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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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正道を間違いだと告げられても、悪に走らぬ者はいる

 嘗ての生物の頂点。

 人類の悪意による怪獣の誕生。

 驚きの情報が数々と指揮所に届き、報告を担うオペレーターの声には多分に驚きが含まれている。

 怪獣本人からの言葉だ。嘘だと思うには理由が見当たらないが、かといってそれが真実であると証明する術は存在しない。

 人間、突然の真実を素直に飲み込むことは出来ないものだ。それが敵からの言葉であれば、尚更に信じるのも難しい。


 証拠が揃って初めて、人は協議を行う。

 暴力が犯罪に直結する現代において、話し合いは己の主張を貫く数少ない正当な方法だ。遠回りな解決手段であるが、それだけに妥協が生まれやすい。

 だが、この場面で証拠を揃えろというのは無理な話。

 協議もしている暇は無い。ゴブリンは言うべきことを言い切ったのか、既に拳を前に構えて攻撃の体勢を取っている。

 ――悪意を発露しろ、汚い手段でも何でも使って己を超えてみせろ。

 雰囲気が告げる言葉に、三機のパイロットも緊張を滲ませながら武器を構えた。


『話を何時までもする気はない。 どちらが生き残るか、どちらが滅びるのか、我自身の手で決めさせてもらうぞ』


『くっ……問答無用か!』


『手間が省けるだろ! やるぞ!!』


『…………ッ、!』


 一足飛びで琵琶湖から離れ、ゴブリンは鳴滝の空我に接近する。

 緑の巨人が持つ武器は拳だけだ。無手で戦うスタイルであるが、先程の砲撃を容易く上に打ち上げた時点で武器など不要でしかない。

 このゴブリンに武器は余計だ。その証拠に鳴滝の薙ぎ払いは体躯を屈むだけで避けられ、振り切って硬直した瞬間に片腕を掴まれて投げられる。

 鳴滝は一瞬の浮遊感の後に、衝撃によって背後の壁に叩き付けられた。

 

 機体は水に沈むが、防水処理によって動きに影響が出ることはない。

 ゴブリンは続けて彼女に襲い掛かろうとし、次の瞬間には跳ねる。何も無くなった空間にライフルの弾が通過し、撃った張本人である立花は上空に居るゴブリンに狙いを定めた。

 ゴブリンは琵琶湖の方に顔を向けていた。そのお蔭で背中を晒し、今もその状態だ。

 如何に反射神経に優れていても目視が出来なければ回避のタイミングなど解らない。


『こいつでどうだッ』


 数十の弾が吐き出され、緑の背中目掛けて迫る。

 当たれば御の字だが、しかしゴブリンは跳ねる瞬間に拾った石を振り返りながら投げて弾を撃ち落とす。

 その姿を見た土方は砲に弾を装填。種類は徹甲弾ではなく榴弾を選択。

 発射後直ぐに爆発し、金属の破片がゴブリンに襲い掛かる。それを全て避けるのは難しく、地面に着地する頃には幾つかの破片が突き刺さっていた。

 金属の破片には多大な熱量が込められ、緑の肌は焼け爛れている。重傷と言ってもおかしくないのだが、ゴブリンは気にする素振りも見せずに立花へと一息に接近した。

 

 そこに巨体故の鈍さは無い。

 大きさを無視して俊敏に動き、ライフルの先を向け切る前に銃身を掴まれて引っ張られる。

 その勢いは強く、立花は苦悶の声と共にライフルを手放した。

 離れたライフルはそのまま真っ二つに折られ、そのまま捨てられる。これで立花の武器は小型のマシンガンにナイフが一本。

 空戦用の追加ブースターは既に外している。完全に素の状態の空我となり、少なくとも接近戦だけは不味いとナイフよりもマシンガンを手に取った。


 威力は低いながらも、連射速度はライフルより遥かに高い。

 速力の所為か今度は撃ち落とすことをせずに横に転がって避け、その隙に土方は肩部の機関砲で小規模の弾幕を形成した。

 

『鳴滝! いけるか!!』


『う、……ぐ、い、けますゥ!!』


 画面に表示される鳴滝の身体情報は芳しくない。

 本当ならば気絶しても不思議ではない意識を意志力だけで強引に繋げ、無理矢理身体を動かして機体を立ち上がらせる。

 水中故に動作は緩慢だが、損傷箇所は左腕の破損のみ。関節に罅が走り、同じ箇所を攻撃されればその関節は砕けるだろう。

 剣は未だ右腕が掴んだままだ。運が良いと彼女は内心で思いつつ、全身に巡る激痛を無視して二本の足で立つ。


『相手の動きは早い。 誰かが足止めをしないと致命傷を負わせるのは難しいな』


『なら俺がやる。 砲戦パックは攻撃が目立つからな』


『駄目です。 そちらの方が純火力は上ですから――私が前に出ます』


 誰かが囮をするのならば、フルスペックを発揮出来ない鳴滝が前に出るのは当然だ。

 それが死を招くとしても、怪獣を倒す為であれば非情な決断をせねばならない。

 何事も綺麗事では解決しないと人々が言うように、危機的状況に陥れば人は苦しみながらも残酷な決断を下すことが出来る。

 揺れる視界を酷使して、彼女は一人前を行く。

 立花も土方も止めたいが、代案がある訳ではない。やはり誰かが空我を大破させるつもりで足を止めねばならないのだ。

 

