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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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駒は揃い、次が目を覚ます

『――』


 そこには無数の怪物の部位が揃っていた。

 地下の奥深く。自然に出来上がった洞窟の最下層。ライトが無ければ光の届かぬ空間は地底湖であり、あまりの深さから調査の手が入っていない。

 水面に浮かぶ部位は数えきれない程だ。辛うじて頭や胴体といった箇所は判別出来ても、各々の姿形は異なっている。

 黄色の肌の腕、紫色の頭、緑色の尾。

 確り整理すればどれがどの怪物の部位か解るかもしれないが――今回はこれが正解だ。


「必要な資源さえあれば後は遠隔で出来るってのは良いよねぇ」


 水面に立つ澪は、怪獣の部位を眺めて独り言を漏らす。

 水という資源を吸収して生み出されていく身体は現段階では脆い。出来ている部位も所詮は形だけで、これから金属資源を吸収して骨や武器を作り上げていく。

 完成予定は約一ヶ月。豪勢な軍勢に仕立て上げる為にも、澪は余念無く製作を進めていく。

 

「やっとこさ一章が終わったんだ。 これからは一気にいかせてもらいたいもんだよ。 余計な足踏みは勘弁願いたいな。 ……まぁ、運次第だけど」


 一章が終わるまでに余計な幕間が幾つも起きた。

 それも漸く落ち着きを見せ、本業に専念する余裕も出来ている。彩斗は自分から仕事を請け負ったものの、確り時間は作ると澪達に約束もしてくれた。

 であるならば、二章を進めるべきだ。駒もある程度揃い、大きく暴れることも出来る。

 最早人々は怪獣が誰かの作り物だと信じず、必死になって撃破に乗り出すだろう。

 それで良い。そうでなければならない。

 余計な思考など不要だ。どうせ深く考えても解りはしないのだから、この荒波に呑み込まれるのを覚悟するしかない。


「こいつも早く使いたいね」


 携帯を取り出し、画面に一枚の画像を表示させる。

 そこにあるのは一着の服。パーカーをよりメカニカルにした服は戦闘服というイメージを抱きやすく、澪が持ち得る全てを投入した完全体の服である。

 完成品は三着のみ。色も黒に加えて白と赤があり、これを一着作る為に普段のパーカー二十着分の費用を使っている。

 今の人類がこの服を作るには千年以上の時間が必要だ。基礎材料に加え、加工道具や製作環境等、乗り越えなければならない壁は無数にある。

 

 名を――Advance suit。

 AMSを発展させ、装着者に更なる力を付与する最強の鎧だ。Evol projectと澪が名付けた計画の完成形であり、これをある地点で彩斗に渡すつもりである。

 そして、現在努力を積んでいる最中の蓮司にも専用の強化端末を準備していた。

 それはまだ完全に形になってはいないし、渡すタイミングは別に予定されている。今直ぐに完成させる必要が無いが故に、特に焦りも抱いてはいない。

 兎に角先ずは怪獣を完成させること。クリスマスか新年にこの場所から噴き出るように出現させ、一斉に暴れさせる。


 新しいスーツの画像を閉じ、怪獣の出来上がり具合を確認しながら彩斗の意識に自身の一部を紛れ込ませる。

 異なる思考が混ざれば流石に彼でも気付くが、一部ならバレはしない。とはいえ、彼は最初から澪が見ている前提で行動しているので堂々と意識を共有させても問題は無いのだが。

 今回もレッドとしての姿ではなく、彩斗本来の姿で会社に向かっている。

 学生組は学校に通っているので今は社員とメンバーしかいないが、彼自身の目的は社長である渡辺に会うこと。

 

 携帯を用いて緊急の呼び出しを受けた彼は若干眠気眼で歩いている。

 警備の横を通過する際にも小さく欠伸をしてしまい、思い切り苦笑されてしまった。

 気が抜けているとしか言えないが、ヴェルサスの力があれば並の問題は即座に解決する。大きな問題も彩斗の目からは大きくは見えず、だから無意識に気が抜けてしまうのだ。

 それで油断でもしていれば暗殺されかねないが、気が抜けているだけで油断している訳ではない。


 応接室に向かい、扉の前で先ずは気配を読む。

 人数は三人。強い反応は無く、いたって普通の人間ばかりが室内に存在している。一番大きいものでも一人だけで、それは恐らく渡辺社長だろう。

 緊急の話ともなれば予測は付けられない。外部でも内部でも予想出来るだけに、何が出てくるのかについて彩斗は思考を巡らせる。

 ノックを二回。自分の名前を言えば、やはり渡辺社長から入室を促される。


「突然の呼び出しでしたが、一体何用で――」


 言いながら用件を尋ねようとして、視界に入った別の男女に強制的に意識を引き摺り込まれた。

 三人の内、渡辺社長を除けばもう一人を彩斗は知っている。

 嘗てよりも伸ばされた黒髪を先端だけ縛り、茶色のコートを膝の上に置いていた。ベージュのスカートに紺の薄着は今の季節を考えれば合わないが、車で移動しているとすれば気にはならない。

