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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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勢いは果てしなく、破滅の音に気付くは僅か

『――ッ!』


 二体目の怪獣が一月の時間を超えて現れる。

 今度の怪獣は発達した二本の足を持つ狼。二足歩行が出来る故に狼男と表現するのが適切であり、細く引き締まった身体には紺の毛が生え揃っている。

 胸元には一房の白い毛。指の数は三本しか存在せず、その体躯は地面を揺さぶるには十分。

 しかし、どうにも硬いと思わせる域には届いていない。

 怪獣は出現した直後から人の住む街を進み始めるが、事前にヴェルサスの警報によって一機の空我が構えていた。


 空戦パックを搭載した空我を操るのは、眼鏡を掛けた神経質そうな男だ。

 事前の警戒通りに進む狼に照準を向け、一片の慈悲も無く冷酷に引き金を押す。吐き出される小型徹甲弾は容易く狼の皮膚を貫き、激痛にたちまち身体を崩した。

 とはいえ、それも一瞬。

 見据えるべき敵を睨み、狼は跳ねるように起き上がって拳を構える。妙に人間味のある所作に不思議なものを男は感じるが、それよりも先に処理を進めるべきだと遠距離での攻撃に努めた。


『立花、もうすぐ残りの二機が到着する。 無理はするなよ』


「了解。 ですが、相手はどうやら飛び道具を持っていないようです。 皆が来た頃には此方も燃料切れになると思いますが、それまでに手傷は負わせておきます」


『解った。 ……あの子を守ってやってくれ』


 本部からの通話が切れ、男――立花は舌を打つ。

 守ってやってくれ。それは立花自身が強くなければ成り立たない言葉だ。近接パックの空我を操る彼女こと、鳴滝・花蓮の適正は極端に高い。

 それでいて何処かが欠けているとも言い難く、言ってしまえば完璧だ。

 守られるのは寧ろ立花の方である。それは指揮官の男も解っていて、全てを呑み込んだ上でこのままではいけないのだと言外に語っている。


 彼女が強ければ、彼女をそのまま重宝しようとするだろう。

 大人が本来しなければならないことを子供がしているのだ。その原因の一つである矢部博士も彼女に頼らないようOSの調整や新兵器の開発に勤しんでいるものの、誰でも上手く扱えるようにするのは難しい。 

 少なくとも、空我はまだ完成した直後。いきなり新型が出てくる筈もなく、となればパイロット本人の技量によって解決せねばならない。


「来いデカブツ。 あいつらが来る前に再起不能にしてやる」


 掛けている眼鏡を光らせつつ、空我の空からの攻撃は的確に狼を甚振っていった。

 時間にして十分。遠くから聞こえるヘリの音にレーダーを確認すると、二機の空我がヘリに吊られる形で運ばれている。

 砲戦パックは遠くで着地し、近接パックは狼の近くで着地。

 即座に三機による通信がリンクして全員の身体状況が共有される。早朝にもチェックがあるので、これは異常が起きた際に判別する為の措置だ。

 空戦パックは二機が到着した段階で燃料が枯渇している。直ぐに背部の追加ブースターをパージし、ライフルを手に持って二機の中間に位置取りをした。


『おい立花。 あいつもうボロボロじゃねぇか』


「良いだろ。 お蔭で仕事が減るぞ?」


『そいつは良いが、俺は暴れたいもんでね。 折角の機会なんだからよ』


「お前の都合だろ、そいつは。 それよりもさっさと倒すぞ、我等が姫は既に臨戦態勢だ」


 男二人の会話に花蓮は一言も混ざらず、静かに背部の剣を持つ。

 狼は無数の弾を浴びた所為で全身から血を流している。息も荒く、我武者羅に暴れていたのが誰の目から見ても明らかだ。

 体高そのものは空我の二倍だが、だからといって負ける気はまったくない。

 両足の車輪とブースターを吹かしながら彼女は突撃を行い、その背後から二機は己の得物で敵を撃つ。

 逃げの姿勢は狼には無い。食い殺すことのみを追い求める性質でも持っているのか、弾をその身で受けながらも突撃を止めなかった。


 愚直に真っ直ぐ進む様は、如何にも知能が無い。

 本能に従いながら行動する怪獣らしく、だからこそ三人にとっては動き易い敵だ。

 砲戦パックは弾を交換。通常の徹甲弾から強靭ネットを詰めた弾を発射し、広がる網に狼は全身が包まれる。

 移動が阻害されるが、狼の手には鋭い爪がある。三本の爪は鋭く、網を切るのも容易い。捕縛されている時間は恐らく五分も無いだろう。

 ――しかし、そんなことは三機共解っている。


『やりやすくしといたぜ! 斬っちまいな!!』


『――了解』

 

