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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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常人の限界点で人は踊る

「っふ!」


「は……ッ!」

 

 幾度目の激突か。

 足を交差させながら互いの攻撃を弾き、体勢を元に戻した瞬間には次の挙動に移る。彩斗は動きを阻害し易いスーツ姿であるが、澪が製作している特別品だ。

 その挙動に違和は無く、されどアントの拳圧で所々が破れている。

 息も彼の方が最初に上がり、顔色も悪いものだ。これは人間と人造の明確な差であり、しかして追い詰めているのはどちらかという話になると様相が異なる。

 アントの身体には明確な一撃は刻まれていない。呼吸も未だ安定そのもの。内部の破損が無い故に循環も平常通りで、一見すると無傷だ。


 だが、アント本人の顔色もよろしくない。

 それは一重に、まだ彼に対して有効な一打を与えられていないからである。どれだけ拳と足を雨のように降らせても、彼はその悉くを正面から相殺しているのだ。

 勿論、その所為で彩斗の拳は血塗れ。本来は手袋でガードしている衝撃をそのまま受けているのだから皮膚が裂けるのも当然だ。

 

「なん、ですか。 あれは……」


 訓練所内で少女の声が静かに響く。

 出したのは鳴滝・花蓮だ。この訓練所では彼女も鍛えていて、入ったのは既に戦いが始まっている時だった。

 彼女は一目見て、この戦いが異次元の域であると気付いている。大人の矜持が無く、更にプライドも挟まれない正直な目は、この戦いに常人が足を踏み入れるのは不可能だと告げていたのだ。

 だが、その領域に足を踏み入れているのは常人である。超能力を行使しない只人が、超能力者の攻撃を防いで致命傷を捌いている――それはなんて馬鹿げた話なのだろう。


「来てたのか、鳴滝」


「土方さん。 あの、あの人は……」


「なんでも、あのレッドと殴り合えるらしいぜ。 真偽は不明だが、あの優男との模擬戦を見る限りあながち嘘と断じられねぇ」


「レッドさんと……」


 唖然とした呟きのまま、彼女は彩斗を見る。

 彼の顔は笑っていた。怪我だらけで、短い期間に無理に身体を動かした所為で重心もブレているのに、それでも楽しいとばかりに挑戦している。

 それはアントも一緒だ。決めきれない事実に歯痒い思いを抱えはしても、この激しい攻防に心躍らせていた。

 肉弾戦において、二人は間違いなく全力全開だったのだ。

 

