表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/33

コウノとイブキ 5

 屋敷へ戻ると、昼間来た牛車と綺麗な女性が三人いた。気後れしていると、コウノが紹介してくれる。知り合いの娘さんとその女房達だそうだが。

「マノ殿、父君が心配されているでしょう、戻らなかったのですか」

「コウノ殿、奥方が行方知れずというのに……!そんな暢気な!」

「……父君からお聞きになっていないのですか、妻はまだ貰っておりません」

 三人は目を丸くする。

「この後、用がありますので」

 早く帰れ、とそのあと続きそうな言葉を言わず、コウノは一礼をすると、イブキを馬から降ろし抱きかかえる。

「歩ける!!」

「歩くな、馬鹿者!」

 イブキ達は見えなかったが、三人は益々目を丸くして、二人が屋敷に入っていくまで見送った。


 イブキが寝ていた部屋の御簾を下ろし、イブキは部屋に放り込まれる。

「ちょっと、こんな暗くちゃ手当てもできないだろ!」

「……お前のが先だ」

「あたしは、もういいよ!平気」

「イブキ」

 顔を反らし、唇を噛む。なぜコウノに名を呼ばれるのが苦手なのかようやく理解できた。イブキが小さい頃に殺した、あの男と声が似ているのだ。そう気付くと悔しさと惨めさが湧き出る。コウノはあの男ではないのに。あの男よりもずっと人格者だというのに、比べる方が失礼だ。

「泣くほどのことか……」

「泣いてない!」

「……無理をするな、休めと言ったはずだ」

「聞いたよ」

「気を使うなと言ったはずだ」

「気なんか使ってない」

「……ならなぜ泣く?」

「泣いてない」

 手の甲で頬を擦った。水気があったし誤魔化しようがないが否定する。

「……悪かった」

 なぜかコウノが謝った。驚いて、顔を上げるとすぐ、視界が何かに覆われ、コウノの顔が見えなくなる。

「あんた、が謝ることじゃない。あたしがあんたに謝る、事だ」

「不自由だっただろう」

「……自由にしてたよ」

 大きい手に、頭が撫でられるだけでも慣れなくてくすぐったいのに、逃げるように頭を動かすと深く抱き込まれる。それが不意に恐ろしくなって、イブキは慌てて身を離そうとした。

「あんたが、悪いんじゃない」

「イブキ」

 逃げたかった。けれど名を呼ばれ、恐怖に震えた。

「私が怖いか」

「違う」

 引き寄せられて、また優しく抱きこまれた。

「許せ。もう少し」

 否とも是とも言えない。イブキにとって居心地の悪い静寂が漂った。それを消すように口を動かす。

「……あんたの声、あたしの嫌いだった男に似てるんだ。あんたと、あいつは違うのに。コウノが悪いんじゃない。ごめん、……ごめんね」

 腕の力が強くなる。

「そいつも、父も、強い人だった。でも、あたしを狂わせた人達だった。許せるものじゃなくて、忘れたかった。ちゃんと忘れていたんだ」

「私が、思い出させたか」

「ちがう。コウノは好き。悪い奴じゃないもん。ただ、自分より強い奴ってやっぱ怖い」

「すまない」

「……そうじゃなくてさ」

 伏していた顔を上げると、素直にコウノの顔を見ることができた。

「あたしが暴れても止めてくれるだろう。その上、コウノには励ましてもらったんだ。だから、コウノが悪いんじゃない」

 距離をとろうとすると、素直に腕を離してくれた。

「手当て、しないと、駄目だろう?あたしがするよ。下手じゃないから」

「……そうだな、頼む」

 コウノの目が静かに瞬いた。イブキは嬉しくなって頬を緩ませた。

 

 傷は浅くはなかった。血で汚れた所を拭き、縫い合わせて薬をつけた。思うように動かすのは先になるだろうが、コウノは涼しい顔をしている。本当に、彼にとっては大きい傷ではないようだ。

「あたしも、変わり者だけど、コウノも変わり者だね」

「……悪かったな」

「拗ねるなよ。痛くない?」

「痛むのは当然だろう。怪我に痛みがない時は大したことないか、逆に危険だぞ」

「……わかってるよ」

 包帯を巻き終えて、イブキは一息ついた。

「次は、お前の傷を診る」

それを聞いて慌てて、コウノと距離を置いた。

「……なぜ逃げる」

「いいよ。ちゃんと、五日は大人しくしてるから」

「自己判断で五日か。その裏はなんだ?開いたんだろう?」

「ひらいてない、血も出てない!痛いだけ!」

「イブキ、私は医者ではないが、その知識はある」

「分ってるよ!あたしだって!」

「イブキ」

「やだ!」

「子供か」

「何とでも言いな!来るな!さわるな!ほっといて!」

 コウノが大きく溜息を吐いた。ああ、コウノには悪いとは思っている。思っているが抵抗がある。反抗ではない、とイブキは心の中で叫ぶ。威嚇するイブキと反対に、コウノは観察するように、イブキを見る。しばらく睨み(イブキだけ)合ったあと、コウノはふっと口元を緩ませた。

「分った。好きにしろ」

「う、あ。うん。ありがとう」

「私も、好きにする」

「……なにをぅ!」

 気を緩めたのに後悔した。慌ててイブキはコウノを睨みつける。けれどコウノは直ぐに部屋を出て行った。緊張で、ばくばくと心臓が煩く鳴るし腹も痛い。けれど、緊張が切れた後は、身体に力が入らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