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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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異種・子守歌

 ――真木・陽子にとって、今の学校は居心地の良いものではなかった。

 表面上は彼女に敵対する者は居らず、相変わらず彼女の近くには美貌と権力に擦り寄る男達が居る。

 彼等の悪行について真木は理解しているが、かといってそれを止めることはしない。所詮は学校での一騒動であり、不都合があれば切り捨てるだけだからだ。

 彼女は未だ女王のままで、やはり会社自体が倒産しない限り影響力は変化しないのである。

 

 だが、そんな彼女でも迂闊に手を出せない人間が居る。いいや、正確に言えば出来てしまったというのが正しい。

 今やこの学校で知らぬ者は居ない唯一の男。妹の為にヴェルサスに挑み、そしてヴェルサスの面々に認められてメンバー入りした早乙女・蓮司。

 これまでは振るえた暴力や罵倒も、ヴェルサスの後ろ盾を得た彼では行えない。

 本人は学校の事に彼等が介入することはないと公言しているが、それでも他の生徒を含めて恐縮するのだ。


 世界初の本物の超能力集団。怪獣討伐屋。人類の超越者。

 彼等を評する言葉は多岐に渡る。そして、その悉くが全て正確だ。少し前であれば怪獣を倒せるのは彼等だけで、人々はその圧倒的な力に脅威と興奮を覚えながら頼るしかなかった。

 彼等が比較的拒絶されずに受け入れられたのは、基本的に何も求めはしなかったからだ。

 金銭も、現物も、それこそ権力すらも求めずに純粋に怪獣だけを倒して去る。

 その姿に人は英雄を見て、ヒーロー誕生だと騒ぐのだ。その勢いはヴェルサスを否定する者達を押し流し、世間の色を一度染め直している。


「……そろそろ、良いかもね」


 一度は彼女もその力に縋った。

 父親に言われ、豊かな自分の暮らしを維持する為に蓮司と話をしたのだ。一対一であったのは彼女なりの誠実故だが、結果的にそれは全て無駄に終わった。

 だが、無駄に終わって良かったと彼女は思う。

 それ以降に自衛隊は新たな兵器を作り上げ、兵器開発に投資をした者に優先的に空我を派遣してくれた。

 派遣の間に怪獣撃破の情報も流れ、空我の信頼性は飛躍的に向上。未だトラブルらしいトラブルも無いロボットは安定性が高いと良い評価を貰い、護衛をしてもらったお蔭で会社が潰れることもなくなった。


 寧ろ空我が派遣されたことで仕事も多く舞い込み、通常時の倍の量をこなさねばならないと彼女の父親はあちらこちらを奔走していたのだ。

 株価も上昇し、勢いに乗っているのは明瞭。このまま怪獣を倒して倒して倒し続ければ、それに比例する形で会社の業績も伸びる。

 つまり、彼女の生活もより恵まれたものになるということだ。

 最近ではヴェルサスの軽視も増え始め、そろそろ彼女は仕返しをしても良いのではないかと考えている。


「何がだ?」


「調子に乗っているアイツに灸を据えてやろうって話。 ずっとアイツの天下にさせるのも癪でしょ?」


「……そいつは良いな」


 隣に座る男――岩倉は厭らしさを前面に押し出した笑みを浮かべる。

 蓮司はまったくと興味を持ってはいないが、彼は多数の女子生徒から好意的な視線を向けられている。

 恋文を下駄箱に入れられた回数も多く、なんなら放課後に呼ばれることもあった。

 優秀な男を女が好くのは当然だ。自分を守ってくれそうで、生活も安泰にしてくれる相手と一緒になりたくないと考える女性は少ないだろう。

 性格も極端に悪い訳ではない。モザンと話す彼の顔は酷く穏やかで、学校では見せない表情に心を撃ち抜かれた者も居る。

 

