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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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第三の怪物は警告者

 奈々が二人と別れてから数日が経過した頃、ヴェルサスのSNSから緊急連絡が市井の間に流れた。

 出現地は琵琶湖。海中から飛び出した怪獣は極めて人型のようでありながら、部分部分は人らしくはない。

 しかし物語をよく見るような者達が見れば、総じて一つの名前を想像するだろう。

 水面で古座を掻き、ぼろぼろの布切れを纏う緑の体躯。程よく引き締まった身体は叩いただけでは揺れそうになく、耳は尖っている。

 髪の一つも生えていないその様は、正にファンタジー作品に頻繁に登場するゴブリンだ。


 黄色に濁った目を周囲に向けながらも怪獣はその場から動かず、ただ座って何かを待ち受けるのみ。

 腕組みをしながら琵琶湖を占領する様子は本能に支配された生物には見えない。

 故に空我が緊急で現地に到着した時、自衛隊に属ずる誰しもが困惑した。あれは一体何をしているのかと。

 これまでの怪獣は本能的に行動するばかりだった。

 攻撃に対して反撃し、何の影響も受けないのであれば目的地を目指す。罠にも簡単に嵌まるし、傷を受けても構わず突撃している。


『こちら立花。 対象は沈黙を貫いていますが……どうしますか?』


『一先ず二機が到着するまでは様子を見てくれ。 絶対に手を出すなよ』


『了解。 ――さて、どうなるか』


 およそ目の前の怪獣に本能的なものは見受けられない。

 かといって突然動き出すかもしれないと立花は上から監視し続け、その内に二機もヘリに運ばれて姿を現す。

 他の空我はまだ実戦ラインにまでは到達していない。訓練生の質も高くはなく、今回の出撃も三機だけとなっている。

 警戒しながらも鳴滝が前を行き、その後方を砲戦パックに乗る土方という男が付いて行く。

 立花はライフルを構えて中間を維持し、そのまま五分の膠着が始まった。


『……』


『……おい、動かねぇぞ』


『ああ、本当にな』


 言葉短めに会話をするも、それ以外に変化は生まれない。

 指揮所でも怪獣のあまりの不動さに違和感を抱かずにはいられなかった。

 矢部博士が様子を見てくれと言うまでもない。このまま誰かが行動を起こさない限り膠着状態は維持されるだろう。

 避難はスムーズに進むであろうが、撃破が出来なければずっと避難施設に居るままだ。

 更に十分待ち、矢部博士と指揮官は顔を見合わせて頷き合った。


『土方、一撃だけ撃て。 相手が戦闘態勢に入った後、鳴滝と立花がカバーしながら射程限界まで下がれ』


『了解』


 全員が応じ、即座に砲が前に突き出る。

 長大な武器の切っ先を緑の巨人に向け、その胴体を撃ち抜いてやると照準を合わせた。

 いきなり跳ねられることも考慮し、当てることだけに集中しない。

 あくまでもこれは威嚇射撃。相手の反応を伺う為だけの殺意の無い攻撃だ。

 引き金を押す動作と共に砲からは一発の弾が飛び出す。狙い違わず一直線に胸に迫った攻撃を――ゴブリンは自身の腕で打ち上げた。

 横からの強烈な衝撃によって弾は上に行き、そのまま何処かへと去っていく。

 一瞬の出来事だ。土方も立花も、勿論鳴滝も含めてゴブリンが腕を振るったと認識するのが精一杯だった。


『嘘だろ……』


『土方、そのまま下がれ! 奴が立ち上がったぞ!』


 立花の言葉に唖然としながらも答え、土方は車輪を回転させて後方に下がる。

 古座を掻いていたゴブリンはゆっくりと立ち上がり、三機の空我を視界に捉えた。その顔は真剣そのもので、悪意に塗れた醜悪さなどまったく見受けられない。

 歴戦の戦士。

 漂う風格は空我がこれまでに相手をしてきたどんな怪獣とも異なり、全員の脳裏に鳴滝が伝えた情報が巡った。


「どう思う、矢部博士」


「あれがそうだという保証はありません。 ……ですが、何らかの関係はあるでしょう。 絶対に気を抜かないでください」


「解った。 ――これからが本番、か」


 苦々しい思いが指揮官の胸に過る。

 世界存亡の危機。その言葉は何処か物語めいていて、しかしヴェルサスに属する早乙女・蓮司からの情報とあっては無碍にすることは出来ない。

 今や日本政府はヴェルサスに喧嘩を売っている状態だが、当の売られている側はまったくそんなことを気にしていないのだ。

 いいや、正確には気にしている余裕が無いと表現するのが正しい。花蓮が酷く真剣な顔で説明をした時、矢部博士もこの情報を真だと即座に断じた。

 

