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都の人攫い 2

 ミサカの仕返しはイブキも感服するほどで、村の女達を巻き込んでの仕掛けだった。

もちろん覗き見をした男達は決まっていたので、迷うことなく完璧に仕返すことができ、ミサカは晴れ晴れとした笑顔でイブキを見送った。

「お土産はいりませんから、早く帰ってきてくださいな」

「ああ、わかったよ」

 これでは誰がミサカの相手が自分のようだと、こっそりと苦笑うしかない。昨夜は灰汁の強い草を摘んで帰り、夕餉に入れてくれと頼んでいたミサカを見ると、貰い手も苦労しそうだとイブキは思う。けれど、一途に相手を好いて、頬を染めた彼女は愛らしくも思うし、そういう顔を男に向ければ可愛がられるだろう。

 それに比べ十八にもなるイブキは可愛気すら通り越し、男か女か分ったものじゃない。諦めてはいるものの、女らしい人を見るたびに、羨ましさが湧いて出るのも間違いなかった。

(あたしはいいさ)

 家族が幸せであれば、イブキも幸せだから。


 都に着いたのは日が一番高い頃だった。馴染みの宿に部屋を借りようと覘くと店主達は忙しそうに小走りしている。

「や、これは。部屋はありますよ」

「悪いね。忙しい?」

「ええ、まぁ」

 ちょっと会話と思いきや背中から、大きな声が酒!と聞こえる。

「日の高いうちから酒、ね」

「どうも、金が舞い込んだと豪快に振舞っているんですよ、昨日から」

「昨日!こりゃまた豪傑な」

 だははと、品の無い笑いが聞こえたと思えば、酒臭い匂いがイブキにのしかかる。

「聞くかい、ねぇちゃん?いいぜぇ、あの、腰抜かした貴族様よぅ」

 言い終わらぬうちに、イブキは男を昏倒させる。

「知るか」

 店主に宿代を払い、荷物を預けた。

「この様子じゃ夜も賑やかでしょう、すいませんねぇ」

「いいよ。親父さんの話しを聞けないのは残念だけど」

 すいませんねぇ、ともう一度言うと、倒れた男を引きずって外へ放り出した。

「嬢さんも昼間でも気をつけてくださいよ。人斬りやら拐かしやら物騒になっちまいやしたから」

「そおだね」


 イブキは宿を出てふらりと街並みを見て歩く。だいたいの道は砂利を敷き、道が整われているが、山に歩きなれているイブキにとっては少しだけ違和感がある。

 人波が外れた小道を行くと、綺麗に並んだ生垣や塀が佇む貴族の屋敷が並ぶ。昼間は屋敷近くは人気が少ないが、風に乗って男達の怒号が聞こえ始め、足を止めた。

 こっちだ、上だ、あっちへ逃げた、と聞こえてくる。少女の悲鳴が近くで聞こえ、頭上が陰り、何かが地面に落ちてきた。正確には降りたといっていいだろう。小柄な男が何かを抱えて起き上がると、イブキを見て慌てて身を翻そうとした。

 イブキも反射的に男を襲い、抱えていた者を取り上げた。ミサカより年下だが、列記とした貴族の娘が身を縮めて震えていた。

「拐かし?」

 男が舌打ちをして逃げていく。仕留め損なったのは悔しかったが、誘拐を未然に防げてほっとする。

「大丈夫?怪我はない?」

「は、い。あの」

「立てるかな?痛いところは、本当にない?」

 抱えていた少女をゆっくりと地面に降ろすと、少女はほっとした顔になる。

「有難う、ございます」

 イブキの衣を掴んで居た手元が少し切れているのが見え、少女の白い手をそっと掴む。胸元から布を出し、手早く包みきつくならないように結ぶ。

「ちゃんと手当てしてもらいな」

「あ、ありがとうございます」

 ほわりとあどけなく笑う顔がミサカに似て、つられてイブキも微笑み返した。気が和んでしまったせいか、突きつけられた槍から身動きが取れなくなり、あれよあれよと人に囲まれてしまう。

「乱暴になさらないで!」

 少女が声をあげてくれるも、検非違使たちは殺気立ちイブキを囲む。

「その人ではないわ!小柄の男よ!皆も見たでしょう!」

「姫様、穢れますからこちらへ……」

 男達に追いやられ、小さい少女は見えなくなる。イブキも逃げていいのかと迷っているうちに、男達との距離が縮まって、逃げる隙をなくしていた。

「大人しくすれば手荒なことはしない」

 背後に二本、首元に二本槍が交差し、一人がイブキの腕を縛る。大人しく従うことを決めて、イブキは小さく頷き返した。


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