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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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心無い者の残酷な決断

 夜景を一望できるとある高級料理店は、政府要人や大企業の重役が頻繁に活用する有名な場所である。

 一本数十万のワインや料理の数々。煌びやかな部屋やスタッフの質等々が全て高水準に纏まり、個室も複数用意されている。

 此処で話された内容は盗み聞いても外に漏らすのは許されない。もしも漏洩させた事が知られた場合、そのスタッフの明日は無いとされている。

 用意された個室の中には既に二人の影があった。


 軍装とは異なり、スーツに身を包んだ指揮官。そしてブレザーを着て落ち着かない様子で辺りを見回す鳴滝。

 予約した側である指揮官は落ち着いているものの、彼女はこのような場に来たことはない。彼女の行った高級な店といえば回らない寿司屋で、それでも一般の人々が近くに居たお蔭で落ち着くまで時間は然程掛からなかった。

 

「……まだ抑える必要はないが、本人が来たら見回す事は止めておけ」


「は、はい。 ……すみません、自分で行きたいと言ったのに」


「ま、何事も初めては緊張するものだ。 仕事の時間でもない限り口五月蠅くは言わんよ。 これも経験になるだろうしな」


 苦笑する男の声に、鳴滝は少し頬を染めながらも謝罪する。

 その間も約束の時間は迫り、ついに十分前となった段階で彼等の居る個室に向かう二つの足音が聞こえてきた。

 片方は案内役のスタッフのものだろう。そしてもう片方は相手方だ。

 扉の前でノックされ、指揮官が応じると静かに扉が開かれる。基本的にこのような場では正装が欠かせないものだが、スタッフの表情は酷く無機質なものだ。

 まるで何かを必死に抑えているように見えて二人は疑問符を浮かべるが――――直ぐにその正体を自身の目で見ることになる。


 夜を想起する漆黒のドレス。装飾の類は一切存在せず、ノースリーブの姿は人を選ぶ物だろう。

 露出した腕は白く、人形のようにシミ一つ無い。そして彼女の顔が装飾の類を一切必要としない理由だった。

 一言で表現するなら女神。人間には見えない整い過ぎた顔は髪色と瞳の色の違和を無くし、物語から抜け出したような強烈な美を感じさせる。

 彼女は二人の前で静かに微笑むが、その一つだけでも異性を魅了するには十分だ。思わず指揮官は目を見張り、鳴滝は少しの間見惚れる。

 

 その間にスタッフは退室し、女性は指揮官の対面の席に着いた。


「驚かれるのは慣れているが、仕事相手にその姿を晒すのはよろしくないぞ?」


「……失礼。 まさか貴方のような美しい方が来るとは想像しておりませんでした」


「傷だらけの醜い女が来ると思ったか?」


 楽し気な声で発する言葉に、指揮官は内心で頷いた。

 怪獣との戦いは常に危険が付き纏う。顔に傷があるとまでは思わずとも、身体のそこかしこに傷が刻まれていると指揮官は密かに思っていた。

 

「冗談だ。 改めて、ヴェルサスのトップが一人であるフローだ。 理性的な人間が特務機動部隊の指揮官をしているようで、此方としては有難い」


「渡辺・啓介と申します。 隣に居るのは空我パイロットの一人である鳴滝・花蓮です」


「よ、よろしくお願いします」


「緊張する必要は無いぞ。 最終的には敵になる組織だ」


 フローは本当に何気無く放った言葉だが、それを聞いた二人の内心は尋常ではない。

 一目見て普通ではないのは気付いた。ヴェルサスのトップに君臨するのであれば、純粋な能力も恐らくずば抜けて高い。仮に彼女の持つ超能力も強力であれば、敵対するなどまったく考えられないだろう。

