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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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怪物になるには怪物に願うしかない

 喫茶店の客は思いの外少なかった。

 端の席へと案内され、彩斗は烏龍茶を注文。鳴滝はミルクティを、蓮司はストレートティーを頼み、各々の机の上に置かれた。

 店内は静かで騒ぐ人間は居ない。辺りを満たすゆったりとした曲も穏やかさの一助となり、大きな声を出せば一瞬で注目を集めてしまうだろう。

 どこか漂う大人の雰囲気。

 フォートレスの社員があまり立ち寄らないが故に、奇妙な緊張が二人を包み込む。


「そんなに気にしないで大丈夫ですよ。 チェーン店ですし」


「は、はい」


「あまり慣れてなくて……すいません」


 彩斗の対面に二人は座っている。

 確かに此処は家族連れで来るような店ではない。喫茶店とはいえ、此処の客層は穏やかさを楽しむ個人ばかりだ。

 相談をするのには適しているだろう。騒がしい場所では気が散って仕方がない。

 先ずはと三人は飲み物を楽しむ。負傷した身体は既に大部分が回復し、僅かな鈍痛が残るだけ。行動そのものに支障は無く、改めて澪の作った薬の偉大さに内心で感謝する。

 そして、ある程度落ち着いてから彩斗は口を開けた。


「さて、では話を聞きましょう。 と言っても、内容自体は解り切っているんですけどね」


「では――私に鍛錬をつけてはくれませんか」


 彩斗の言葉に、鳴滝は単刀直入とばかりに本題を口にした。

 常人の限界。それはなにも凡人の限界という訳ではない。人によっては天才も超人に見られることがあるが、天才もまた人の範疇である。

 つまりは天武の才を持った人間の限界。それが今の彩斗であり、恐らく大部分の人類に彼は勝つことが出来る。

 鳴滝は静かに彼の身体を見た。

 見た目は細身で、明らかに強者には思えない。放つ雰囲気も穏やかそのもの。草食動物と言われれば納得出来る風貌も持ちながら、戦いとなれば圧倒的な戦意で他を黙らせることが出来る。


「貴方程の戦士と呼ぶべき人はきっと少ないでしょう。 一体どのような鍛錬を積めば至れるのか皆目見当もつきません」


「……色々あった結果ですよ。 悪意から自分を守る為には、己そのものを強くするしかない。 だから鍛えて鍛えて鍛え続けて、社会全体を敵に回しても圧倒出来る組織と繋がることを選んだ」


「ヴェルサスの方々に認められるには相当な努力が必要だったと思います。 ましてや、フロー様のような他者を拒絶している方から信頼されるとなれば、その能力を疑うことは絶対に出来ません」


 彼女の台詞は、あの戦いを見た者が絶対に抱くものだ。

 現地協力者に圧倒的な力は要らない。有益であるのならば、彼等は繋がることを了承することもある。

 それでも、彼は違う。その力で、その考え方で、ヴェルサスに歓迎された。

 フォートレスのような誰かのミスに寄らず、己の在り様と活動で信頼を勝ち取ってみせたのだ。

 尊敬しない方がおかしい。汚い人間の意思を実際に見てきたからこそ、逃げずに前へ行くことを選んだ強靭な意志が眩しく見える。

 実際は黒幕も黒幕だが、見えなければ嘘にはならないのである。悲しいかな、鳴滝も蓮司も今までの積み重ねによって勘違いを引き起こしていることに気付けない。


「自分が至らぬ身であることは承知の上です。 ――それでも、私はこの社会に負けない自分になりたい」


 意思は硬い。それを証明するような真剣な顔は、一種の鋭利さすらも伴っている。

 そして、そのような顔をされては蓮司とて黙っている訳にはいかない。誰よりも強さを求めていると自負している以上、ここで引くのは自身を否定するようなものだ。

 

「自分も、ヴェルサスに関与する以前は情けない男でした。 暴力と権力に屈するような、唾を吐きたくなるような男です。 今なら多少は強くなったと言えますが、貴方程とは口が裂けても言えません」


