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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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異種・化け物退治の専門家

 憤怒を抱く――が、それで彼等に同情しては駄目だ。

 ヴェルサスは格上であり、誰かを手助けする場合は相応の利益が約束されている場合でなければならない。

 ただ情に動かされただけでは、ヴェルサスは感情一つで容易く立場を揺らがす不安定な組織として認知を受けてしまう。

 更に言えば、それで今後の予定を変えるのも無しだ。澪が慎重であることを強調している以上、不必要な行動は慎むべきである。


『お前達の事情はどうでもいい。 死ぬなら、せめて壁になって死ね。 此方の邪魔だけはするな』


『……勿論です。 私達に出来ることは、少しでも抗うことなので』


 彼女も同情されるとまでは思っていなかったのか、激昂せずに淡々と言葉を返す。

 他の空我の中にはライフルを持つ手を動かしかけていたが、それを隣に居る別の空我が腕で止めている。

 レッドの発言が彼等の神経を逆撫でするようなものであるのは確かだ。

 だが、彼等は自分達の明日の為に無理を重ねることを選んだ。この戦場に居る以上、それは大人も子供も関係無しに責任を背負うことと同義。

 鳴滝とて、何も知らぬ子供ではない。自分の発言が誰かを死に追いやることを理解しつつも、社会的抹殺から逃れぬ為に戦わねばならないのだ。


 レッドは背を向け、炎を噴射して空に飛ぶ。

 お互いの意見は共有された。違う組織である以上、後は各々で行動するだけだ。

 自衛隊には自衛隊の都合があって、ヴェルサスにはヴェルサスの都合がある。

 氷の足場の上にレッドが着地すると、メンバーの全員が傍に集まった。フローの手には携帯が握られ、先程まで通話をしていたのか受話器の降りた赤い絵が見える。

 

「もう間もなく少年も来る。 ……到達した頃にはコイツも動けるだろうな」


『そうか。 なら、その前に全員で最大攻撃の準備をしろ。 それで終わるとも思えないが、ダメージを与えられる内に与えるぞ』


『了解』


 後方に居る空我達も各々が武器を構えている。

 あちらも氷結が解除されるのを待って一斉に攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。未だ遠いとはいえ、長距離攻撃でならば動かない的を撃ち抜くのは然程難しくは無い。

 メンバー全員の内、楓とイブは二人で後方に下がる。

 両名の力は大き過ぎる的を破壊するには適さない。逆転と肉体強化はどちらも今の人類では太刀打ちできない脅威ではあるが、βの基礎スペックでなら力技で突破するのも可能だ。


 だから、範囲技を使える三名。レッド、フロー、そしてアントが現状の最大火力を放つ。

 レッドは全身が炎を吹き上がらせる。思考制御によって舞う風は効率的に炎に酸素を送り込み、激しい燃焼を引き起こさせた。

 数秒も掛からずに人間大の火球が生み出され、更に火球は無数の火と酸素を吸収して巨大化を続ける。

 僅か一分で街程度なら全て焼却させることが出来る火球を風の力で支え、横目で二人の様子を伺う。


「やっと試せるな……」


 フローの呟きには多大なる歓喜が宿っていた。

 周囲には極寒の風が吹き荒れ、無数の水分子が氷結している。漂う分子達は凍ることで繋がり合い、巨大な杭を構築していく。

 細く鋭く、透明度の高い杭はさながらクリスタルで出来ているかのよう。

 生成された数はおよそ二十。日本という国に致命傷を与えるには十分のサイズを作り出し、それを空中に固定させる。

 風で支えるのではなく、細く強靭な氷の糸が支えているのだ。この芸当が出来るのはフローだけで、他が試そうとすれば杭の生成時点で失敗するだろう。


「ふぅ、失敗しないようにしなくちゃな」


 二人のスムーズな発動準備を見つつ、アントは息を吐きながら内部の機構を動かす。

 プログラム通りに彼の眼前に一本の武器が柄から出現していく。

 物質の変換や構築はモザンの専門だが、他に出来ない訳ではない。しかし彼の場合は作れる物が酷く限定され――――刃先まで揃った武器は剣の形をとる。

 アントが作れるのは全て剣だけだ。澪による強固な制限の所為で自由に他の武器を作れず、そもそもの設定によってアントは解こうとも思わない。

 

