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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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激怒一喝

 既に全てが終わったというのに、余計な介入が入った。

 鳴滝・花蓮の言葉は澪を刺激している。一歩間違えば死人が出かねない状況に神経を研ぎ澄ましていたが故に、今の彼女は疲れているのだ。

 充足感によってその疲労は誤魔化せていたのだが、それも吹き飛んだ。

 残るは水を差されたことによる憤怒と、大きな疲労感のみ。幾分か彩斗の負担も引き受けていたこともあって出来れば早く家に帰りたかった。


「……ヴェルサスが欲しいってことか、それは」


「きっとそうだと思います。 指揮官も抗議したのですが、どうやら止められなかったようです」


 蓮司の怒りを固めた声に鳴滝は冷静に肯定する。

 この状況で捕獲を狙う理由なんて明瞭だ。突然であっても意図を見抜けぬ者は居ない。

 はっ、と蓮司は鼻で笑う。

 人の悪意は簡単には消えない。特に欲望というものは、人の原動力になり易いが故に一度消えても再発する。自衛隊の上層部はこの機会に完全にヴェルサスを吸収したいのだ。

 そして、捕らえた超能力者を用いて実験をするのだろう。その力を己のモノとする為に。

 馬鹿らしい話だ。愚かな話だ。――星が人類の廃絶を求めるのも頷けてしまうくらいに。


「交戦は避けられません。 ですがそれは、機動部隊の総意ではありません。 ……我々は戦いたくないのです」


 手を白くなる程握り締めて鳴滝は頭を下げる。

 戦いなどしたくない。そもそも、この戦いには何の意味もない。するだけ両者に不利益しか与えない戦闘に一体どんな価値があるというのだろう。

 だから逃げろ。我々の事など気にせず、どうか貴方達は貴方達の生活を続けてほしい。

 正義はヴェルサスにある。鳴滝は確信し、だから願うのだ。

 しかし忘れてはならない。最早このような事態に発展した段階で、最も敵に回したくない怪物が激怒している。

 

 蓮司よりも、アントよりも、楓よりも、モザンよりも――そして彩斗よりも。

 アーキタイプすら凌駕して、彼女の怒りは留まるところを知らない。それを諫める立場にある彩斗も今は意識を喪失している状態で、鳴滝がおかしいと思う頃には周辺の気温は極低温にまで下がっていた。


「ふざけた話があるものだ」


 彼女はその瞬間、自分が死ぬ未来を見た。

 頭から爪先まで氷柱が差し込まれる感覚を抱き、吐く息も白い。フローの周囲には三つの氷の結晶が浮かび、それぞれがランダムな挙動をしている。

 戦いでもないのに能力を発動している。――否、彼女の怒りに合わせてパーカーが自然と稼働しているのだ。

 彼女専用に作られたパーカーは彼女の思考によってのみ動き、感情の揺らぎすらもそれが彼女自身のものであればトリガーとなってしまう。


「折角無事に終わったと思いきや、次は人か。 我々でなければ勝てない相手に勝利を掴んだというのに、その恩を仇で返すと? ……見縊られたものだよ」


 放たれる暴力的な圧は、殺意の奔流だ。

 鳴滝は舌を噛んで意識を留めているが、少しでも気を抜くと気絶しかねない。他の面々も鳴滝に対して友好的とは言えず、寧ろ一触即発の状態にまで行き着いてしまった。

 社会から弾き出された者達の集団。それは彼女も理解していたことであるが、改めて彼等の常識の通じなさを解らされる。

 ここで逃げるのではなく、フローは殲滅するつもりだ。そして、それは鳴滝の目からでも可能であると映っている。

 

