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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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異種・互角とならず

 烈火の炎が周囲に広がる。

 巻き付いた焔と共に拳で棒を砕き、蹴りの一撃で一時的にその場には安全地帯が構築される。

 とはいえ、雨の量は無限だ。折れた先から棒が生え、砕いても砕いても意味が無い。

 故に狙うは本体のみ。大本を破壊せねば持久戦で敗北し、物量によってでも負ける。

 他の面々は回避と、超能力による妨害だ。

 澪の氷結による壁の構築は特に役立ち、棒の破壊に限定すれば楓の筋力強化が最も貢献している。

 

「数えるのも馬鹿らしいですねッ……!!」


「同感だねッ。 解ってたとはいえ、この量は骨が折れる、よ!」


 拳と斬撃による一斉掃討。

 高速の連撃によって槍となった棒達は軒並み海に沈没するが、彼等がそれを目にする余裕は無い。

 止まらないのだ。どれだけ斬っても、どれだけ砕いても、まるで対象の質量が減っているようには見えないのである。

 だが、今はそれで良い。長い時間を掛けてでも、彼等は最初に予定されていた通りの仕事をこなす。

 イブや蓮司も一緒だ。自分達では致命傷を与えられぬと判断して、二人は各々の方法で回避しながらサポートに徹していた。

 

「……返せるが、返せるだけだな。 相手に直撃する前に別の槍に当たって無駄になる」


「うぉ……っとぉ!! ……こっちも投げてはみてますけど、同じ結果ですねッ」


「レッドがダメージを与えるのを待つしかない。 それまでは耐久していろよ」


 片方はバリアのような膜を展開し、それに触れた対象を強制的に突き飛ばしている。

 逆転の名の通り、イブに出来るのは反転だけだ。百の力に二百の力を与えるという強引な方法であるが、彼女の全身に張られている球状の透明な膜が負荷を肩代わりしている。

 膜の正体は特殊な粒子だ。

 一定の荷重が発生した場合に限り硬質化するという澪の独自粒子であり、更にそこに電力を通すことで弾力を獲得することが出来る。

 弾力は電力で調整可能であり、これによってどれだけの力で返せるかが決まるのだ。


 そして、蓮司は今はイブの力を使っている。

 手にしてから日が浅い為に逆転を完璧に行うことが出来ず、現在は攻撃を逸らすか海に沈みそうになっている槍を拾ってβ本体に投げつけている。

 その努力はまったく報われないが、そもそも通用するとは欠片も思っていない。

 少しでも気が引ければ良い方だが、かといって注目を集め過ぎては身の破滅。片手に握った剣も駆使して何とか生きているが、長くは保てない。


『ーー着いたぞ、正面』


 そしてメンバー全員の奮闘により、レッドは相手の足元にまで接近する。

 その間に彼の着ているパーカーは穴が増え、裂けたズボンからは赤い染みが広がっている。当然ながら痛みを誤魔化す薬など服用してはいないので、彼はこの戦いの最中ずっと激痛と戦っていた。

 今はまだ脳内麻薬のお陰で痛みを無視出来ているが、このまま傷が増え続けて血を流せば失血死も考えられる。

 既にこの段階で遊びの範疇は逸脱していた。本当ならばここで敵が倒れるのが筋である。


 しかし、彼等は先に進む。

 更なる限界を求め、無謀な突撃でもって危機を演出していくのだ。

 βは真正面に迫る敵に顔を向け、首を傾げる。開けた口から濡れた舌が伸び、歪な笑みを形作って嘲笑を送っていた。

 

