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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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異種・俺は太陽の化身!

 身体が鉛のように重い。

 自分の身体ではないように感じる。巡る激痛は過去最高で、成程澪の語った通りに下手をすれば命を喪失していただろう。

 だが、全ては予定内。想定された道筋は外れることなく、彼等は全員足を止めることになった。

 メンバーを除き、その他の面々には絶望が舞い降りている。この状況をどうやれば潜り抜けられるかと思考し、βのとてつもない暴力によってその思考は完全に遮られていた。


 最強だと思っていた人物が満身創痍なのだ。それ以下の力しか持たない者達からすれば、己の力で勝利を握るなどとてもではないが思えない。

 この時ばかりは蓮司もその他の者達と一緒だ。自分は強くなったと認識してはいても、あのβに届く程ではないと理解し切っている。

 なまじ実力差を感じ取れてしまうからこそ、絶望はより強くなるのだ。

 空我を手にして、FMCを手にして、心の奥底に宿った増長はこれで一気に消滅した。


『……おい。 アンタ何やってんだよ』


『…………』


 引き摺るように進むレッドの姿に、土方がスピーカーを全開にして尋ねる。

 だがレッドはそれを無視し、水と土の境目で足を止めた。このまま進めばもう一度あの怪獣と激突することとなり、そうなれば同じ結末を辿る。

 彼の身体はもう限界なのだ。その状態で戦っても本来のポテンシャルは発揮されず、寧ろ怪我が足を引いて更なるダメージを背負うだろう。

 死ぬかもしれない。いや、死ぬだろう。

 パイロットの中でも特に秀でていた鳴滝ですら、飛び出してから僅か数分の間に機体から火花を発生させている。

 

 たまらず、立花は空我の手を動かしてレッドの行く道を遮った。

 巨大な手は彼の壁となって立ちはだかるが、それが何の意味も無いことを彼等は解っている。

 解っていて、それでも止めねばと思ってしまった。衝動的な行動は、故に更なる彼等の本音を引き出す。


『無理をしないでくれッ。 アンタが此処で倒れたら、誰があれを倒すって言うんだ』


『……』


『今回は俺達の負けで良いじゃないか。 日本は酷いことになるだろうが、誰だって納得してくれる。 あれを倒すなんて無理に決まっていると――』


『――負け犬が喋るな』


 レッドを止める必死な立花の言葉を彼は切って捨てる。

 その言葉に立花は二の句が告げられず、何を言っているといった顔でレッドを見た。


『戦いの土俵に立とうともしない敗北者風情が意見するな。 逃げたいなら勝手に逃げているといい』


『なら勝てるとでも? そんなに傷だらけで、それでも勝てると!?』


『無論、勝つ』


 折角気分が最高潮に至っているのだ。

 この気分のまま戦いたいし、余計な水差しを受けたくもない。ましてや、最初から戦うことを放棄している連中の言葉に意味などある筈もない。

 彼等は最初から戦いを放棄したのだ。今此処で戦いを選択したのも鳴滝だけで、彼女のような正義感を彼等は持っていない。

 それが悪いとは言わないが、外野となった以上は見てることしか出来ないのである。

 無関係な者の声に価値は無く、どれだけ騒いだところで実になるような話も無いだろう。外野は外野らしく黙っているのが賢明であり、空我を用いた必死の静止など単に邪魔なだけだ。


