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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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見た目はぬいぐるみ、中身は破壊兵器

「ぐあッ!」


 男の野太い悲鳴が室内に響く。

 身体は壁に叩き付けられ、奈々に伸ばした右腕は手首部分があらぬ方向に折れている。

 綺麗に反対方向に折れているので然程時間を掛けずに治るであろうが、今は怪我についてあれこれと心配している時ではない。

 スキンヘッドの男が吹き飛んだ光景を百合は驚愕の眼差しで見つめていた。

 彼は百合の護衛として自衛隊から派遣されたボディガードであり、不埒な輩から彼女を護る為に高い実力を有している。


 実際に彼女は何度かイベント会場で関係者から強引な誘いをされたことがあるが、そういった者達は総じて気絶か負傷の後に警察送り。

 間近で見ていた彼女でもまったく何をしていたのか解らぬ挙動で敵を無力化する様子は、頼り甲斐のある人間そのものだ。

 そんな彼が気付けば壁に叩き付けられていた。勢いが強過ぎた所為か呻き声を漏らしながら足を崩し、直ぐに立ち上がることが出来ない。

 

「一体、なにが……」


「殴っただけですよ」


 困惑する彼女に奈々が簡潔に答える。

 即座に百合は奈々に顔を向け、そして左肩に二本足で立つぬいぐるみに視線を移す。 

 奈々は確かに鍛錬を積んでいるが、実戦経験が豊富である訳ではない。寧ろまったく無いと言ってよく、咄嗟の攻撃に対応出来る程には到達していなかった。

 だからこそ、やったのはクマだ。柔らかそうな丸い腕には白い煙が一本宙に漂い、込められた威力が尋常の域にないことを伝えてくる。

 奈々が安心して生きられるように設計されたクマは、突然の男の暴挙にも問題無く対応した。

 

 相手の拳が奈々の顔面を捉える寸前。

 肩から飛び跳ねて自身の拳と男の拳を衝突させ、骨折させながら吹き飛ばすことを選択した。殺さないように十分以上に手加減して放たれた一撃はトラックの衝突に近く、故に真正面からぶつかればどちらが勝つかなど言うまでもない。

 

「この子は私の護衛ですから。 可愛い姿ですけど、純粋な力はヴェルサスの方々と変わりませんよ」


「クーマ!」


 腕を上げて自己を主張するクマを奈々が撫で、そんな姿に百合は畏怖を抱く。

 確かにヴェルサスの力は常軌を逸していると動画と共に理解していた。詳しくは解らないまでも、今の人類では作れないような代物を作っている事実も隊員達の慰撫に赴いた際に盗み聞いている。

 されど、目の前でそれを見せられた衝撃の前では事前情報など何の意味もない。

 見た目はぬいぐるみだ。しかし、その中には怪獣討伐を可能とする彼等と同等の力が宿っている。

 畏れるなと思うのが無理だろう。


「ぐっ……流石はヴェルサスといったところか。 易々と捕獲出来ると思ってはいなかったが、こうも簡単にやられるとはな」


 負傷した身体を壁に預けるように、男はゆっくりと立ち上がる。

 サングラスは吹き飛び、鋭い眼光が奈々達を睨む。その睨み一つで普通の人は恐怖で竦むかもしれないが、奈々達には一切効かない。

 鍛錬で指摘され続けている方が余程怖いものだ。自分のあらゆる考えを木端微塵に砕かれ、凡百以下の塵屑だと思わせられるのだから。

 そんなフローの真似をしつつ、男の言葉に奈々は内心成程と頷く。

 

 今回の仕事は失敗したくなかったのだろう。なるべく熟練の強者を送り込み、秘密裏に人質を手にしておきたかった。

 それを以て交渉材料とし、成功の確立を高めたかったのだ。仮に切り捨てられた場合は拷問に掛けて少しでも情報を手にしたいのだろう。

 だが、そんな目論見もこの状態では無理だ。肩に乗っているぬいぐるみには何かがあると想定していたが、まさか容赦無く潰される程の力を有しているとは考えていなかった。


「そちらの考えは解りました。 クマが防衛で動いたので、この一連の動きは全てレッドさん達にも伝えられるでしょう。 ――直ぐに防衛リストから外されると思っていてください」