 媚び諂うことになろうとも、生き残るには友好的な関係を築くのだ。格下だと侮られても文句を言えはしない。

 絶対強者とは彼女のような存在を指す。権力も財力も関係無い純粋な力とは、これほどまでに恐ろしいのかと内心戦々恐々だ。


「我々としては敵対の未来など選びたくはありません。 出来ることなら友好的でありたいのです」


「それはお前達の意見ではないか? 政府の意見とはとても思えないが」


「……確かに、これは特務機動部隊の総意です。 実際にその力を間近で見た者だけが、ヴェルサスと協力関係を結びたいと考えております」


 力の差は歴然。

 特務機動部隊は最初から白旗を掲げ、犬で言えば腹を見せているも同然である。

 しかし、それはやはりどこまでも彼等の言葉でしかない。政府全体がそのような意見を持っている訳ではなく、今も排除に乗り出しているのは明白。

 言ってしまえば、指揮官の言葉には力が無い。権力が付随せず、多数の協力も無く、ただ言葉を尽くしているだけだ。

 如何に心優しい人間でも、ただの言葉だけで納得を示すことは出来ない。そう思うには現代はあまりにも汚れ過ぎている。

 清廉だけでは社会は生きれない。美徳のみでは組織を運営出来ず、邪魔だと思った人物や組織を排除せずにはいられないのだ。


「では話にならんな。 その程度の言葉で我々が動くことはない。 ――そういえば、我がメンバーの一人が政府の人間に手荒な真似をされたそうだ。 既にメンバーからの要請で国家防衛リストからの排除が検討されている」


「……ッッ、」


 政府の人間は空我のスペックを詳しくは知らない。

 彼等が求めているのは結果のみで、その結果が出ているなら何も問題は無いと次の工程に進み始めたのだろう。

 現時点でヴェルサスのメンバーに手を出せるのは早乙女兄妹。

 その内、明確に力が無いのは妹である早乙女・奈々。彼女に対して政府が強引な手に出たというなら、ヴェルサスは相応の判断を下す。

 国家防衛リストから日本の名前が消えた時、予想されるシナリオは最悪の一言だ。

 国内だけに留まらず、諸外国にまで影響は広がるだろう。


「我々はこれを是とするつもりだ。 日本が我々を不要としているのだから、引き上げるのは当然だろう?」


「待っていただきたい。 その件について私は存じ上げませんが、手を出したのは恐らく政府内の派閥のどれかです。 ……決して、政府全体が排除に動き出した訳では――」


「――関係無いのだよ、そんなことは」


 部屋の気温が一気に低下する。

 季節は既に冬であるが、空調のお蔭で室内は暖かくなっている筈だ。にも関わらず、二人の身体は僅かに震える。

 それは彼女の冷たき視線もあるだろうが、同時に身体から冷気が流れているからだ。絶対零度に到達しかねない冷気は容赦無く部屋を冷やし、人の生活出来ない空間へと作り変えていく。

 

「我々を不要と言い、その上で技術だけは欲しいと不必要に手を出した。 その事実があるだけで理由としては十分。 私が渡すべきと判断したデータを渡した後、ヴェルサスは日本から抜ける。 ……これは三人居る内の一人であるレッドの言葉でもある」


「……ま、さか」


 歯が音を立てるのも構わず、指揮官は愕然と呟く。

 黒いパーカーに身を包んだその男は、常に炎を携えて無双の力を発揮していた。あれがトップの内の一人であるというなら、成程納得出来るものだ。

 同時に、レッドはその目で日本の対応を見ている。見限るのも当たり前というもので、最初の段階で日本は詰んでいたと理解させられた。

 確かに出現当初であれば怪しむのは必然だ。調査し、最深部に至るまで見聞きし、その上で安全な組織かどうかを判定する必要がある。

 ヴェルサス自体は世界から見て武力組織であるが、その矛を振るう相手は怪獣や手を出す組織だけだ。


 喧嘩を売らねば彼等は基本的に大人しいもので、実際に学校に居る報道陣が重傷を負うような知らせは一切入っていない。

 純粋な協力関係を結べるのであれば、彼等は心から協力を約束してくれる。

 故に、破壊された現在において協力関係を結ぼうとするのは滑稽でしかない。壊れ果てた残骸を集めたとて、元の形になる訳ではないのだから。

 指を弾き、フローは冷気を消す。垂れ流された冷気が消えただけでも気温は一気に上昇し、二人の身体に暖かみが帰ってくる。


「……話が脱線したか。 まぁ、これは雑談だからあまり気にするなよ。 それより、これからについて話をしよう」


「ええ。 ……ええ、そうですね」


 軽い調子で話題を変える彼女に、二人は異常者を見るような眼差しを送った。

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