『勝たねばならない。 ――それが嘗ての約束なのだから』


『約束……?』


 レッドの呟きに対し、皆は疑問に思うだけ。

 誰と交わしたのか、どのようなものを約束したのか、知っているのは恐らく彼だけだ。その本人も空我の壁を軽々と飛び越え、海へと再度落ちた。

 炎を噴出させ、血が出るのも構わずに戦場に舞い戻る。

 他の面々も彼が来るのは承知済みだ。意識して顔を向けることもせず、この場で唯一驚愕を貼り付けていたのは蓮司のみ。


「レッドさん! 大丈夫なんですか!!」


『気にするな。 お前は時間稼ぎに励め。 ……フロー』


 何時の間にか近くに寄っていた彼女と目線を合わす。

 深く繋がった思考同士が情報を高速でやり取りし、舞台の始まりを告げてくる。彼女もレッドの言葉に頷くだけを返し、目前に迫った槍を氷の壁で遮断した。

 フィナーレは華々しくなければならない。

 圧倒的な強者に、絶望に全身を浸からせる観客。如何にヴェルサスが奮起したとしても覆すことが困難な状況は、予め裏側を知っていれば如何にもな状況だ。

 先程わざと漏らした言葉も後々の伏線として残し、彼は腕に巻いていた機械に目を移す。


『制限時間は五分。 カウントゼロになったと同時に強制終了するから気を付けて』


『OK。 そんじゃま、やりますか』


 パーカーの袖が破れたお蔭で両腕の機械は露出している。

 赤い金属質な小手には複雑な紋様が浮かび、その一本一本に澪が特殊な細工を施した。

 エネルギー伝達速度、パーカー冷却速度、処理用メモリに緊急遮断システム。

 そう、彼の付けている小手は増設アイテムだ。既存のパーカーに更なる負荷を掛ける際、必ずスペック不足が起きると澪は判断していた。

 それらを一挙に解決するのが彼の小手であり、思考制御で電源を入れた瞬間にノイズの走っているマスクには警告の二文字が浮かぶ。

 

――警告、警告。本装備を使用するには専用の装備が必要になります。

――また、本装備使用後は全電力が喪失され、再充電されるまで完全にシャットダウンされます。

――本装備使用時、AWSの冷却システムが五十%を下回る場合は強制的に終了されます。

――確認中、確認中……現在冷却システムは六十二%を維持。

――エネルギーライン維持率七十八%。 現在維持率をキープしてください。


 次々に流れる情報を右から左に受け流し、ついに小手が起動する。

 内部の水冷及びファンが高速で動き回り、機械から小規模なチューブが排出される。出て来たチューブはパーカーに接続され、循環を加速させていく。

 それに合わせ、レッドは指を一度鳴らした。ボロボロの手袋でも火花は立ち、火種を風が大きくさせていく。

 急速に、爆発的に、災害にも等しいサイズにまで炎は拡大を進めて止まらない。

 

 海の上にも関わらず、風が構築した通路を巡って火はレッドの周りに円を描く。

 

「全メンバーに告ぐ! 総員退避せよ! ――これより赤が来訪する!!」


 赤という単語にメンバー全員は顔色を変えた。

 アントとイブは即座に陸地に下がり、楓は反応に遅れた蓮司と鳴滝の空我を掴んで陸に投げる。

 飛ばされた蓮司は驚きに声も出ず、何が起きているのかと思いながら地面に叩き付けられた。金属の擦れる音を聞きながら立ち上がり、少し遅れて空我が鈍い音を立てて蓮司の横に転がる。

 

 鳴滝の空我は酷い有様だった。左腕は根本から千切れ、足の関節には細かい槍が数本突き刺さっている。右腕も機能不全を起こす寸前であり、持っていた刃は大部分が欠けて折れそうになっていた。

 胴体部にも刺さった痕跡が見受けられ、鳴滝は何が起きたのかを確かめる為に機体を操作してカメラを海に向ける。


『――――』


 そして、絶句した。

 海上に居るのはレッドのみ。フローは陸地に近い海に居て、完全に一人となっている。

 問題なのは、彼の周囲に円形の炎の壁が出来ていることだろう。

 円柱の壁は直ぐに分裂して四方向に同様の壁を構築する。中央に立つレッドの身体は全て炎に包まれ、その色は青く染まっていた。

 パーカーは普段の紺色から赤色へと変貌し、纏う炎の質がこれまでと違うことを示す。

 空我の温度センサーは直ぐにレッドの纏う炎の温度を調べた。――だがその結果は、計測不能の四文字。


 何万度もの熱を測定出来る空我のセンサーでも計測不能を叩き出し、炎は更なる拡大を見せる。

 やがて炎は火柱となって天に伸び、海水は全て蒸発して消えていく。

 浮かび上がる魚の死体。近くにいるだけで炭へと変じていく様に、その異常性が嫌でも伝わった。


「フローさんッ、何が起きてるんですか!」


 蓮司が必死に遠くのフローに語り掛ける。彼女は一度振り返り、しかし何も答えずに再度前に向き直る。

 答えは聞かせてもらえない。そのことに漠然とした不安を覚えたが、アントが蓮司の肩を軽く叩いた。


「あれは人類の記憶の一つ。 無意識領域内に存在する人類史の火をそのまま表に引き出しているんだ」


 アントの説明は漠然とし過ぎている。

 それが何を指し示しているのかはメンバー以外の誰にも解らず、この中で一番無意識領域に詳しいだろうイブがアントの脛を軽く蹴った。

 

「阿呆、説明が下手過ぎるぞ」

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