村 2
村の中は荒れることがなく平和だった。山の奥という事もあったのだろうが、他所からの情報も、山を降りなければ仕入れることができないのも確かたっだ。けれど、村の男達は毎年、数人ずつ村を出て行くようになる。年上から順に、家族には村を出ると伝えているのか、そんな大騒ぎをすることもなく、気付けば女とやんちゃ盛りばかりが残っていて、シュウとイブキ、もうすぐ十になる子供を連れて狩りをするようになった。とは言え猪や熊を狩るのには少しばかり骨で、近場を歩き回って、小物を獲るばかりだった。
それでも子供たちは嬉しいのか、弓矢の扱いや刃物の使い方などを熱心に学ぶようになってきた。
「イブキー今日は狩りに行かないの?」
「今日は行かないよ。そろそろ都に行って必要なもの買ってこないと」
「なぁなぁ。前みたいにお仕事もらえないの?」
「何の仕事だよ」
「悪者退治」
それを聞くと、頭を抱えたくなる。
「あたしに勝てたら、持ってきてやる」
「「えー」」
不服そうに声を上げる子供たちに、イブキは容赦なく睨みつけた。
「黙れ。お前らごときに何ができる。獣と人間は違う」
一人ずつ拳骨を落とし見下ろすと、不服そうな目がイブキを睨んでいる。
「痛いだろう?それ以上の痛さを受けるんだぞ。容赦なく、腹を刺される。首を切られる。腕も脚も。あたしらが獲った得物と同じに、だ」
それでも納得しない目が、イブキから逸らされ、互いに目配せをした。
「稽古はつけてやるが、お前らを狩りから外す。畑仕事をやってな」
「え……」
「返事」
しぶしぶ、と言うように小さい声が聞こえた。この子らだって、森の危険さを知らないわけではない。何人かは森で迷子になった事もあるし、捕らえた獣に怪我を負わされたこともあった。それでも、過信する時期にあるのだろう。
しばらくは、イブキが憎まれ役になってその自尊心を削らなければ、近いうちに痛い目をみる。シュウはそういう事がなかったが、カイやその上の男達はそんな時期があったように思う。
むしゃくしゃする気持ちを抑え、馬の様子を見に行く。馬は、二頭いなくなっている。今日は誰も遠乗りにいていないし、軽く遊ばせている訳でもない。
「あ、姉さま。さっきカイ兄さまが来て、借りるって言ってました」
近くにいたのか、ミサカがイブキに気付いて声をかけた。
「どこ行くとか言ってた?」
「いえ、でも、いい馬が必要だからって」
そう聞いて、今いる馬を確認した。都の姫君から貰った馬もいなくなっていた。
「あんの野郎……」
「あと、姉さま 」
「あねき!!姉貴!」
珍しくシュウの大声が広間の方で聞こえる。慌てて二人で見に行くとシュウが血まみれの女を抱えていた。シュウの声を聞いて、女達も出てくる。
「何事!?」
「下の村が襲われたんだって、一人で逃げてきたらしいけど、背中を切られている」
女達が慌てて手当ての準備をし始める。集会によく使う家に運んで、寝かせた。
シュウとイブキは外へ出る。
「付けられた様子は?」
「俺が見つけたとき、すぐ居なくなった」
「村は、西?南?」
「南、だから近い」
「しばらくは、奥だね」
「……役人を呼ぶ?」
「呼びたいのは山々だけど」
「だよね」
「下の所は、呼んでる様子は」
「間に合わなかったみたい」
思案するイブキを見て、シュウは躊躇うように口を開く。
「姉貴、都で鬼が人を攫う話しは知ってるよね」
「……ん、ああ、最近は酷いらしいけど」
「その鬼の中に、村の男達が入ってるかもしれない」
「……どこから?」
「薄々。……俺、誘われたんだ。随分前に」
その先を聞くべきなのだろうが、イブキは促すことができなかった。シュウも不安なのか、表情が陰っていくのが分る。
「今日中に聞く。見回ってくるから、あんたは皆に奥へ行くように」
「俺が見てくる」
視線を合わせると、力強く頷いた。
「俺が見てくる。姉貴は皆に伝えて」
「帰ってくるか?」
「帰ってくる」
「馬、連れてっていいよ」
「うん」
シュウは駆け出す。イブキはその背を見送ることしかできなかったが、カイや年上の男達が居なくなった分、イブキも心なしか頼っていたのだろう、不安はなかった。変に世話を焼いてもお互いに為にならないし、気を揉んでも始まらない。イブキも皆に伝えるために、村中の家々を回る。




