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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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異種・敗北者の群れ

『ねーんねーんころーりよー。 おこーろーりよー。 ぼーやはーよいこだー。 ねんねしなー 』


 同じフレーズが何度も何度も、それしか知らないかの如くに近海に響き渡る。

 未だ日本にβは到着しておらず、後半日は安穏とした日々を過ごせることだろう。

 だが、これが日本に届いている限り安穏など出来よう筈も無い。意味不明な不安感は時間経過と共に増していき、僅か数時間後には発狂者で日本は溢れかえるだろう。

 諸外国も突如現れた超巨大怪獣に緊急警戒を宣言。

 様々な国で軍隊が動き出す中、自衛隊は訓練中の者も含めた全ての空我を出撃させた。


 追加パックは既に数分用意されている。

 十五機に増えた機体の内の七機は空戦パックで先行し、五機の砲戦パックは残り三機の近接パックと共にヘリで運ばれていた。

 練度は十分ではないとはいえ、今は誰も文句を口にしない。基地からの発進直後から見える巨大な塊を目にして、自分達は本当に勝てるのかと自問自答を繰り返す。

 既に実績がある三人もそれは変わらない。いや、寧ろ空我の性能を知っているが故に敗北濃厚な現状を何とか口に出すまいとしていた。


 今ならばゴブリンの言葉が解る。

 あれは違う。住む世界が異なると言うべきか、強さの次元が数段上なのだ。遥か彼方から日本を見つめる眼光は相変わらず感情が読めず、なのに人語を操って古い歌を口ずさんでいる。

 異質で、焦燥を抱くのは避けられない。

 それでも彼等は怪獣を倒した者だ。他の訓練生と同様の立ち位置には居られず、他の面々を率いねばならない。

 鳴滝とて今や近接組の隊長だ。適合者が少ないが為に僅か三機の編成となってしまったが、彼女自身はこれで良いと思っている。


『残り六十秒で切り離しを行う。 空戦パックは目標到達と同時に着陸せよ』


 指揮官の声も今は硬い。

 今回は海と陸の瀬戸際で敵を迎え撃ち、大量の火力で強引に敵を破壊する。矢部博士からの予測で敵の急所は頭部と判断され、そこを一点集中で攻める形だ。

 当たり前だが、砲戦パックには今回徹甲弾以外の弾は無い。他の弾薬を全て降ろし、空いた箇所に追加で徹甲弾を乗せている。

 全て撃てれば二倍の火力を出せることになるが、当然その保証はない。相手側の攻撃次第によっては一瞬で前線は崩壊するだろう。

 

 どんどんと近付いていき、全機が着陸を果たす。

 一部は不安が残る降り方をしたものの、破損が無ければ今回は成功だ。彼等は一斉にレーダーを確認し、先ずは周辺に怪しい影が他に無いかを確認。

 この状況で追加で怪獣が現れれば最悪だ。二手に別れた時点で敗北は最早必至となり、自衛隊はその戦力の大半を喪失することになる。

 だが、レーダーが拾ったのは別の反応だ。人型大の光点が数人確認され、それはβの周囲に存在している。


 その光点が何を指すかなど、自衛隊の面々が解らぬ筈がない。

 突然敵の周りに水柱が噴き出し、その先から黒いパーカーを身に纏った男が出現。更に次々と戦場には不似合いの恰好の者達が姿を晒し、その全員に大小の差はあれど傷が刻まれている。