 戦いを求めながらも、砲戦パックの空我に乗っている男は自分の我を出さない。

 それは今から攻撃を仕掛けても一撃で敵を倒せると思わなかったからだし、何より実績を多く残しておきたかったから。

 砲撃は国家防衛に有用だ。ただの近接よりも活躍の機会は多く、近接パックの空我が目立っているのも彼女が操っているからこそ。

 普通は近接特有の急速な視界移動についていけず、そのまま酔いを覚えてダウンする。

 彼女だけはその酔いを覚えず、僅かな瞬間を狙って狼の首を鋼の剣で斬り飛ばした。


 流麗に、軽やかに、まるで当たり前の如く。

 車輪とブースターを組み合わせた複雑な軌道を描きながら彼女は進み、擦れ違う刹那に全力を込める。

 狼の首は宙を舞い、そのまま地面に落下した。

 噴き出す鮮血が土地を汚し、身体は力を失って倒れ伏す。体内の種は破壊されてはいないが、最初から設定されていた通りに自壊して無くなった。

 二体目の撃破も順調そのもの。彼女有りきとはいえ、軍は明確に空我は怪獣を倒せる存在だと世間に示した。


 被害を出さない為にと最短での最大火力で解決し、被害は大きくなってはいない。

 これならば最早ヴェルサスは不要だと誰もが考え始め、勢力の弱かった反ヴェルサス派が一気に増長していく。

 悪い情報ではないが故にニュースでも正直に報道され、あちらこちらで軍の活躍は大きな波を立たせていた。

 未だヴェルサスの緊急報道には頼っているものの、軍は高精度なレーダーや可能性のある土地を逐次調査している。ゆくゆくは緊急報道も必要無くなり、ヴェルサスはその存在を過去のものへと変えていく――――と、普通は思うだろう。

 

 自衛隊の想定は間違ってはいない。

 ただ、一部の人間はこの流れに違和感を持っていた。その中でも一際大きな違和を覚えているのは、空我の開発に多大な貢献をした矢部博士。

 彼は指揮官の男の部屋に入り、数枚の書類を机に広げる。

 回収された狼も含め、これまで各地で回収された怪獣達を全て比較したデータ群だ。

 棒グラフの形で纏められたそれを指揮官は見て、直ぐに博士の言いたいことを理解した。


「……なんだこれは」


「私も同意見です。 空我が完成してから出現した二体は、他の個体と比較してあまりにも脆弱です」


 無事だった内部器官や皮、毛等に至るまでを分析して出て来た結論は――二体の弱さ。

 内部器官は成長途中であることを示すように一部が出来上がっておらず、皮も硬いことは硬いが最初の怪獣より遥かに脆い。

 まるで成長中の子供。出来上がるまでは恐らくもっと時間が必要で、その前に何故か二体は人の前に姿を晒した。

 不自然だ。元より怪獣そのものが不可思議の塊だが、今回は生物の特徴を言っているのではない。


「今回の怪獣達は空我なら簡単に倒せる強さです。 ですが、そもそも何故成長しきっていない怪獣が表に出て来たのか」


「我々は怪獣の事をそれほど多くは知らない。 かといって特撮畑の創作知識をそのまま使う訳にもいかない」


 多くを知らないのだから、子供の怪獣が突然出てきても不可思議ではないかもしれない。

 そう言う指揮官に、されど矢部博士は言葉を重ねる。


「仰っていることは解ります。 ならば、どうして子供の傍に親が居ないのです」


「……それは」


「人間と怪獣を比較するのは確かに間違いでしょう。 世の中には子供を産んで後は放置するような生き物も居ます。 しかしながら、今回のこれはどうにも怪しいのです」


 まだ確信には至っていない。

 強烈な違和感があるだけで、矢部博士はそれを言語化することは出来ていないのだ。

 だから、彼は今解っていることだけを素直に吐露した。自分の言葉に影響力があると思っているからこそ、言えることは全て言うべきだと行動したのだ。

 そして、それは間違いではない。何が起きるか解らない状況で隠し事をして、そのまま死んでしまう可能性もある。


「次に怪獣が出現した時、今暫くの間は様子を見ることは出来ませんか。 勿論市街地に向かうようでしたら撃破して構いません」


「……良いだろう。 俺も少しこの件は気になった」

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