 自分の過去は黒歴史そのものだ。

 思い出す度に呪詛を吐きたい程で、過去に戻れたのなら縊り殺していただろう。弱い自分を恨んでいるからこそ、強さに掛ける熱意は鳴滝にも負けはしない。

 燃えて燃えて燃え盛り、灰になるまで疾走を止めたくないのだ。そうすることでしか自分が生きても良いと言えないが故に。

 そして、そんな二人の事情を聞いて彩斗は内心で悩む。

 鍛錬をするにせよ、蓮司は先ず不可能だ。現状でもそれなりに厳しくしているというのに、更に追い詰めてしまったら過剰になる。


 鳴滝も同じだ。彼女の父親が厳しい鍛錬を行っていることを窓口役として耳に入っている。

 双方共に現状維持が望ましく、過剰な鍛錬は身体を壊すだけ。それを彼等は解っているのかいないのかは定かではないが、素直に頷くことは憚られた。

 とはいえだ。興味が無いと言えば嘘になる。蓮司も鳴滝も間違いなく才能があって、それは彩斗を超えるだろう。

 所詮、彩斗は澪の技術頼みだ。それが無ければ一般人よりも幾分か強いだけで、傭兵のような闘争を生活にしている者と戦えば負ける。


「最初に言っておきますが、私は貴方達の頼みを聞くつもりはありません。 どちらも既に鍛錬をしてもらえる師が居て、余裕なんて無いでしょう。 これ以上更に積み重ねるのなら、それは無駄にしかなりません」


「そこをどうにか、お願いしますッ」


 机に頭を叩き付ける勢いで二人は頭を下げる。

 角の席を取ったので然程注目を集めていないが、それでも学生にしか見えない二人が大人に頭を下げる光景は不自然だ。

 必然的に大人である彩斗に不審者の眼差しが店員から送られ、もしもこのままであれば最悪警察が呼ばれかねない。

 鍛錬を行おうとしないのは彼等を心配したからだが、それよりも仕込みをする時間が削られてしまう方が大きい。

 既に予定よりも空白期間が出来ている。いい加減怪獣の一体二体は出さねば、周囲は疑問に感じる筈だ。


「……じゃあこうしましょう。 土日の休みの日に三階の訓練所に来てください。 そこで実戦形式で二人合わせて三十分だけ指摘します。 それ以上は妥協出来ません」


「構いませんッ、ありがとうございます!」


「本当に感謝します!」


 二人は静かな声で、しかし嬉しさを滲ませながら感謝する。

 その感謝に頷きつつも、積もりに積もった予定の山をどうしようかと思案しながら彼等は喫茶店から外に出た。

 入口で別れ、胸元で振動する携帯を取り出す。

 送られてきたのはチャットの文面。彩斗と澪だけの二人だけのチャットルームで、彼女から新しい計画進行の旨が伝えられた。

 会社発足最初の怪獣は、やはり目出度いものであるべきだ。お祝いを兼ねて派手にいこうと彼女は考えたのか、出てくる怪獣は一体や二体ではない。


『カプセルは溜まっているんだ。 この際、五体くらい出そうじゃないか』


『態々チャットにしたのは出す奴を画像で見せたかったからか?』


『イメージ映像だけだとブレるからね。 全部喋るのも疲れるし』


『脳内会話に疲れるも何もないだろ……』


 変な話だが、資料を送ってもらえるのは有難いことだ。

 後で確認の為に見返すことも出来るし、それに合わせた演技も出来る。五体も出てくるのだから調整をしないと悲惨な結果になるのは明らかだ。

 歩きながら怪獣の情報を見やる。βよりも強い個体は当分出てこないだろうと読んでいくと、五体目に出てくる怪獣で指が止まった。

 そこに映っているのは複数の生物を寄せ集めたようにしか見えないバラバラな怪獣。


『やっぱりそれに目が止まった?』


『……こんな奴予定に含んでたか?』


 彼女の質問に疑問で返すと、喜々とした感情が流れ込む。

 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの感情の波に、アドリブかと彼は溜息を吐いたのだった。

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