刺激したくないという気持ちは一緒だ。

 その為にもヴェルサスと歩幅を合わせるのが一番だが、一度大きな権力を手にした人間は殊勝な態度を取り辛いもの。

 年齢も影響しているだろう。年下に対して頭を下げることを屈辱に感じているかもしれない。あの老人にとっての最良は、あくまでも自分が上のまま事態を終了させたいのだ。

 そんなことは出来る筈がないだろうに、都合の良い状況は当の昔に終わっている。


「さてはて、どうしたもんだろうね」


 男は呟く。

 自分も他人事ではない。自身の胸元には公務員を示す証明書が入っていて、それはつまり国家に縛られていることと変わらない。

 このまま放置など出来る立場に無く、動かねば状況は変化しないものだ。複数の道筋を想像して、彼は携帯を取り出して何処かへと連絡を取る。

 

「俺だ。 ……ああ、予定通りに。 俺も直ぐにそっちに向かう」


 人間、誰しも自分が一番可愛いものだ。

 自己犠牲が出来る者は人格形成に多少の問題を抱えていて、自分を守る為に他者を陥れている方が人間として正しい。

 先ずは自分。その次に大切な者。だから彼は未だ学校を監視している自分の部下に連絡を送り、動くことを決めた。

 勘定を済ませ、足は駅へ。数十分の時間を掛けて学校への道を進んでいると、見慣れた記者団が姿を見せる。

 

「呆れたもんだ。 そんなに張り付いてちゃ警戒するだけだろうに」


 コートを着た無精髭の男は、傍目からすれば不審者に近い。

 そんな男が下校途中の学生の中に紛れ込むのは怪しいことこの上無い。しかし、この学校は何時もの出来事として下校になると騒がしくなる。

 原因は蓮司を迎えに訪れるヴェルサスメンバーだ。最初の頃は一人だけだったが、今では別々の人物が迎えに訪れている。

 彼等の風貌は整っていて、最早この学校における一種のアイドルのようなもの。最近は別学区の生徒も見に来るようになり、この賑わいは永遠に無くなることはないだろう。


「お疲れさん、状況はどうだ」


「何時もと変わりませんよ。 相変わらずです」


「そうかい。 んじゃ、少し席を外してくれ。 万が一を考えてな?」


「了解です。 助けはしませんからね」


 おう、と冷たい部下の言葉に朗らかに答えて彼は真っ直ぐ進む。

 今日のアイドルは美青年だ。燕尾服の上からヴェルサスを示す紺色のスーツを羽織り、蓮司が出てくるのを待っている。

 手を振る学生にもにこやかに対応し、その姿は優し気な近所のお兄さん。誰もがその笑顔に魅了される中、一直線にやってくる男に対してアントは目を細めた。


「失礼。 少しお話がしたいのですが、お時間をいただけませんか?」

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