 子供の怪獣が暴れてもヴェルサスなら赤子の手を捻るように簡単に倒せる。

 空我も比較的簡単に討伐が可能であり、しかしその事実がそもそもおかしいのだ。彼等が知っている怪獣とは酷く理不尽な存在で、徹甲弾の一つで怯えの姿を見せることは本来有り得ない。

 怪獣にも効くような武器を用意したとはいえ、それでも数は必要だと矢部博士も想定していた。

 それにこれまでの中で子供の怪獣が姿を見せたことはない。パターンが少ないので絶対ではないが、それでも子供が出てきたのはここ最近だ。


 何かがあると考えるのが普通で、それが世界存亡の危機に匹敵する怪獣の出現であれば納得出来てしまう。

 直ぐに上層部と政府には情報を伝え、そこで驚くべき回答が返ってきた。

 

「上はとことん調子に乗っているみたいですね。 貴方の意見を戯言と判断するとは」


「ヴェルサスからの嫌がらせ。 ……正直、俺は上の言葉が今でも信じられんよ」


 空我の戦績が悪い影響を与えた。

 加えて、ここでヴェルサスの言葉に素直に応じたくないという浅いプライドも混じった。

 折角自衛隊の株を回復させる手段を得たのだ。このまま彼等の言葉に従って緊急の判断を行った場合、世間にはやはりヴェルサスは必要であると再認識させてしまう。

 もう彼等は要らないのだ。要らないままでなければならない。

 故に、その報告を彼等は戯言と決め付けた。所詮はつまらぬ嫌がらせよと、無能丸出しの判断を下したのである。


「動いたぞ。 ……何を、しようとしてる?」


「口を開けたり閉めたりしていますね。 まるで――」


 立ち上がったゴブリンは咳をしつつ、口を何度も開閉する。

 何かしらの攻撃かと花蓮は構えるも、ゴブリンはそんな彼女を無視して足元の水を掬って口に運んで飲み干した。

 

『ア、アア……あ? あー、わ、かる、か?』


 そして、その口から人語を発し始めた。

 片言で首を傾げながらであるが、それは間違いなく日本語だ。衝撃が全員に巡り、特にパイロット三名は驚きに目を見開く。

 

『おい! どういうこったよこれ!?』


『俺に聞くな! 怪獣が喋るだと?』


『……嘘』


 普通の状況ではない。指揮所も似たような驚愕に支配されるが、ゴブリンは彼等の驚きを待たずに言葉を続ける。

 

『こ、れはけいこく?だ。 ひとよ、死にたくなければ隣人と手を結べ』


 徐々に徐々にと口は滑らかな言葉を発していき、最後ははっきりと解る程の日本語となる。

 死にたくなければ隣人と手を結べ。

 その言葉の意味は、解るもの以外には何も解らない。そして運が良いことに、此処に居る面々は全員がその言葉の意味を理解している。

 争っている場合ではない。今は兎に角、あの化け物を止めねばならないと。

 

『何故、それを私達に言うの……』


 機体各部に取り付けられたスピーカーから花蓮はゴブリンに問う。

 お前も怪獣だろうに、どうして警告をしてくれるのか。このまま放置し、蹂躙された後の日本を襲えば楽だろうに。

 その言葉に、ゴブリンは凛と真面目な顔で答える。矜持があるのだと。

 

『我は蹂躙を嫌う。 一対一で勝利を手にしてこそ誉。 弱者を甚振るのは趣味ではない』


『なら、あれに勝負を挑めば良い』


『あれは――悔しいことに並び立てん。 住む世界が違うのだ、お前達とは違ってな』


 このゴブリンの気質的に弱者を無差別に甚振るのは容認出来ることではない。

 かといって、自分一人で解決出来る程の力も無かった。故にゴブリンは掌を握り締めながらも、人類に告げるのだ。

 

『人よ、お前達はこの星の癌だ。 お前達が生き続ける限り、我のような者が今後も生まれ続けるだろう。 我もまた滅べと思っているが、此度の件は特別だ。 その悪意はあらゆる者を殺す力を持っているのだから、一丸となれば嘗ての頂点を殺すことも可能だろう』


 嘗ての生物の頂点。アーキタイプを殺せるのは、彼等を排斥してみせた人類だけ。

 人だけが持つ星を汚染する悪意。その力を存分に発揮してもらう為、ゴブリンは殺されるのも覚悟の上で姿を現したのだ。

 

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