 服の一部は大きく裂け、肌には裂傷。何処かに身体を打ち付けたのか、口の端には血を吐き出した痕跡もある。

 未だ全員健在とはいえ、これまで彼等に目立った外傷は存在しなかった。最大でもパーカーが汚れるくらいで、その身体に目立つ傷は無かったのである。


『ヴェルサスッ!!』


 土方の獣の如き声に、レッドは顔だけをそちらに向ける。

 しかし、相手はその隙を許さない。同じフレーズを口にしながら、全身の肌と思わしき場所から黒い棒を無数に生やす。

 急速に迫るそれらを全員が各々の方法で避けるが、棒は途中から五本に枝分かれして別々の方向から襲い掛かる。

 生成に掛かる時間から考えても、その増え方はあまりにも速い。正面から攻撃を受けずに側面を殴ってレッドは棒を折るが、その拳からは血が滴り落ちている。


『フロー! 楓! 動きを止められるか!?』


「足が止まれば一先ずは出来る! ――楓!」


「了解! ッハァ!!」


 このまま日本に上陸させる訳にはいかない。

 歩く怪物の足を止める為、レッドは予定通りに二人に頼む。それを聞いた二名も即座に応じ、楓は空気を蹴るという離れ業で一瞬でβの足元に接近。

 彼女は白衣の内側から白い布を取り出し、それを投擲。真っ直ぐに伸びる布はβの足に巻かれ、彼女は渾身の力で日本とは正反対の向きに引っ張る。

 人間が一人全力で引っ張ったところでβの動きが止まる筈がない。だが、足を前に出そうとしてβは自分が進めぬことに気付いた。


「全力全開!」


 馬鹿げた話だが、彼女の全力の行動はβの足を止めているのだ。

 布は限界まで伸びているものの破れず、どれだけβが足を前に出そうと力を入れても一瞬たりとて動かない。 

 これこそが楓が澪より授けられた力。超能力として表現すべきかはさておき、自身のボディに過剰な負荷を掛けながら彼女は自分の筋力を自由に操作できる。

 派手さは無いものの、その力はβの行進を止められる程。足場はフローが作った氷で作られ、完全に彼女一人で静止させている。


 しかし、これでは足りない。

 足が止められた程度で時間稼ぎにもなりはしないのは皆が解っている。その上で更に時間稼ぎをしたいならと、フローはやっと完成したパーカーをいきなり半分程の出力で稼働させた。

 風を用いて海水を運び、βの足から一気に氷結させていく。

 時間は掛けられぬと高い出力で放たれた故か、周りの海水すらも完全に凍結させて頭の先まで氷で覆い尽くした。

 一つの氷塊になった後、巻き込まれた楓は氷を拳で砕いて脱出。

 

「これで十分は稼げるぞ。 どうする?」


『少し後方に下がる。 何かあったら教えてくれ』


「あれらと話すのか? ……意味は無いと思うが」


『現状の説明をするだけだ』


 何処で何を聞かれているかも解らぬ状況で普段通りに話すことは出来ない。

 二人は演技をしながら別れ、レッドは炎で身体を乾かしながら空我達の前に着地する。

 先程までの戦いに空我の面々は唖然としていたが、突然近寄ったレッドに対して立花達三人を除いたパイロットは慌ててライフルを向けた。


『止めろ! 全員銃を向けるな!』


 だが土方の声に、パイロットは戸惑いながらも銃を降ろす。

 この状況でヴェルサスと争うつもりは無い。指揮所の面々も今の所はそれを考えておらず、土方の静止の声に指揮官は安堵を抱く。

 しかしその安堵も一瞬。レッドの緊迫を孕んだ声に、全ての者は息を呑む。


『そちらの戦力はこれで全てか』


『……ああ、そうだ。 パイロットも殆どが訓練課程を済ませていない』


『素人ばかりなら逃げろ。 ――死ぬぞ』


 そこには余裕は無い。

 そこには確信だけが宿っている。戦士として、最も怪獣に精通した組織の長の一人として、彼は無情な真実だけを正直に告げた。

 何の準備もしていない集団が挑んだ所で敗北は避けられない。仮に一時的に好転したとして、それも直ぐに覆されるだろう。

 今回の戦いはヴェルサスに任せるべきである。自衛隊は素直に市民の避難を優先させ、嵐が過ぎるのを鉄の箱の中で震えて待つ方が良い。


『申し訳ございません。 それは出来ないんです』


 レッドなりのせめてもの言葉を、しかし鳴滝は断った。

 

『私達が此処で撤退したら、この部隊に居る人達は全員路頭に迷うことになるんです。 ……本当は、失敗しても責任を擦り付けられる為だけの部隊でしたから』


『鳴滝、それは今言うべきことではないぞ』


『今だからこそです。 死ぬと言われても退けぬなら、最後に何か残しても構わないでしょう』


 少女の言葉に皆が押し黙る。

 忘れてはならない。この戦いは、総じて此処だけで終わるものではないのだ。

 如何な怪獣が相手でも彼等は勝たねばならない。そうでなければ存在意義を失い、皆が明日をも知れぬ生活を送ることになる。

 鳴滝がレッドに言ったのは、まだ自分には帰れる所があるからだ。保護してもらえる居場所があるからこそ、せめて面と向かい合うべきは己であらねばならない。


 レッドの内に居る彩斗は少女の言葉に暫し思考する。

 世の中は総じて無情だ。温情の隙間は極小で、それを甘受出来る人間は最早上層にしか居ない。

 普通の人間は苦労しながら金を稼ぎ、少ない身銭を切って暮らすのだ。

 本当に幸せにならねばならないのは彼等なのに、世界は容易く彼等を切り捨てる。その事実に――久方振りの憤怒を抱いた。

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