『楽しい? 愛しい? 嬉しい?』


『人の感情を覚えたか。 それ自体は別に不思議でもないが……』


 散弾が如くに迫る槍を回避し、その側面を蹴って上に向かう。

 別方向からやって来る攻撃も槍を蹴る方向を変えることで避け、それが出来ないのであれば火炎を吹かせて強引に身体を動かす。

 マスクの内側ではアラートが鳴りっぱなしだ。あらゆる箇所から危険の二文字が流れ、その悉くを彼は無視する。


 足に力を込め、身体はついにβの顔面へ。

 大口を開ける敵に対し、レッドは最後に背中から炎を吹かせて移動する。

 最初の激突からレッドは相手の硬度を理解していた。本気の一撃を放ったとて、恐らくはその硬い骨を突破するのは不可能だ。

 フローにどれだけ強化を施されても、今レッドが纏っているパーカーは最初の作品である。

 最後まで走りきれるようなスペックを有しているとはいえ、ここまで来るまでの間に予定外な出来事は幾つも起きた。


 力技だけで解決しなかったこともあれば、予定外の仲間を加えることもあった。

 その全てに後悔は無い。そもそも後悔しない選択だけをレッドとフローは選び、このような状態になっているのだ。

 

『ーーーーーーっは』


『ぐあはっはっはっはっはっはァ!』


 眼窩を狙った渾身の一撃。

 肉を潰す感覚を得ながらも、そこに安堵と呼べるものは一切存在しない。

 化け物は元から痛覚が無いのか笑い声を上げる。両の手を顔に伸ばしてレッドを掴もうとし、そうなる前に彼は埋まった足を引き抜いて脱出した。

 そのまま背中に移り、罅の走っている部分を狙って拳を叩き込む。

 一撃では新たな罅を発生させることしか出来ないが、何度も殴れば芯も脆弱になっていく。

 

 流石にそれは看過出来ないのだろう。

 割れた箇所からいきなり数百の槍が伸び、レッドの足に突き刺さる。

 肉を食い破られる不快感と新たな激痛は後退させるに十分で、叫びたい気持ちを唇を噛むことで強引に抑え込んだ。

 

『無理そうなら言って。 調整する』


『よしてくれよ澪。 今ーー』


 最高な気分なんだ。

 脳内で交わされる言葉に、澪はその相貌を驚愕に変える。

 彼から流れ込む感情は全て正のモノだ。楽しいと感じ、嬉しいと感じ、この時間がずっと続いてほしいと切に願っている。

 その証拠に、マスクの内側に居る彼の目は狂気を帯びた輝きを放っていた。

 正しく今こそ、自分が生きていると実感することが出来る。


 パーカーの出力を引き上げ、爆発的加速を引き起こしながら敵の身体へと再度肉薄する。

 狂っているとしか言えない状態だが、彼の思考は異常なまでに冷静だ。自分が絶対に助かると思っているから冷静なのではなく、純粋に楽しいからこそ勝ちの目を探っている。

 

 自分の状態。自分の手札。仲間の状況に、予定外の参入者。

 普段ではとても出来ぬ高速思考を繰り返し、その果てにやはりと彼は内心で頷く。

 無理をせずして勝ちは拾えない。この場を無事に収めるなら、やはり予定通り使う必要がある。

 

 思考を纏め、攻撃を回避しながら適当なタイミングでわざとβの拳を受けて吹き飛ぶ。

 激突の刹那に澪が威力を落としたが、それでも吹き飛んだ身体は空我の近くの地面に叩き付けられた。

 

『ゴホッ、っぐ、……キツいな、これは』


 パイロット達はカメラを動かし、レッドの凄惨な姿に愕然とする。

 パーカーは汚れ、破け、その下にある黒いスーツを露出させていた。足のズボンも穴が開き放題で、そこから赤黒い血液が止めどなく流れている。

 赤い染みは腕や背中にも散見され、フードは辛うじて原型を留めている状態だ。マスクにも大きな罅が入り、僅かな衝撃で恐らく完全に割れるだろう。


 満身創痍だ。あの誰よりも強かったレッドでも、βの猛攻を止めることが出来ない。

 相手は傷付いた身体を修復させ、再度雨の如く槍を降らせている。

 超能力者達も徐々に疲労が溜まり、怪我も増えていく。今はその雨に鳴滝も加わっているが、大きいが故に一番損傷が増えている。

 

『どうする』


 皆が思っていた。

 どうすれば良い。どうすれば解決する。何をどうやれば、あの怪獣の中の怪獣を打倒出来るのか。

 絶望が周囲を支配し始める。もう駄目だと、パイロットの中の誰かが口にした。

 ーーそんな最中、レッドは無言のまま歩き出す。

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