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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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中学に迫る魔の手

「奈々、なんか先生が呼んでるよ」


「え?」


 件の怪獣情報から奈々の生活は変化を見せた。

 常時携帯から手を離さず、タブの一つには兄の番号が載った電話帳がある。チャットアプリも起動したままで、モバイルバッテリーを新たに二つ用意した。

 更に彼女の肩にはクマが乗っている。普段は寝ているか食事をするばかりだが、危機や命令があれば即座にクマは稼働を再開する。

 怯えていることを彼女は自覚していた。

 数日の間に送られた敵の姿はやはり見た目も規模も桁違い。深海と思わしき場所を進む巨体をワイヤーや地形に嵌める形で足止めしているが、その全てが無駄になることを事前に説明されていた。

 所詮は時間稼ぎ。突破されることが前提の攻撃だ。


 だから彼女はその時が来るまで、日々を明るく過ごしていた。

 若干の無理があるのを承知しつつも、それでも万が一を考えて後悔したくなかったのだ。

 怪物は黒い棒を何本も組み合わせた見た目だった。何処まで続くかも解らぬ深海の底まで体躯は続き、腕先は槍のように鋭い。

 頭部は最初の説明で聞かされた通り、巨大な白の頭蓋骨。目のある部分には仄かな赤い輝きが灯り、超能力者達を睨んでいる風にも見える。


 これまでの生物的な姿ではない。これの何処に始祖的な要素があるのか不明な見た目に、不気味さを感じずにはいられなかった。

 友人の言葉に職員室に向かうと、担任の教師が奈々を呼ぶ。

 比較的中年な男性教師は傍まで近寄った彼女に客が来ていると教えると、二人で揃って談話室に向かった。


「早乙女。 客人はどうやら政府の人間らしい。 心当たりは……あるな?」


「はい。 まさか此処に直接来るとは思いませんでしたが」


 政府の人間。

 それを聞けば、幾分か彼女の肩から力が抜ける。怪獣の脅威と比較すれば、クマが傍に居る彼女に負けは無い。

 舌戦ならまだしも、純粋な戦闘能力という点においてクマの力はモザンからお墨付きをもらっている。FMCを作った彼女であれば、既存の技術力を凌駕する程度は造作もないだろう。

 扉の前でノックを二回。どうぞという声に従って中に入ると、二人のスーツに身を包んだ男女が待ち構えている。

 

「お待たせしました。 では、私はこれで失礼します」


「有難うございました」


 教師は一礼して、部屋を退出する。

 残された奈々はスーツの男女を見つめ、眉根を寄せた。

 クマも今は完全に起動している。正体不明の敵性体が現れたかもしれないと、警戒モードに移行したのだ。

 男女の内、女の方は一台の椅子に座っている。彼女の前には机が置かれ、反対側には誰も座っていない席があった。

 男は女の傍で立ったまま。髪を全て剃ったスキンヘッドを輝かせつつ、サングラスで視線に宿る感情を隠している。

 

 あまり友好的とは思えぬ風貌だ。話などしたくもないが、かといって此処で無言のまま退出しようとするのは無しだろうと彼女は静かに席に座った。

 同時に、女は自身のサングラスを外す。そこから現れた目も合わせ、奈々の心中に大きな驚きが生まれた。

 長く艶やかな黒髪。それ自体は手入れを欠かせていなければ維持出来るものだが、素顔そのものは容易に変えられない。

 輝く黒曜石は変わらず美しいまま。テレビ越しでしか見ることの出来ない相手――現トップアイドル勢の一角である最上・百合がそこには居た。


「……突然すみません。 なるべくアイドルとして接触したくはなかったので、このような手を使わせていただきました」


「……どうやってこの学校に来たのですか。 身分を偽るにしても、身元確認くらいはされる筈ですが」


「学校側にも政府からの指示という形で秘密裏にしてもらっています。 今日此処に居るのは政府の役人二名だけです」


 視線を男に移すと、男の方も首を僅かに縦に振る。

 百合の言葉だけなら兎も角、男の方は仕事に実直なのだろう。嘘を吐いているようには見えず、一先ずはそれで納得をした。 

 さて、そうなると次に気になるのは用件だ。アイドルである百合とヴェルサスとの間には薄く細い縁があるにはあるが、その縁も暫く前に消えた筈である。

 となると、広告塔としての仕事だろうか。例えば、ヴェルサスに秘密の要請を行いたい。


「解りました。 自己紹介は必要ですか?」


「いえ、事前に資料を見させていただいています。 早乙女・奈々さんでよろしいですね?」


「大丈夫です。 では、先ずは用件をお願いします。 迂遠な言い回しは好きではないので、出来れば直球で」


「はい。 ――政府はヴェルサスの力を欲しています」


 今日此処に百合が訪れたのは、自衛隊の客寄せパンダ繋がりの依頼である。

 その内容は極めて酷いもので、脅迫と言っても過言ではない。何せ、ヴェルサスの人員及び技術を全て提供せよというものなのだから。

 無為に断れば早乙女家を日本国籍から排除し、事実上の非国民として国外追放を言い渡すとのこと。応じる以外に維持は不可能であり、今の生活を維持したいのであれば絶対に協力しなければならない。