 およそ高校生らしさが抜けている彼女は、絶縁と怪獣騒動の時に会っていない百合だった。


 彼女も彼女で突然の兄の登場に目を丸くして、一気に立ち上がった。

 渡辺社長は彼女の急な行動に目を向け、そして両者に視線を彷徨わせながらふむと内心で頷く。

 

「社長。 ご用件をお聞きしてもよろしいですか?」


「……ああ。 自己紹介は必要無さそうだな」


 彩斗は極力彼女を無視して、社長の隣の席に座る。

 対面で立ち上がっていた百合も隣の男に座るよう促され、視線を彩斗に固定させながら静かに席についた。

 

「突然の呼び出しですまなかったな。 此方はサンライズ事務所の方だ。 募集していたバッテリーの宣伝役に立候補をしてきたそうだ」


「初めまして。 私、最上・百合さんのマネージャーをしている桐野と申します」


「初めまして。 ヴェルサスの窓口役をしている最上・彩斗と申します。 ……今回の急な来訪は一体どのような理由が御有りでしょうか?」


 隣の男性はまだ若い。流石に百合程ではないにせよ、三十台に届いているかどうかといった若さだ。

 今回の緊急来訪は渡辺社長も予期してはいなかった。もしもしていれば事前に用意だけはするよう指示していた筈だ。

 そして、来訪してきても百合のようなトップアイドルを多く所属させている事務所でない限り追い返していた。

 今回は事務所の強さを鑑みて受け入れている。だが、内容が強引な訪問に釣り合わなければ如何に社会に影響を与えることが出来る事務所であっても今後の付き合いは切り捨てるつもりだ。


「それなのですが、この訪問を提案したのは私ではないのです」


「提案したのは、私です」


「どちらでも構いません。 先ずは理由を」


「……昨今、芸能系のニュースが少なくなっていることは存じておりますか?」


 百合は静かに彼を見据え、口を開ける。

 そこに家族に向ける目は無い。仕事は仕事として割り切って行動しているのが傍目にも解り、彩斗は一先ず安心する。

 だが、同時に百合が何を言いたいのか理解が出来ない。芸能系のニュースが減ったからといって何の関係があるというのだろう。

 最近は忙しいこともあって彩斗はテレビを見ていない。故に、彼は素直に彼女の言葉に否を返した。


「最近の報道局は芸能人よりもヴェルサスの方々の情報を求めています。 一般の方々も芸能人よりもヴェルサスの方に関心が向いているようで、その分だけ我々への関心が薄くなりました」


「……成程、理解しました。 要するに責任を取れと言いたいのですね?」


 ヴェルサスはこれまでも多く注目を受けていた。そして更に追い込むようにヴェルサスが十割出資している会社の設立に、驚異的な新商品の販売。

 話題がヴェルサス一色に染まるのも不思議ではなく、その反対にこれまで活動していた芸能人達は徐々に注目を受けなくなってきている。

 勿論、受けなくなっているとは言ってもいきなり絶望的な人数が彼等を見なくなった訳ではない。

 ただ、今後も話題の全てを掻っ攫うのであれば何れアイドルのような注目が命の職業は廃れていくだろう。

 

「そうなってしまう前に、ヴェルサスには社会に関与してもらいたい。 そして、関与するのであればなるべく有名な人間と繋がってほしいと」


「私の意思でもありますが、これは事務所の意向でもあります。 数多く居るアイドルの中でヴェルサスの方と話した経験があるのは私一人。 他に選択肢は無いと事務所の方は考えたそうです」


 最上・百合は未だベテランではない。それでも多数のファンを集め、上位のアイドルとして日々多数の仕事を熟している。

 彼女であれば分相応。事務所はそう判断し、そして急かした。

 新型バッテリーの宣伝役募集は全てフォートレスに一任している。彼等が良いと思った人物と撮影等を任せ、テレビに流す予定だ。

 繋がりたい報道局は無数にある。ヴェルサスが関わるCMを流したいと一言でも囁けば、大多数の報道局は飛びついてくるだろう。

 

 だからそうなる前に緊急で来たという訳だ。成程成程と頷く彩斗に一瞬だけ視線を向け、次に渡辺社長が口を開く。

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