 だが、剣を作れることは別に超能力と定義されていない。

 本命は剣そのもの。そこに付与された設定と、彼自身に与えられた設定に超能力が関わっている。

 生成終了直後の剣を両手で掴み、その剣を頭上に掲げた。

 刹那、刀身が黄金の剣からは極光が溢れ出し、周囲を金色に染め上げる。時間が経過すればする程に黄金の輝きは周囲に広がり、天を目指して光が伸びた。

 

「収束……収束……収束……」


 目を閉じて呟きつつ、演算をフルに活用して剣を操縦する。

 剣内部に注ぐエネルギーはアント自身の電力だ。手を経由して剣に流れていき、エネルギーが溢れてしまわないように意識して収束していく。

 とはいえ、完全に放出を防ぐのは難しい。注いだエネルギーが僅かに漏れ、それが黄金の輝きを反射して周囲に光を放っているように見えるのだ。

 アントの立つ姿と合わさり、それはさながら一人の騎士を思わせる。


『おいおい……なんだありゃ』


 三人の必殺の一撃が作り上げられる様を見て、土方が震える声で本音を零す。

 三方向に出来上がる力の塊は、最早核兵器を想起させる程に強大だ。畏怖や恐れを抱くことは止められず、それだけヴェルサスが全力であることを示している。

 ふと、彼等は自分の武器に目を落す。

 鉄の塊達は強い。その一撃は人間を容易く数人は肉塊に変えることが出来るだろう。

 純粋な人同士での戦争なら空我は多大な戦果を上げ、護国を守る勇者として褒め称えられる。――だが、怪獣を倒すにはあまりにも頼りない。

 

 壁になれとレッドは言った。

 それは言われた直後でも意味を解っていたが、三人の攻撃方法を見れば余計にその意味を強く理解させられる。

 あれだけしなければβに傷を付けることが出来ないなら、空我の攻撃は悉く無意味なものに成り果てるだろう。

 

『俺達、怪獣を倒してきたんだよな……?』


『私達が倒してきたのは子供ばかりです。 それも、比較的倒し易い部類の怪獣だったんでしょう。 ……本当の戦いなんて、実際は一度もしてこなかったんですよ』


『なんだよ、なんだよそれ……。 じゃあ俺達の訓練は一体なんなんだッ』 


 通信越しに壁を殴る立花の音を聞きつつ、鳴滝はそっと息を吐く。

 解っていたことでも、それでも認めたくないのが人間だ。空我と超能力者の間には努力だけでは埋められないものが存在していて、それは科学力で解決出来る内容ではない。

 もっと根本的な部分で、彼等はヴェルサスに負けているのだ。

 それを人は才能と呼ぶかもしれないし、素質と呼ぶかもしれない。

 誰にも理解されない領域に立つには、心の在り様だけでは足りていないのである。努力すれば全員が笑える世界は何処にも無く、だから彼等は永遠の敗北者なのだ。


「よっと到着――うわ、なんだあれ」


 そんな彼等の上空にFMCを纏った蓮司が姿を見せる。

 以前よりも数の増した空我に、明らかに危険と解る巨大な火球や氷柱。黄金の輝きについては解らないが、他のヴェルサスのメンバーだろうと推測して地面に降りる。

 彼は意気消沈しているパイロット達を無視して、他から離れた位置に居る見覚えのある少女に近付いた。


「あの、イブさんですよね?」


「ん? ……ああ、小僧か。 この姿で会うのは初だな」


 腕を組みながら無表情の顔でイブは蓮司に答える。

 覚えていてくれたかと彼は内心で安堵しつつ、隣で鋭くβを見つめる女性に声を掛けた。


「初めまして、日本でレッドさんのお世話になっている早乙女・蓮司と言います」


「私は医療担当の楓です。 直ぐに戦闘が再開されますので、急いで用意を済ませなさい」


「え? ――解りました」


 鋭い声に蓮司は一瞬呆けた。だが、氷の砕ける音を拾った瞬間にFMCを操作する。

 氷のオブジェの表面が剥がれ、その内側の黒が暴れ出した。

 全身に巡っている氷を何とか砕き、その内にある頭部が露出。再度現れた頭蓋骨は、迷わずレッド達に顔を向ける。

 

『今だッ』


 瞬間、レッドが咆えたと同時に三つの力がβに迫った。

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