 最初にこの話を聞いた時、百合はその内容を伝える一役人に食ってかかった。


 一体どういうことだと、ヴェルサスの敵に回りたいのかと。

 答えは変わらず、遂行せよの言葉のみ。何の為にお前を広告塔として使っているのかとも言われ、あまりの屈辱に一瞬だけ頭が白に染め上げられた。

 彼女のアイドルとしての地盤は盤石とは言い難い。人気の急上昇に伴って様々な業務が遅れ、彼女のマネージャーを含めて事務所の人間は対応に追われ続けている。

 今なら横槍を一つ入れれば騒動に発展し、対応が間に合わずに彼女の地位は崩落するだろう。


 芸能界とはそういう場所だ。己の立ち回り一つで今居る地位が崩れ、落ちぶれた生活になってしまう。

 それを阻止したいのであれば、一度受けた広告塔としての仕事も熟さねばならない。人々を魅了し誘導する誘蛾灯が如くに。

 彼女の美貌はおよそ世界にも通用するだろう。その美貌でもって早乙女兄妹を魅了すれば、容易く有利に転がると政府は考えている。

 相手は中学生に高校生。学生が社会人に勝てる道理など無いのだと上から言い放ち、傲慢さを隠そうともしない。


「……はぁ」


 溜息一つ。

 呆れを滲ませて奈々は深く息を吐き、その様に二人は少々の困惑を覚える。

 トップアイドルの一人に、政府の役人。一学生にとっては緊張して然るべきもので、如何に超常の集団であるヴェルサスと行動を共にしていても呆れを最初に見せるのはあまりにも不自然だ。

 

「御話はそれだけですか」


「それだけ……?」


「そうです。 私達は国籍の剥奪程度で寝返るような阿呆ではありませんよ」


 冷たき目に、少し強めの言葉。

 これは普段のフローを意識したものだ。何度も何度も投げ飛ばされたお蔭で彼女の所作はある程度覚え、奈々が保有する仮面の数も増えた。

 今は学生としての奈々ではなく、ヴェルサスとしての奈々として彼女は百合達に接している。

 冷静に、冷酷に。慈悲の欠片も無い、交渉のこの字すら通用させないフローを模した態度は今の彼女に釣り合わない。

 そんなことは彼女自身理解している。似合っていないなと内心で苦笑しつつ、少しでもらしくあろうと仮面を脱ぐことを止めはしない。


「あまりにも勝手な物言いです。 私達の人権を利用して従わざるをえない状況にするなど、これが一国家のすることですか。 ……器量の狭さを感じさせますね」


「事は貴方だけの問題ではありません。 貴方のお兄さんや御両親にまで迷惑が及ぶんです」


「兄も私と同じ決断をすると思いますよ。 家族も話せば解ってくれる筈です。 何せ今も私達をあの組織に在籍させてくれるのですから」


「ですが……」


 成程、確かに国籍を利用されては普通の人間は従うしか方法が無い。

 如何に自分は自由だと謳ったところで、やはり縛られるものはある。その縛りが解放されれば、待っているのは救いの無い死だ。

 就職もままならない状況でどうやって金銭を稼ぐのか。仮に金銭を獲得したとて、定住場所をどのように獲得するのか。

 国籍を消すということは、戸籍も意味が無くなるのだ。

 それに早乙女家の場合はヴェルサスに関与していることで強制的に隔離されてしまう。


 しかし、しかしだ。

 何事にも例外はある。彼女が所属するヴェルサスが、その程度の脅しに屈するとでも思うのか。

 寧ろ切り捨てられる方が現実的だ。あそこは決して善良なだけの組織ではなく、冷たい面も多々ある組織なのだから。

 守ってはくれるが、それは道具を貸す程度。残りは全て自分達で行い、居場所は自分で作り上げる。

 今の彼女には超優秀な護衛が居た。クマが傍に居れば、強力な怪獣が出てこない限り不安を感じることはない。


「くだらない話に興味はありません。 ……では、これで」


「――待て」


 席を立った刹那、ほぼ目と鼻の先で男の声がした。

 一瞬だけ過る気配は心地良いものではなく、害意を与えるものだと明確に伝えている。

 脳内に響く警鐘は僅か数秒。拳が彼女の顔面を撃ち貫くのを本人は何もせず眺め、激突の間際に腕は勝手にあらぬ方向に弾けた。

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