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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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女の献身が火種と化す

 空中を飛んでいたレッドの炎が消失する。

 同時に四体の炎の具現化も消え、辺りにはレッド一人だけとなった。彼の身体は重力によって自然落下し始め、再度炎が灯ることはない。

 レッド自身も意識を喪失している。戦いが全て終わったことによる安堵と疲労によって早々に気を失い、フローは咄嗟に氷のレールを敷いて跳ねた。

 落下途中の身体を抱きとめ、そのまま空中に氷を生み出してアント達が居る場所へと一気に着地。

 直ぐに医療担当に設定されている楓が近寄り、レッドの口にカプセル状の薬と水を流し込んだ。


「全体的に負傷が目立ちますが、特に足の怪我が酷いですね。 完治するまでに一週間程度は欲しいところです」


「アーキタイプは無事に殲滅された。 暫くはゆっくりすることも出来るだろうさ」


 二人の話を聞きながら、蓮司はレッドの状態に目を見張る。

 破れ放題なパーカーに、穴だらけのズボン。足は刺され過ぎたことで大きな傷口が幾つも見え、その傷口からは無数の血が流れている。

 先程流し込んだ薬故か直ぐに血は止まったが、それでも大小様々な怪我は残ったままだ。

 どう見ても一週間で完治するような怪我ではない。少なく見積もっても三ヶ月は欲しいところ。しかもそれは、単に怪我が治るまでの時間である。


「……レッドさんは、また歩けるんですか?」


 不安を大いに込めた蓮司の質問に、フローは頷く。


「気にするな。 腕が吹き飛んでも再生させられる技術を我々は持っている。 負傷によるリタイアは万に一つも有りえんさ 」


「そう、ですか。 ……はぁ」


 鎧の内側で安心しきった声を漏らす。

 例え足が治ったとしても、その足の神経が切断されては動かせない。幾つもの箇所に深い傷を負ったレッドではもしやと不安を覚えたが、フローは特に心配している素振りを見せずに答えた。

 この場合、冷静であればある程に頼りになるものだ。

 楓もフローも冷静そのもので、アントは今はイブに身体を支えてもらう形で何とか立てている。

 初めて、ヴェルサスがここまで疲弊した姿を見せた。それだけの戦いがあったのだから当然だが、蓮司はなんとなく疲れているアントや傷だらけのレッドに人間味を感じていた。


 そんな彼等を鳴滝は遠巻きに見つめる。

 真に信頼出来る仲間の輪は、新参者が入る余地を与えない。それに彼女は何の活躍も出来ず、最後には蓮司によって救出されたのだ。

 話す資格すら今の彼女は無いと思っている。だから彼女は声を掛けず、そのまま機動部隊の何時もの面々の所に向かった。

 無骨な鉄の塊は片膝を付いて停止し、指揮所からの命令を待っている状態だ。

 

「土方さんッ、回収班は何時頃来る予定ですか!」


 土方の空我に声を掛けると、首が動いて彼女を見据える。

 そのまま胴体のコックピットに通じる扉が展開され、中から操縦システムを一時的に停止させた土方が出てくる。

 ヤクザ者にも見える凶暴な顔は苦虫を噛み潰したような顔となり、そんな顔をする理由が思い浮かばない鳴滝は黒髪を揺らしながら首を傾げた。

 

「どうかしたんですか?」


「ああ、今ウチの指揮官が抗議しているみたいなんだが……。 上はどうやらこの隙を突いてヴェルサスを捕獲したいらしい」


 彼の言葉には嫌悪感が滲み出ている。

 鳴滝もそれは一緒だ。どうして日本を救った英雄を捕獲せねばならないというのか。

 彼等を招いて礼を言うのであれば解るが、捕まえるなど不穏そのもの。前々から自衛隊の上層部はヴェルサスの力に興味を示していたものの、積極的な行動に移すことはなかった。

 それが単に機会を伺っていただけであるなら、この状況は正しく恰好のチャンス。

 とはいえ、このチャンスは狙って出て来たものではあるまい。本来の道筋から外れたからこそチャンスは生まれ、上はそれを逃すものかと機動部隊に命じた。

 