「――ふぅ、はぁ」


 彼等の見ている前で彩斗は呼吸のリズムを変える。

 何かをするつもりだ。それは誰しもが容易に予想出来ることで、アントもその呼吸音に警戒を強める。

 二、三回の呼吸を行い、彼は両腕を脇に寄せながら動く。

 一直線に突撃する様は自殺にしか見えず、アントもまた同様の考えで彩斗の頭に槍のような一撃を与えた。

 しかし、その攻撃は通過する。頭に命中した筈なのに、腕は何の抵抗も覚えずに貫通した。

 つまりは残像。その事実に行き着いたアントは、背後の気配に思わず振り返ろうとする。


「これで――」


「ッ! ……はぁぁぁぁぁぁ!!」


 振り返った視線の先に、彩斗の鋭い眼光がある。

 手を刃の形に揃え、首に一撃を叩き込むつもりだ。振り返る頃には彩斗の方が先に攻撃が命中し、負けはしないが怪我は免れない。

 アント自身、無傷で勝てるとは考えていなかった。一撃二撃は貰うだろうと覚悟していて、されど彩斗の眼差しには攻撃を受けることを思わず躊躇させる殺意があった。

 この戦いが実戦であるならば、彩斗の一撃でアントの首が飛んでいる。

 生死の概念などアントには無い。にも関わらず、本能のようなプログラムが勝手に剣の生成を始めていた。


 自動で空中に現れた剣を掴み、勢いに任せて一閃。

 流石の彩斗もアントの剣を真正面から受けては死にかねない。攻撃を中断させて上半身を逸らし、彼の頭があった部分に剣が通過した。

 そのまま後方回転を行い、互いに距離を取る。最早模擬戦の域を超えた圧の重さを周囲に放ち、言葉を発することを許さない。

 こんな場所で発言が出来るのは――同じメンバーだけだ。


「そこまで!」


 手を叩き、勝負の終了を楓が告げる。

 途端に圧は解除され、アントは頭を掻きながら苦笑した。彩斗はその場で足を崩して座り込み、鳴滝は真っ先に彼の元にタオルと水を持っていく。


「この勝負、アントの負けです」


「はぁ……。 つい剣を抜いてしまいました」


 黄金の剣を消し、アントは素直に敗北を宣言する。

 これが実戦であればアントが剣で攻め立てて終わりだが、これは模擬戦だ。ルールを破った以上はその人物が負けるのは必然。

 観客となった人々は思い出したかのように呼吸を再開し、何時の間にか握り締めていた手を意識して開く。

 手に汗握るような戦いだった。敗北の可能性は明らかに彩斗が高かったのに、最後の一瞬にアントの本気を引き出すことに成功している。


「ありゃ、本当に人間か?」


 土方の呟きは皆の総意だ。

 彩斗は超能力者に食らい付ける地力を有している。それはつまり人間の域を超え、超人の域にまで己を至らせたということ。

 一体どのような鍛錬を積めばそうなれるのか。一体どのような想いを持てばその強さを悪に使わずにいられるのか。

 土方にはまるで解らない。天武の才を持つが故に見える景色があるのだろう。


「立てますか、彩斗様」


「ええ。 ……いや、久し振りに無理をしました」


 よっこいしょと楓とアントの肩を借りて立ち上がり、彼女が懐から取り出したカプセルを水と共に飲み込む。 

 途端にビデオの逆再生のように血が止まり、新しい肌が傷口を塞ぎ始める。

 その治る速度は異様であるものの、此処の面々は慣れたもの。特に気味悪がることもなく、寧ろその強さに感服していた。

 流石はレッド達が重用する人間。ヴェルサスメンバーが最高と評する男。

 ただの人類の限界点にまで彼は到達しているのだろう。これより上に至ろうとすれば、それは超能力者達のステージとなる。


「あー、あんまり参考にしないでくださいね? 結構無茶を重ねているので」


 注目を受ける彩斗は困ったような笑みを浮かべつつ、注意をしておく。

 本来の彩斗に同じ真似は出来ない。スーツのアシストがあってこそ出来た動きであり、同じ動きをしようとすれば人体が破壊されるだろう。

 無理をしてほしい訳ではない。ただ、これは模擬戦を見せただけである。

 それを見て何も思わなくて良いのだ。決して、それを追いかけるような真似をしてはいけない。

 

 そうは言いはしても、やはりこの模擬戦は人々に鮮烈な印象を抱かせた。

 特に傍に居た鳴滝に至っては目を輝かせて尊敬を浮かばせている。強者という意味において超能力者はあまり参考にならないが、彩斗の強さは参考に十分値するのだ。

 

「最上さん。 少し時間をいただけませんか」


 だから鳴滝がその言葉を吐くのも自然なもので、やっぱりこうなるのねと彩斗は内心で溜息を吐いた。

 どうせ時間はある。窓口としての役割しか有していない以上、それが済んでしまえば基本的に彼は暇だ。

 彼女の口振りから察するに、本人も時間があるのだろう。ここで断ることも出来るが、フォートレスの実力が上がるのであれば否と言うのも難しい。

 

「近くの喫茶店で良いですか? 一応、まだ休憩時間ですので」


「ありがとうございます!」


 輝かんばかりの笑みを浮かべる鳴滝を見て、蓮司も横から飛び出す。

 彼の実力に魅入られた人間は何も彼女だけではない。蓮司とてその実力に尊敬を抱き、その一端でも教えてくれないかと期待している。

 子供は素直だ。周囲の空気を読むには、高校生では未だ経験値が少ない。奈々だけは凄いと言うだけなので、やはり中途半端な年齢が関係しているのだろう。

 楓とアントと顔を合わせ、一先ず部屋を退出する。今日という一日はきっと長くなるだろう。


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