『お前が出るか。 ……無理を通すつもりだな』


『そうすれば全部解決する』


『はっ、己を犠牲にしてか。 下らん話よ――来い 』


 ブースターを吹かし、彼女は突撃する。

 小刻みな動作に留め、なるべくゴブリンから攻撃を受けない剣筋に限定。再度投げられれば今度こそ自分の意識は刈り取られると解っているから、閉じそうになる目を無視して相手の一挙手一投足に全集中する。

 移動させず、攻撃を受けず、時間稼ぎを前提とする動きはゴブリンにとってやり辛いものだ。

 その合間に差し込まれるように立花のマシンガンが入り、徐々にゴブリンの身体に弾痕が刻まれる。

 

 土方は片膝を付いて動きを止めた。

 二機の努力によって出来た隙を正確に射貫く為、砲身も固定して狙いを定める。

 一番距離が離れているが、土方の位置は安全圏ではない。ゴブリンが二機を無視すれば容易く到達されてしまう距離にあるのだ。

 それでもその場で体勢を変えたのは、少しでも拘束時間を短いものにする為。

 ゴブリンの足掻きによって誰かが死ぬのは土方にとって喜ばしいものではなく、時間を掛けたくなかった。


『遅い、弱い。 正面から挑むのは勇敢だが、それだけだ。 お前の技術は拙過ぎる』


『黙れ!』


 空我のそもそもの性能もあるが、彼女は全力を振るえないし振るうつもりもない。

 そして全力を振るっても倒せるとは思えなかった。この中で最も才能を持っているのは彼女だが、元から好き好んでいないので鍛えていないのである。

 やっても全てに手を抜いていて、それでも誰も勝てはしなかった。抜きん出た天性の才は否応なしに彼女を戦士の道に立たせ、怪獣との戦いを余儀なくされている。

 忘れてはならない。彼女は本来、普通の女子高生であったのだ。

 

『私は戦いたくなんてないの! こんなのに乗るなんて考えたこともなくて、降りれるなら直ぐに降りてる!!』


『ならば居なくなれば良いではないか』


『大事な人が人質にされているのよ、出来る訳無いじゃない!』


『何を言う。 真に嫌うのなら、親兄妹など捨ててしまえ。 お前はお前がしたいことのみを追求すれば良い』


『――――ッ、お前!』


 ゴブリンは嫌なことはしたくないと素直に発言する主義なのだろう。

 それが余計な枷によって言えないのなら、彼は捨てる。親も、兄妹も、友も、全てを荷物と断じて。

 非情だ。情け容赦が無いのは、流石は怪獣。

 ならばそんな彼が嫌でも行う程の危機とはどれほどだろうか。指揮所で彼女の悲鳴じみた絶叫を聞いている矢部博士と指揮官は眉を寄せながらも考える。

 

『お前の姿勢は中途半端だ。 振り切れていないから他の養分にされる。 自分の望みを叶えたいのなら、他全てを捨てる程に渇望しろ。 狂気的な願いの渦が、不可能を可能に変える』


『クッソォ!!』


 ゴブリンの立ち回りは見事だ。

 流水の如く変幻自在に動き回り、そもそも掴ませることをしない。かといって攻撃に手を抜くことはせず、一撃一撃は空我の装甲板を凹ませる。

 立花と土方の空我も視界に捉えながら時に鳴滝を盾とし、逆に土方の射線に立花を挟んで牽制もしていた。

 鳴滝の攻撃も荒くなっていき、この分では捕縛を忘れて殲滅に思考をシフトしかねない。

 いや、もう既にシフトしていると考えるべきだと立花は決めた。


『土方。 俺がやるから、決めろよ』


『おう。 出来れば急所をこっちに向けてくれ』


 彼女を無視して事態は変化していく。立花の空我は突撃し始め、スピーカーのボリュームを全開にして狙いを変えてもらう。

 真っ直ぐに進む空我の姿にゴブリンも顔をそちらに向けるが、ほぼ同時に鳴滝も剣を真上に持ち上げながら進んできている。

 その全てを認識して――しかし攻撃は想定外の箇所から放たれた。


 全員の居る場所とは異なる方向。琵琶湖の水が跳ね、極小の粒のような黒い影がゴブリンの背に激突する。

 刹那、その激突が衝撃波を伴いゴブリンに風穴を開けた。

 そのまま粒は近くの建物の屋上に降り立ち、空我のカメラがソレを捉える。


『お前は……』


 目に入るは瑠璃色の装甲。

 何処かの特撮作品から抜け出たような風貌の人物は、空我を気にせずゴブリンに顔を向けていた。

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