表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/304

世界からの死刑判決

『βが出現したようだ』


 上空に展開された訓練スペースで鍛える二人の耳に、レッドの緊迫の籠る声が届いた。

 彩斗と奈々は今日も二人で日課の鍛錬に勤しみ、この日はレッドが見守る中での模擬戦。互いの実力を知り、その上で互いの拙い点を指摘する為に行われる模擬戦は、勝利者に高級デザートや欲しい情報を貰える報酬がある。

 その中には限定品も存在し、一体どんなタイミングで手にしているのかと二人は一時期本気で考えていた。


 今日も何事もなく終わると二人は思い、結局その日課は崩壊を始める。

 夜空に鳴った携帯の着信はレッドのものであり、彼が話を進めていく程に緩い雰囲気が軋みを上げて硬化していく。

 息苦しさすらも感じる雰囲気の中、唐突に口にした内容は二人にとって意味の不明なものだ。

 恐らくは怪獣が逃げ出したのだろうが、それにしてはβという単語は不思議である。疑問符を浮かべる二人を前に、レッドはマスクの前に拳を当てて一度咳払いを行った。


『ああ、お前達には伝えていなかったな。 ……最近、俺が連絡を取らなくなった回数が増えているだろう?』


「は、はい。 チャットも最近は遅いですね」


「フローさんも遅いですし、モザンさんぐらいです。 チャットの返信が早いの」


『そうだな。 だが、なるべく外部に情報を漏らしたくなかった』


 真剣な雰囲気が漂うレッドを前に、二人も姿勢を正した。

 まだ事の深刻さは解らぬが、レッドが真剣になる程だ。少なく見積もっても普段の怪獣騒動とは異なる規模の問題があるのだろう。

 

『βとは、怪獣の中でもとある個体を指す名称だ。 以前に我々はαと戦い、これを撃破した。 ただし、多大なる損害を被った上でだ』


「強かったんですか、そのαは」


『強い――いや、強過ぎた』


 強過ぎた。その言葉に重い響きを含んだレッドに彩斗達は息を呑む。

 これまでの中でレッドが本気が強いと言った怪獣は居ない。どれもこれも彼が本気を出さずとも倒せる相手であり、極端に脅威と呼べる程ではなかった。

 だが、αは違う。明確に強力な怪獣で、我々ということはヴェルサスのほぼ全てのリソースを注いで撃破したのだろう。

 何人の死者が出ただろうか。何人の怪我人が出ただろうか。想像するだに恐ろしい怪物の姿を各々がイメージしつつ、レッドは皆がある程度の想像を済ませたあたりで話を続ける。


『詳細は省くが、重軽傷者二十五名に死者六名の被害を出したαはある特徴を持っていた。 身体の何処かしらに髑髏を付け、生物的根源に相当する特徴を持っている』


「生物的根源?」


『所謂原型だ。 連中は様々な生物の始祖でな、DNA情報から既存の生物は全て奴等に繋がっているとされている。 断定とまでは言えないが、極めて確率は高い』


「そんな奴が……」


 通称、アーキタイプ・α。

 命名された名前に特徴的な響きは無く、だからこそ不穏さを存分に感じさせてくれる。彼等だけは他とは違うとヴェルサスが定め、そして恐らくこの組織最大の敵。

 ならばβの出現とは、地獄の再来と同じだ。レッドが緊迫を孕んだのも至極当然のもので、自然と全身に不安が湧き出す。

 奈々は目を揺らしながらそんな敵に心底恐怖を感じていた。

 蓮司は最悪逃げる手段を持っているが、奈々にはそれはない。所詮は情報発信担当であって戦闘技巧者ではないのだ。

 

 必死に逃げても怪獣の方が歩幅は広いであろうし、踏み付けられるだけで容易く命が喪失する。

 訓練所ではない。故に今夜の鍛錬は中止となり、これからの行動に関しては全員一丸とならねばならない。自衛隊と文句を言い合う暇も無いのだ。

 一つ一つの動きに遅れが生じれば、それは即ち人類の完全敗北に繋がる。早速レッドは自身の携帯端末を操作し、幾つかの画面を奈々と蓮司に共有させた。

 敵の出現域、進行方向、出撃している人員に、現時点で判明している被害人数。

 

『今は遅延戦術を用いて準備を急がせている。 最終目的地は不明だが、これまでの怪獣は全て日本を目指していた。 このβが同様の動きを見せるかはともかく、日本を目的地に定めておくべきだろうな』


