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都の人攫い 4

 酒が足にも回っていたのか、骨のある人間は少なかった。イブキは別として、コウノも剣を使わずにあしらっていた。喧騒が静まった後、店主がひょこり顔をだし、愛想のいい顔で笑う。

「すいませんねぇ」

「いいよ。その代わり、酒一本貰うよ」

「一番いい酒残してますよ」

コウノがまた背中で溜息を吐いた。


 夕餉も終わり食後の運動も軽く済ませ、後は寝るだけと思ったが、コウノの監視は四六時中なのかと疑問が浮かび、イブキは部屋に行くのを躊躇った。

「あんたはいつまで見張るのさ」

「盗人を捕まえるまでだ」

「……寝たいんだけど」

「構わんが」

「あんたの分も宿代払う気はないよ」

「ああ」

 納得したようにコウノが頷く。

「悪いがここに泊まることは許されない。別の所に用意してある」

 それを聞いてイブキは気が重くなる。どうせ牢屋もどきのところだろう。

「世話になったな店主。向こうの宿にも検非違使を手配しておこう」

「助かります旦那様。今後も是非ご贔屓に」

 うやうやしく頭を下げた店主を見て、コウノは顔が広いのだろうと確信する。その反動か、後数日も監視されるのかと思うと、逃げ出したくなった。


 月光が照らす夜道は、歩く人などコウノとイブキだけだった。歩く人が居なければ、広い通りも狭い小道も、どことなく無機質だ。たまに風が木々を揺らす。その音に隠れて、艶の帳は降ろされ、密やかに声が交わされる。

 歩いて通り過ぎるくらいなら空耳で済ませるが、イブキは居た堪れなくて重い溜息が零れるばかりだ。色事を忌避している訳ではないが、自分だったら見られるのも聞かれるのも嫌だなぁというのが、イブキだった。


 気を紛らわせようと先を行くコウノの背に声を掛ける。振り向きもしないが、イブキが逃げる様子を見せたら直ぐに剣を抜くだろう。

「拐かされそうになったのが王家の人だって言ったけど、あの辺り王族の屋敷じゃないよね」

「ああ、だが別邸になる。皇太后様の姪御様が休まれていた」

「あの辺で位の高い貴族は二人、一人には二十過ぎの姫君に、もう一人は五つだったはず」

「間違いはない」

 それを聞いて、イブキは口元に指を当てて唸る。

「二十過ぎていたら寝床に忍び込んだ方が盗むよりは楽だろうし、五つじゃ育てるのに手間だろうし」

「……お前も大概下世話だな」

「好きでこうなったんじゃない。でも、賊が欲しい物を想定して考えると大抵は合ってるんだよ」

 ふと、喉に何かが突っ掛かる。

「今、別邸て言ったね」

「ああ」

「あの辺で有名な姫君は二人。そのほかに王族の姫君が居たことを知っていなきゃ、王族の姫君は盗まれることはなかったはずだね」

 コウノの足が止まる。

「あの屋敷に警備は増やしているかい?」

「ああ」

「なら明日にでも、警備をいつも通りに戻すんだね」

「何故?逆だろう」

 振り返るとコウノは逆光の下で、イブキには目を凝らさなければ顔が見えなかった。

「犯人はあたしだろう?それに、姫君はまだあの屋敷に居るなら、遅かれ早かれまた来るはずだ」

「根拠は」

「逃げるのが早かった」

 殺気か怒気が漂って、イブキは背中が震えるのが分った。

「割り切りが早かった。けど執着が強ければ何度でも盗みに来るだろう。相手は上玉だ」

 震えを隠すように捲くし立て、できるだけコウノから視線を外す。

「また、盗ませろと?」

「術者を使えば早いだろ?」

「術で防げるのは術だけだ」

「うそ」

「本当だ」

 疎いイブキが悪いのは分る。

「でも、あたしの村に、あの人が居るって知ってただろ。牛飼いだってそうだろ?」

「アレは別だ。人に影響するのはごく一部」

 それを聞いてイブキの肩が落ちた。

「案外使えないんだな」

「だが、使いようはある。検討しよう」

 コウノは踵を返す。イブキも仕方なくついて行く。


 満月にはあと数日たらない満ちがやけに眩しく降り注ぐ。音もない場所で月見ができたら、飲む酒も美味いだろうと、想像する。三日の間に盗人がまた来るとは限らないが、姫君が盗まれる可能性はある。

「お姫様はいつまでこっちに居るのさ」

「決まっていない」

「……なら、下働きさせてよ」

 コウノの歩きが乱れたように感じたが何も言わず、気付けば小さな門前に着いた。無言で開け、通り抜ければ手入れもされていない庭が出迎えた。こういう荒れている地は好奇心が擽られ、嫌いではない。庭の奥には庵が一つ佇んでいる。

「入れ」

 庭とは打って変わり、小さい庵は小奇麗になっている。けれど窓はなく、天井はしっかりと組まれ、隙間がない。出入り口しか外との繋がりがないことが見て取れた。

「朝にはここを開ける」

 言うが早いがコウノは出入り口を閉め、鍵を掛けるような音がした。昼間に入れられた牢屋よりも、十分な機能をこの庵は果たしていた。

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