「今の我々には空我がある。 お前達の手を借りずとも怪獣の撃破は可能だ」


「……そうであったらどれだけ良かったか」


 男は何も知らない。何も知らないからこそ、強気な発言をすることが出来る。

 奈々自身、空我が規格外の強さを持っていれば期待していた。その力で是非日本を守ってくれとエールを送るくらいはしたのだ。

 だが、フローは鍛錬の中で空我の性能を低く評価した。あれは全力ではないFMCと大差が無いと。

 超能力者の全力でも今回の敵は倒せるかどうか解らない。なのにその超能力者より遥かに弱いとなれば、期待を掛けるのは無理だ。


 彼女は同情する。

 そんなガラクタで怪獣に勝てると思ってしまうことを。無知であることがどれほど残酷で幸福なことであると。

 ヴェルサスが負ければ日本は無くなるだろう。人類絶滅を目標とする怪獣が逃げる人間を見逃すことは先ず有り得ない。

 国籍が無くなるからなんだというのだ。今の日本は崖っぷちにあるというのに。


「最上・百合さん。 お早めに自衛隊との縁を切ることをお勧めします。 でないと、要らぬ被害を受けることになりかねませんよ」


「……ええ、私も事務所の人達に相談してみます」


 衝撃の一瞬だったが、百合は元より聡明な人物だ。

 護衛役の男が別の人間から指示を受けて奈々を攫おうとした。そして、今後の交渉で早乙女家を従わせたかったのだ。

 退出した奈々を見送り、彼女は右腕を庇う男を冷めた目で見る。

 最早頼もしさはそこにはなかった。例えこれが男の本意でなかったとしても、百合を利用したのは事実。

 それだけ政府も焦っていると解るが、同時に深く関わり合いにはなりたくなかった。


 彼女の仕事はあくまでも広告塔であって、誘拐の共犯者ではない。

 今回の話についても半ば強制されたものだ。もしもこの件についても緘口令を敷くつもりなら、契約の解除も視野に入れる。

 ヴェルサスが防衛リストから日本を外し、更に有名アイドルの最上・百合が広告塔の役割を放棄すれば自衛隊が何かをやらかしたと人々は想像するだろう。

 そして、その時にはβは撃破された後だ。

 やはりヴェルサスは必要であると見直した瞬間に庇護が消失した時、国を揺るがす程の騒動が起きるのは間違いない。


「……こんな調子だから怪獣は来るんだろうね」


 人通りの少ない廊下を歩きながら奈々は一人呟く。

 クマはそうだなと言いたげに鳴き声を漏らし、揃って呆れを感じていた。

 人は欲望の塊だ。そして悪意の発露に躊躇と呼べるものがない。自分達の利益になるのであれば、誰かを絶望の底に叩き落して愉快気に笑ってしまう。

 それを星は嫌っている。ただ自分の為だけに世界を穢す者共をなんとか排除したいと思っている。

 

 今ならば星の気持ちを彼女は解る。

 幾ら綺麗な人間が居ても、その何倍も悪意に支配された人間が居るのだ。こんな連中が生きていたって益にならないのは明白である。

 

「ま、でも私は死にたくないから足掻くけどね」


 ヴェルサスが戦う理由を彼女も蓮司も知らない。

 何かしら大きな理由があるのだろうと思いつつ、それは然るべき時に教えてくれる筈だと必要以上に追求しなかった。

 だが、彼等は間違いなく良き人間だ。性格がキツイ者も居るが、その心根にあるのは悪意とは正反対のもの。

 それがあるから、奈々も怪獣に滅ぼしてもらおうとは考えない。生きていたいし、生きてほしい人だって彼女の頭の中には無数に居る。


「――そういえば、配信用のステージはどうなったのかな」


 悪いことは考えないようにしようと頭を振り、ふと思い出す。

 何時の間にか話題にならなくなったが、果たしてステージはどうなったのか。気になった彼女は、悪いと思いつつも仕事用の携帯を開いてチャットを起動させる。

 その日の放課後。彼女の電話からは蓮司の注意が響くのだった。

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