 そこにはきっと、ヴェルサスに手柄の全てを持っていかれることを恐れている部分もある。

 誰であれ、栄光と名誉は欲しいものだ。空我によって栄光の味を取り戻した彼等は、二度とそれを取りこぼさない為に最終的には空我が勝ったことにしたいのだ。

 全ては鳴滝の予測だが、そこまで外れてはいないだろうと彼女は思っている。

 上を見上げれば見上げる程に人は醜さを露出するようになり、利益や権利を必死に守ろうとする。

 それを持つ本当の意味を放棄して、ただただ益が生み出す甘露を味わっていたいのだ。


「無理に撤退したらどうなると思いますか?」


「良くて厳罰。 悪けりゃ社会的抹殺だろうな。 ……所詮、俺達は死んでも構わねぇ集団だしよ」


 冷たい現実を突き出す土方は現実的だ。

 幸福を体感する瞬間は短く、不幸を体感する瞬間は長い。社会には幸福だと思える時間が予め短く設定されていて、その中からマシだと思える選択をするのが人間の営みだ。

 漫画や小説のようなどんでん返しは無いのが当たり前であり、故にどれだけ指揮官が意見したとしても最終的には従わなければならない。

 それが権利の力。それが上下関係。地位と権利の力の前に、人は皆等しく無力である。


『土方。 指揮官から命令だ。 撃て、だそうだ』


「クソッ、マジかよ。 馬鹿じゃねぇのか上は」


 硬い立花の声に土方は頭を乱暴に掻きながら上層部を罵倒する。

 馬鹿だ、馬鹿だ。大馬鹿だ。如何に彼等が弱体化したとて、空我を全て潰すのに然程の時間は掛からない。

 遠くからレッドとアントが再起不能になったのは確認しているが、それ以外の面々はまだまだ余裕だ。まともに激突すれば、その瞬間に勝敗は決する。

 

「鳴滝。 お前さんは機体が運良く大破しているから、俺達が陣形を整える前に後方に下がれ」


「そんな……。 ヴェルサスの方々に説明しましょう! 何か手があるかもしれません!!」


「馬鹿言うなよ。 散々っぱら群れるのを嫌った連中が俺達を助ける為に行動なんてすると思うか?」


「それはッ……」


 ヴェルサスが何処の組織とも協調しようとしないのは知っている。

 知ってはいるが、これでは向こうが勘違いするだけだ。このまま攻撃したとして相手は機動部隊を卑怯者と罵り、容赦無く命を刈り取ろうとする。

 その真の想いすら届かず、彼等の命が散るのだ。僅かな時間しか一緒にいなかったし、別段強い想いを彼女は抱えている訳ではないが、助けられるかもしれない命を助けられないことに納得出来なかった。

 それは子供のような文句かもしれない。大人が聞けば鼻で笑うような、そんな言葉だろう。

 しかし、それを掲げることの何が悪いのか。

 

「駄目ですッ、絶対に。 待っててください、直ぐに話をつけてきます!!」


「おい!――ああクソ、まーた勝手に行きやがった」


 踵を返して走る彼女を捕まえることは出来る。

 出来るが、土方は手を伸ばすだけで追いかけようとはしない。それは立花も含めた他のパイロットも一緒で、どうかこの戦いが起きないことを真剣に祈っている。

 必死な形相で駆けた彼女は、何やら話し合いをしていたヴェルサスの前に姿を晒す。

 当然飛び出してきた女の姿に蓮司は露骨に眉を顰めるが、息を荒らげている彼女を見てしまえば追い返すのも憚られた。


「何か用か、小娘」


 フローが極寒の声で尋ねる。

 殺意も敵意も無い言葉であるが、その無味乾燥とした口調は聞くだけで全身が凍り付いてしまいそうだ。

 しかし、それだけで彼女は引かない。全てを元通りに、あるべき形に正すには彼等の力は絶対に必要だ。


「急いで逃げてください! 上層部から新たな命令が下されて、皆様方を捕獲せよと言われています!」


「――――」


「……なッ」


 突然の出来事に、蓮司は絶句の声を出す。

 イブはその目に危険な色を発し、楓は拳を握って闘争に備える。そしてフローは――人前で見せることのない本気の憤怒を晒していた。

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