 フローの攻撃範囲は広い。

 加えて言えば、攻撃の発生地点が解り辛い利点がある。空気中の水分子を氷結させることで何処からでも氷を発生させ、相手の意表を突くことも可能だ。

 それはつまり、と鳴滝が答えに辿り着く前にそれは起きた。

 背後から聞こえる軋む音。必死に動かそうとしている鈍い音。

 唇を震わせながら振り返れば、そこには全ての空我の手足が氷結しているところが見える。

 胴体のコックピット部も完全に凍り付き、脱出することも不可能だ。銃器の発射機構まで氷結すれば、もう弾を撃ち出すことは出来ない。


「馬鹿な奴には躾が必要だ。 これ以上無く効率的に、これ以上無く残酷に」


「や、やめてください! 我々に戦闘の意思は――」


「意思は無くとも、命令されれば動くのだろう? 従う時点で我々の敵になるも同然だよ。 真に敵ではないと言いたいなら、今すぐに武装解除することだな」


 怒りながらもフローは最後の一線を超えないようにしている。

 空我の動きを封じ、攻撃を封じただけでパイロットへのダメージは皆無だ。彼等は何とか脱出を図っているが、強固な氷の所為で突破は不可能。

 季節も暑い夏ではない。自然解凍は望めるべくもないだろう。

 殺さないのは、彩斗と交わした約束があるから。人死にだけは出さないようにしようと彼が言ったから、彼女はその肉体に直接氷を放つ真似をしない。

 

 その上で、彼女はこの場の解決策を提案する。

 武装を全て放棄すれば殺すことはしない。パイロット全員の命も保証しよう。

 だが、それが意味するところは上層部からの命令無視。理由が理由なだけに彼等は機動部隊を責められない筈だが、それでも成果を出さなかった者に罰を与えるだろう。

 所詮、彼等は居なくなっても構わぬ人間なのだ。秘密裏に強制労働の任に就かせても良いと相手は思っている。

 

 鳴滝の前に並んだ道は二つ。

 社会か、ヴェルサスか。他人の歯車となってまで敵対の道を取るのかと彼女は自身に自問し、目は今にも殺されそうな空我達に固定されている。

 正義の定義に基づくのであれば、ヴェルサスの味方をすべきだ。馬鹿なことをしているのは彼女達の上層で、連中の好きにさせる訳にはいかない。

 だが、それをすれば待っているのは絶望だ。フローは鳴滝を殺すつもりはないものの、他の空我パイロットは殺す気である。

 自分の所為で機動部隊の面々が死ぬ。

 そう考えた時、彼女はそれを認める訳にはいかなかった。交流が少ないとはいえ、彼女に優しくしてくれた隊員もいるのだから。


 ならばヴェルサスに味方するとしよう。

 その先にあるのもやはり破滅だ。学生であっても上はまったく容赦せずに彼等に厳しい罰則を与えるだろう。

 人権を損害させるような真似を強要するかもしれない。罪を捏造されて日本中の人間から後ろ指を差されるかもしれない。

 様々な可能性が巡り、あまりにも重い二択に総身が震える。決めねばならぬとフローは視線で突き付け、どうして自分がと吐きたい衝動に駆られた。


 誰か。どうか、誰か助けてくれ。

 私はこんな状況を切り抜ける方法を知らない。頭が人より回っても、難局の突破に関してあまりにも経験が不足しているのだから。

 視線を彷徨わせる。救い主を求める鳴滝はあまりにも哀れで、だからフローは激怒を胸に抱きながら厳しく逃げ道を塞いだ。


「どうした、自分では決められないか。 お前も此処に居る以上、責任を背負う立場にある。 お前が決めても何も問題は無いだろう?」


「わ、私はただの学生で……」


「学生の身分など関係無い。 お前もまた生殺与奪の権を持つ人間だ。 ――誰かに寄り掛かる真似など許さん」

 

 学生――関係無い。

 子供――関係無い。

 決定権を持たない――関係無い。

 全てが全て、現状において関係無いのだ。彼女以外は総じて決める権利を持たず、この場で対峙した鳴滝にこそ全てを決める権利がある。

 さぁ選べ。お前は正義と悪のどちらを優先するのかと。

 寒さ以外の理由で身体は凍えている。逃げ道の無い環境は精神を圧迫させ、手足の感覚すら最早無い。

 彼女は鈍くなった頭で選択する。口を開けた彼女は、喉が引き攣りながらも言葉を放っていった。

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