「そういえば、結局どうして日本なんですか? この国に怪獣を引き寄せる何かがあるんでしょうか」


「……純粋に日本が脅威だからなのかな?」


「それなら他の国の方がよっぽど脅威的だろ。 核を保有してるし、軍事力なら日本を上回る国なんて幾らでも存在している。 ただ技術と物量だけで判断しているとは思えない」


 二人の会話にレッドの内心は大喜びだ。

 ただ与えられる情報をそのまま呑み込むのではなく、自分なりに疑問を抱いて質問を行う。これからの人生の中で、疑念を感じ続けることは己を助けることに繋がる。

 真っ直ぐ前を向き続けるのは良いが、足元を疎かにするのはよろしくない。前後不覚無しに固めてこそ、前を向いて突き進めるのだ。

 そろそろ良いかとレッドは思う。怪獣の出現理由について、これまで一回も口にはしていなかった。

 それに超能力者がどのように超能力を発動しているかまでは説明しても、そもそもの超能力者が生まれた理由についても説明してはいない。


 この長い長いお話の中で、知っている人間が身内だけというのは寂しいものだ。

 どうせなら他の人間と共有し、レッド達が思い付かないような意見を言ってもらいたい。例え何も思い付かなくとも蓮司達を見捨てはしないが、人間はどうしても他者に対して少々であれ期待してしまうのである。

 向けられる純粋な眼差しに、レッドは無言で見つめ合う。

 奇妙な膠着状態は暫く続き、奈々も加わったあたりでタイミングを見計らってレッドは長い溜息を吐いた。


『……連中が日本を狙う理由は、この国の歴史が関係している』


「歴史?」


『怪獣達の根源にあるのは人類への憎悪だ。 生物の頂点を掴んでいる彼等を怪獣は許してはいない。 ――破壊と殺戮を繰り返し、己が欲望の為に星を壊す者達を彼等は決して許容しちゃいないんだ』


 人間の歴史とは、闘争と発展の歴史でもある。

 最初は弱肉強食の中で群れを作り、大型の動物を狩る為に道具を作った。次第に火や水の効率的な使い方を学び、それらを同類に向けることになる。

 身を守る衣服、環境に合わせた住居。数字や文字が発展しても、それもまた殺害への一助へと変化する。

 直接的であれ、間接的であれ、人は醜く争い合う。弱肉強食の生きる為の戦いではなく、京楽の為の殺戮でさえも長い歴史の中で頻繁に登場していた。


 故に、それを見守る者は判決を下した。

 彼等の存在を許容することを許さず。皆須らく絶滅せよ。

 判決を下したのは星そのもの。眠っていた大古の怪物に生命の息吹を流し込み、遥かな力を得て人間の絶滅へと活動を開始する。

 ――愚かな人類を殺せ。さすれば、次に天下を掴む戦いをお前達に提供しよう。


『人類の行動が自然にとって悪いものであるのは瞭然だ。 今も騒がれる環境問題に対して人は真面目に取り組まず、己が良いと思った行動しか取らない。 それを悪いとは言わないが、何かしらの形でしっぺ返しがあることを考えておくべきだろう』


「……なんだよ、それ」


『近年、地震や津波が短い間隔で起きていることをお前達はニュースで知っているだろう。 怪獣以外からも人類は攻撃を受けていると思っておくことだな』


 確かに、ここ十年の間に起きた地震や津波の頻度は嘗てと比較して二倍以上になった。

 この前にも起きた大型地震の復興は七割まで進み、数ヶ月もすれば形は異なれど復興も終わりとなるだろう。

 しかし、他の国ではその復興が遅い国もある。技術力が不足していたり、そもそもの資金が不足していたりと、様々な理由で何年も復興が始まっていない国もあった。

 それらを見て、今の人は助けようとは思わない。

 対岸の火事、資源の無駄、余計な手間。政治的に利用出来るなら兎も角、ただの手助けに全力になれる国は無かった。


『その上で日本が狙われているのは、日本こそが対抗出来ると思われているからだ。 無意識領域から掬い上げた数々の解決策がアニメや漫画、小説の形で出力されている』


「……そういう、ことですか」


 一部の天才だけではない。日本が誇るアニメや漫画は、凡才の手も合わさって世界に影響を与えている。

 怪獣と言われて先ず最初に思い付く国は何処だろうか。

 超人が無双するアニメと言われて最初に思い付く国は何処だろうか。

 今では何処の国でも似たような話は散見され、対処法も大多数が熟知している。現実的ではない話を現実と空想の境に落とし込めているのは日本だからこそだ。

 幼いだけの作品では楽しめるのは子供だけ。大人でも楽しめる作品を作り出すからこそ、日本の創作作品に星は脅威を覚えたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