都の人攫い 5
コウノが言うとおり、早朝に外の鍵が解かれる音がした。その音で目を覚ましたが、乗り気ではない。あと二日後には裸にされて市中を連れ回される、のかもしれないがイブキはさらさらその気はない。
庵の扉が開くと、無愛想な男の顔が見て取れる。イブキの顔を見て、ますます表情を歪ませた。イブキもどうせなら、可愛い妹分や弟分に起こされたい。
互いに何も話すことがないので暫くは睨み合っていたが、コウノが縁側に腰を下ろす。視線が無くなったお陰で、イブキは遠慮なく目を閉じた。久しぶりに寝坊をしたし、ゆったりと昼寝ができるのも中々ない。外から注ぐ日が心地よく、寝ながら背伸びをした。
「昨日の集団は、西川の領地を荒らしていた賊の残党だったそうだ」
「へぇえ」
「刑期をあと五日延ばすとのことだ」
「へぇえ」
溜息が聞こえる。
「自分の事だろう」
「だから?あんたにだって、どうでもいい事じゃないか」
返事がこなかったので、イブキも続けて言うことはない。
庵に爽やかな風が吹けば、外で軽やかな音が流れる。こんなに心地いい日は久しぶりだ。近くにコウノがいなければ、最高だっただろう。
まどろむ中で、今日は何をしようかと考えあぐねる。
(水浴びしよう、買い物は帰るときでもいいか。ちょっと居過ぎたけど土産を買って、……土産は何がいいだろうか)
村へは反物を幾つか買えばいい。ミサカとカズキには何がいいだろうか。二人とも母親が恋しいだろうし、イブキでは限界がある。
「……そうだ」
「なんだ」
コウノの気配は消えなかったから、居るだろうと思っていたが。なぜかイブキの方を向いている。面白くなさそうな顔をしていたから、ますますイブキは不愉快になる。
「何よ」
「いや、お前だろう」
「寝顔見られていい気になるか!」
溜息を吐いて、つまらなそうに顔を外へ背けた。
「随分腑抜けた顔だった」
「余計なお世話だ!……もーいい」
せっかくいい日和だというのに。何が悲しくて男と二人きりなのだ。
「ちくしょー」
寝転んで天井を見上げるだけでも、気が紛れる。
「……何か書くもの持ってる?」
「何だ急に」
「あるの、ないの」
イブキは身を起こして、コウノに少しだけ擦り寄った。嫌々に懐から包み取り出し、中には細い筆と帖紙が入っていた。
「使っていい?」
「何用で」
「あの人に」
「残念だが、お前の文は届かないぞ」
にこりとイブキは作り笑いを返す。
「あんたの文だったら届くかもしれないだろ」
「それも無理だろう」
「えー……」
脱力する。その場でまた寝転び、天井を見上げる。がそう残念にも感じていない。身分が高いのであれば当然だろう。ミサカが都に連れ戻されなかった事を見ると、ミサカよりも母親のミツカのが王族にとって重要だったのだろう。
「そこまでいくと重罪だぞ」
「知ってるよ」
「なら何故そこまでする」
「……幸せに笑っててほしいだろ」
溜息すらも返って来なかったが、これも仕方がない。
「預かるくらいならできるだろう」
耳を疑ったが、身を起こすほうが早かった。
「本当!」
コウノの胸倉を引っ張り、視線を合わせる。澄んだ目が一回瞬きで隠れる。
「いいの?やった!ありがとう!」
筆と帖紙を貰い、手短に分り易く伝わるように考える。誰か別の人が読む事も考えて、怪しまれず、ミツカにも迷惑がかからない様にしなければ。
そんなイブキの横で、コウノが顔を顰めていた。
「イブキ」
「うひゃっ?!」
まさかコウノに名前を呼ばれるとは思わず、イブキは飛び跳ねるくらいに驚いた。
「な、な、なにさ!」
「仮にも女だろう。いい加減、身なりを整えたらどうだ」
確かに寝起きだし、衣は乱れているが。
「あたしの見たって気持ち悪いだけだろ」
構うものかと、イブキは文に視線を戻す。横で今までにないくらい大きな溜息が聞こえた。