 ただ一つにして最大の問題だったのが、彼と同じ学校に在籍していることだ。

 見知った者も見知らぬ者も、先輩も後輩も、大人も子供も総じてこの学校に所属している限りは彼は相手をすることはない。

 告白は手早く断られ、例え彼の境遇を知っていても男子達は嫉妬せざるをえなかった。

 本人はそう思っていなくとも、今の彼は勢いに乗っている。

 それは同時に周りから反感を買い易い環境を構築することになるが、今の彼なら学生全員を相手にしても負けることはない。


「なら何処か適当な場所に呼びつけて全員でやるか?」


「それだと何時もと変わらないでしょ。 やるなら徹底的によ」


「んじゃ、やっぱあいつの妹を使うか。 そっちの方で地獄を見せればあいつも色々折れるだろうよ」


「それも二番煎じだけど、まぁ初回でするなら簡単な方が良いわね。 それじゃあ早速連絡を――」


 自身のピンクの携帯を持って番号を呼び出す瞬間、教室にけたたましい音が鳴った。

 それは学校の避難警報ではない。それは市役所が設置した公共のスピーカーから流れる警報ではない。

 ましてや皆が普段から使う携帯に使われる緊急避難警報でもない。

 甲高く、遠くの場所にまで届く大音量は反射的に耳を塞ぎたくなるようなものだ。否応無しに不安を駆り立てられる音の正体を皆が探すと、席に座っていた蓮司が跳ねるように立つ。

 その手には鳴りっぱなしの携帯が一つ。

 何度操作しても消えることのない警報は、仕事用の物から常時垂れ流し状態だ。


「――避難だ。 全員、何時も通り避難場所に籠ってろ」


 立ち上がった蓮司は普段とは異なる表情をしている。

 これまで、怪獣が登場しても蓮司の表情は堅いだけだった。そこには緊張と闘争心と僅かな不安が混ざった複雑なものが浮かんでいて、戦士としての顔をしながら自身に与えられた職務を熟していた。

 それが今は違う。歯を軋ませ、手は携帯を潰さんとばかりに握られ、顔面の血色は異様に悪い。


 流れる汗は季節外れ。闘争心はあまり感じられず、割合で言えば恐怖の方が多くを占めている。

 そんな顔をするのはこれまで無かった。蓮司はそのまま携帯を操作してSNSに文章を書いたり画像を添付していくが、その指は僅かに震えている。

 何か尋常ではない出来事が起きていると判断するには十分。

 これまでの怪獣騒動とは異なる気配に、全員の心が不安に鷲掴みされる。それでも真木を始めとした心の強い人間は一番に避難を開始した。


 仕切られるのは癪だが、現状において真木が出来ることは一切無い。

 文句を垂れているよりも避難し、空我が暴れられる環境を用意するのが最善の手だ。

 その過程で何人死のうとも彼女は気にしないし、取り巻き達も気にせずに自分の生だけを優先する。


 だからいの一番に校舎を出て、彼女はソレを見てしまった。


「なにあれ……山、じゃないわよね」


 大きく、言葉にするのも難しい程に巨大な塊。

 辛うじて人型のようにも見える物体は、その髑髏に宿る目を日本に向けている。

 まだ日本からは遠いのだろう。遠くから富士山を見ているような距離感だが、つまりあの物体は富士山と同等の大きさを持っていることになる。

 そんな怪物がこれまで居ただろうか。――いいや、居ない。

 彼女は直ぐに蓮司の顔を思い出した。あれほど恐怖の割合が大きい顔は嘗ての虐め時代以外では見たことがなく、それだけ敵が強いことを示している。


 ヴェルサスに所属していても怖がる強さ。

 それは一体どれほどの脅威なのか。想像することも出来ない彼女は、ただ目を見開いて怪物を見つめ続けることしか出来ない。

 故に、彼女は怪物が骨を軋ませながら口を開ける様を見ることが出来た。

 

『ねーんねーんころーりよー。 おこーろーりよー。 ぼーやはーよいこだー。 ねんねしなー』


 口から紡がれる声は、老人のしわがれたものと少女のもの。

 二つが重なった声は不協和音として遠くの土地にまで広がり、聞く者の胸に訳の分からぬ異常な不安感を芽生えさせる。

 早く逃げねばならない。早く隠れなければならない。

 この声が聞こえない場所へ。あの怪物が見えない場所へ。

 そうしなければ殺される。呆気無くも無残に、自分の生を否定されるのだ。

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